調査の目的と背景
わが国において、ワーク・ライフ・バランス社会の実現の必要性が高まっている。ワーク・ライフ・バランスの実現がなぜ必要か、ということに関しては、「ワーク・ライフ・バランス憲章」および「行動指針」策定の過程等で議論が収斂してきているが、そもそもワーク・ライフ・バランスを阻む要因は何か、どうすればワーク・ライフ・バランスが実現するのか、という点に関しては、いまだに抽象的な議論にとどまっていると思われる。
近年、EUや欧米諸国でもワーク・ライフ・バランスの必要性が指摘されており、各国の事情を背景に様々な対応が行われている。特に、欧米のワーク・ライフ・バランス施策では、「働き方の柔軟性の確保」という点が強調されるのに対して、日本におけるワーク・ライフ・バランスの議論では、「長時間労働の是正」や「休暇取得の促進」といった、「今ある過剰な働き方の見直し」という点も併せて強調されている。わが国のワーク・ライフ・バランスの議論は、欧米で議論されている「働き方の柔軟性の確保」に加えて、「働きすぎの是正」という二つの課題を解決しなければならないという点において、より難しい課題に直面しているといえる。さらに「正規-非正規の大きな処遇格差」という問題も、ワーク・ライフ・バランスを実現する上で解決が迫られている。
こうしたわが国の現状においてワーク・ライフ・バランスを実現するためには、国の政策を基本にしつつも、個別企業において施策や制度が導入・運用されることがきわめて重要であることから、個別企業や職場のレベルにおいてどのような施策や取組が有効であるのかを探るのが本研究の目的である。日本では、先進的な企業においても制度・施策の導入等にとどまり、それを実現するための職場レベルでの対応策に関しての情報はきわめて不十分である。また、企業レベルでの制度導入が必ずしも職場レベルまで浸透していなかったり、あるいは人事方針が職場の意識とずれている、そもそも施策の有効性を理解していない経営者も多く存在するなど、施策展開において様々な課題が指摘されてきた。諸外国の企業・従業員調査によるWLB施策の現状や課題を参照しながら、わが国における課題の整理と今後の方向性についての提案を行うため、調査を実施した。
調査概要
- 調査対象・対象者数
-
①日本:企業調査及び従業員調査
企業調査:従業員100人以上の企業10,000社
従業員調査:企業調査対象の企業各社10名②イギリス:企業調査及び従業員調査
企業調査:従業員250人以上の企業200社
従業員調査:従業員250人以上の企業の正社員③オランダ・スウェーデン:企業調査
企業調査:従業員250人以上の企業各100社 - 調査手法
-
①日本:企業調査及び従業員調査
郵送調査②イギリス:企業調査及び従業員調査
企業調査-電話調査
従業員調査-調査会社のモニターを対象とするWEB調査③オランダ・スウェーデン
電話調査 - 実施時期
-
①日本
平成21年(2009年)12月〜平成22年(2010年)1月②イギリス
企業調査:平成22年(2010年)2月〜6月
従業員調査:平成22年(2010年)7月③オランダ・スウェーデン
平成22年(2010年)2月〜6月 - 有効回答数
-
①日本
企業調査:1,677社
従業員調査:10,069人②イギリス
企業調査:202社
従業員調査:979人③オランダ・スウェーデン
企業調査:各100社 - 主な調査項目
-
①企業調査
A) 社員構成、企業概要、人事管理
B) 仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)への取り組み
C) 労働時間、給与
D) 非正規社員の活用② 従業員調査
A) 職場の状況
B) 仕事と生活の調和のための施策
C) 就労時間、勤務体系
D) 職場への満足度 - 調査票のダウンロード
-
1 企業調査 調査票(日本語版) [PDF:187KB]
2 企業調査 調査票(英語版) [PDF:212KB]
3 従業員調査 調査票(日本語版) [PDF:216KB]
4 従業員調査 調査票(英語版) [PDF:240KB]
関連リンク
- 2019年9月 19-J-052
「企業の異質性は男女所得格差にどのような影響を与えているのか―女性の就業企業選択は現在および将来男女賃金格差にどのような影響をおよぼすか」 (山口 一男) - 2014年10月 14-E-061
"Decomposition of Gender or Racial Inequality with Endogenous Intervening Covariates: An extension of the DiNardo-Fortin-Lemieux method" (YAMAGUCHI Kazuo) - 2014年9月 14-J-046
「ホワイトカラー正社員の男女の所得格差―格差を生む約80%の要因とメカニズムの解明」 (山口 一男) - 2014年5月 14-J-029
「中国・韓国企業における女性の活躍と収益・生産性・積極的雇用改善措置制度」 (石塚 浩美) - 2013年9月 13-J-069
「ホワイトカラー正社員の管理職割合の男女格差の決定要因―女性であることの不当な社会的不利益と、その解消施策について」 (山口 一男) - 2013年2月 13-J-004
「ワークライフバランスに対する賃金プレミアムの検証」(黒田 祥子、山本 勲) - 2013年1月 13-P-002
「女性活躍の推進と日本企業の機能不全脱却について」 (山口 一男) - 2011年10月 11-J-069
「労働生産性と男女共同参画―なぜ日本企業はダメなのか、女性人材活用を有効にするために企業は何をすべきか、国は何をすべきか」 (山口 一男) - 2011年3月 11-E-024
"Firm' demand for work hours: Evidence from multi-country and matched firm-worker data" (KURODA Sachiko and YAMAMOTO Isamu) - 2011年3月 11-J-040
「スウェーデンのワーク・ライフ・バランス - 柔軟性と自律性のある働き方の実践 -」 (高橋 美恵子) - 2011年3月 11-J-039
「英国におけるWLB〜国・企業の取組の現状と課題、日本への示唆〜」 (矢島 洋子) - 2011年3月 11-J-037
「労働時間と満足度―日英独の比較研究―」 (浅野 博勝、権丈 英子) - 2011年3月 11-J-033
「希望労働時間の国際比較:仮想質問による労働供給弾性値の計測」 (黒田 祥子、山本 勲) - 2011年3月 11-J-032
「ワーク・ライフ・バランス施策は企業の生産性を高めるか?― 企業パネルデータを用いたWLB施策とTFPの検証 ―」 (山本 勲、松浦 寿幸) - 2011年3月 11-J-031
「WLB施策が効果的に機能する人事管理:職場生産性への影響に関する国際比較」 (松原 光代) - 2011年3月 11-J-030
「オランダにおけるワーク・ライフ・バランス―労働時間と就業場所の柔軟性が高い社会―」 (権丈 英子) - 2011年3月 11-J-029
「働く人のワーク・ライフ・バランスを実現するための企業・職場の課題」 (武石 惠美子) - 2011年1月 11-P-004
「ワーク・ライフ・バランス実現への課題:国際比較調査からの示唆」 (武石 惠美子)