「地域経済」プログラムについて

プログラムディレクター

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浜口 伸明(プログラムディレクター・ファカルティフェロー)

情報通信・輸送技術が高度に発展した今日においても、経済活動は依然として距離の影響を受けており、経済は地域的な差異を伴って発展していく。日本の生活の豊かさをけん引する都市の集積の経済が重要である一方、それぞれの地方で固有の自然資源を基盤にした地域経済を維持し、全体として多様性があり、効率的、かつ持続的で強い経済を創り出すことが重要である。

しかし、現実はそのような理想と異なっている。日本の地域経済は東京一極集中と表裏一体で衰退傾向にある。東日本大震災の被災地では時計の針が一気に進んだ感さえある。地方から大都市への人口移動は少子化と高齢化の社会的背景ともなっている。

市場経済の下で形成されるこのような空間構造は頑強であり、日本経済の持続的発展のために、地方創生に向けた大都市と地方の経済活動のリバランシングを大胆に進める必要がある。大都市はイノベーションと新規事業の創出において、グローバル競争環境下で一国経済をけん引する役割を果たしている。しかしその一方で、地価の高さや通勤時間の長さなどに現れる集積の不経済は都市の成長を制約する要因となる。子育ての機会費用は高く、よりよいワーク・ライフ・バランスを保てるような支援策が求められている。都市と地方の厚生水準がともに改善するような地域政策と都市政策を一体的に考えなければならない。

地方創生に向けて、行政機能の分権化や本社機能の分散化の検討が進められている。地域政策・地域産業政策の立案・実施の枠組みとなる地理的範囲は通常市町村の境界よりも広いのだが、どのような連携を組むべきかについて、これまで合理的な枠組みはなかった。自治体の広域的連携を経済理論と整合的に進めるための統計指標の作成と、地理的パターン認識技術を開発する必要がある。

地域にあっても市場はグローバルであり、不足している資源は地域外から取り入れて、規模の経済を発揮しながら地域が豊富に持つ資源を最大限に活用する必要がある。日本経済が全体として工業化からサービス化に向かっている中で、地方においてもサービス産業の重要性は高まっており、サービスの移出で地方創生を実現し、サービス移出につながる人材誘致を地方移住との絡みで考察する。

地域の企業を育成する上で、地域金融機関はこれまで重要な役割を果たしてきた。地域金融を機能させるために、信用保証制度や公的資金注入を通じた金融機能強化が図られてきたところである。このような政策の評価を通じて、地域金融機関が地域経済に与える影響を分析する。また近年急速に進んでいる地域金融機関の経営統合などの組織再編が、金融機関のガバナンスや金融行動に与える影響についても分析する。

グローバル・バリューチェーンの強靭化とネットワークの「つながり力」を活用するインフラ整備についても、地域プログラムの研究成果が生かされる分野である。

国際的サプライチェーンの進化や人工知能やロボットの導入が進むことによって、雇用が奪われると警鐘が鳴らされている。労働集約的な生産活動を中心に行ってきた地方経済への影響を分析する必要がある。一方では、若者の人口流出と少子高齢化によって深刻になっている、地方の人手不足、自然地域資源管理、高齢化で急がれる伝統的技術の伝承、医療・介護サービスの維持等の諸問題の解決に向けて、新たな情報技術が活用される可能性があるともいえる。社会制度を再構築して新技術を積極的に活用する、攻めの地域政策についても考察する。