著者からひとこと

環境・エネルギー・資源戦略
新たな成長分野を切り拓く

編著者による紹介文(本書「はしがき」より)

今後の日本の産業・エネルギー政策のあり方について、環境を意識した新たな成長分野を切り拓く視点から具体的な政策提言を行う

現在の経済社会は極めて大きな転換期にある。2007年の世界金融危機に端を発する世界経済の収縮により、各国の経済は深刻な打撃を受け、経済の再構築が喫緊の政策課題となっている。今回の経済危機をいかに乗り越えるかで、日本経済の行く末が決まるといっても過言ではない。その大きな変化の1つとして環境への取り組みがある。たとえば、日米では政権が交代し、政策の大変革が観察・予想される。オバマ政権の「グリーン・ニューディール」や民主党政権の「2020年までに温暖化ガス25%削減」に代表されるように、積極的に環境技術の革新を支援している。さらに、2011年3月11日の東日本大震災後、政権与党となった自由民主党は、再生可能エネルギーの最大限の導入と省エネの最大限の推進を進めている。具体的には、スマートグリッドや燃料電池車などによる水素社会の実現が期待されている。技術のブレークスルーのためには、産業・企業間の高度な連携、開発の成果である知的財産権に関わる保護体制の構築などにおける政府のコーディネータとしての役割が極めて重要となる。このことは、環境政策が産業政策の1つとなっていることを示唆している。

本書の目的は、世界金融危機後に実施された日本を含む主要国における環境資源政策のパフォーマンス評価を行うと同時に、震災後ますます逼迫する世界のエネルギー需給の中で、環境を意識した今後の日本の産業・エネルギー政策のあり方について、新たな成長分野を切り拓く視点から具体的な政策提言を行うことである。

本書の意義は、環境政策の産業政策としての特徴を明確に考慮に入れて評価分析を行う点にある。グローバル競争の時代、市場間、産業間・産業内での相互作用は多面的であり、産業政策は当初予期せぬ効果を生みかねない。経済分析によって、相互作用を明確に考慮に入れた産業政策の総合的な評価分析が可能となる。政策提言の時機を失しないためにも早期に取り組むべき重要な研究で、世界金融危機後の持続可能な経済社会の構築に向けた政策のあり方を提示することが期待される。

その一方で、日本のエネルギー需給は、深刻な問題に直面している。東京電力と東北電力は、地震によって原子力を含む発電所が大きな被害を受け、計画停電に踏み切った。このような事態の中で、日本は今後どのようにして供給不足に対処し、エネルギー需給の安定化を図るべきだろうか。また、これまで実施または検討してきた地球温暖化対策については、現下の情勢を踏まえ、エネルギーの供給確保策としてどのように考えるべきだろうか検討する必要がある。

エネルギー供給については、再生可能エネルギーの導入は最大限進めるべきだが、どの程度可能か未だ理解が十分でない。新規の火力発電が必要な場合、中東情勢を含む国際エネルギー情勢を勘案すると、世界的に資源が豊富にある石炭火力についても考えるべきである。以上の問題認識に基づき、本書では、長期的に重要な地球温暖化対策を軸として、産業政策としての環境政策およびエネルギー政策の国民生活への影響、国内外の産業への影響、急速な成長を遂げてきたアジア諸国を中心とする世界の成長を日本の成長に取り込むという視点からの環境産業の育成・発展による財政への影響、環境への影響を評価分析して、ありうる政策の選択肢について分析を行う。

本書の内容は、独立行政法人経済産業研究所(RIETI)の研究プロジェクト「大震災後の環境・エネルギー・資源戦略に関わる経済分析」(研究期間2011年7月~2013年6月)の研究成果をまとめたものである。研究の機会を与えて下さった研究所の方々、特に大橋弘東京大学教授・RIETIプログラムディレクター、藤田昌久所長、森川正之副所長、金子実研究調整ディレクター、および小黒真理氏に感謝の意を表したい。研究の初期の段階でいろいろとご支援をいただいた中沢則夫氏、星野光秀氏および川本明氏に感謝申し上げたい。本書の研究成果は、定期的に開催した研究会にお越しいただいた多数の方々との議論に負う所大であり、ここに謝意を表したい。ご多忙の中、議論に付き合って頂いた経済産業省の産業技術環境局地球環境対策室、産業技術環境局環境ユニット環境政策課、製造産業局自動車課、資源エネルギー庁省エネ・新エネ部等の省庁の政策担当者の方々に厚くお礼申し上げたい。最後に、日本評論社の斎藤博氏には、本書の企画の段階から完成に至るまで、多大なサポートをしていただいた。ここに深く感謝の意を表しておきたい。

2013年7月

馬奈木 俊介

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