プログラム

「政策史・政策評価」プログラムについて

この研究プログラムは、2010年度までの第2期中期目標・計画期間(以下、第2期計画)で進められてきた通商産業政策史研究(1980-2000年)に関わる研究活動を総括しながら、通商産業政策の歴史的な研究と、そこから導き出されることが期待される政策評価の方法についての考察を行うことが目的である。

第2期計画のプログラムでは、対象となる20世紀末の20年間の通商産業省の組織編成に沿って、通商・貿易政策、産業政策、商務流通政策、立地・環境・保安政策、基礎産業政策、機械情報産業政策、生活産業政策、産業技術政策、資源エネルギー政策、知的財産政策、中小企業政策の11本の柱にしたがって、この時期の主要な政策がサーベイされ、具体的な政策の立案過程、立案を必要たらしめた産業・経済情勢、政策実施の過程、政策意図の実現の状況、政策実施後の産業・経済情勢等について検証し、可能な範囲で単なる歴史的な事実の記録にとどまらず、その評価も織り込みながらまとめられ、現在順次刊行されているところである。

このような作業を受けて振り返ってみると、20世紀末の20年間は、日本の経済社会にとって意味のある変化の時期であると同時に、通商産業政策にとってもきわめて大きな実質的かつ組織的な変化のときであったことを、改め痛感する。それ故、本研究では、世紀の転換期に訪れた通商産業政策の変化が、それまでの四半世紀の政策課題の認識やそれに対応した政策手段の選択、さらにはその結果に対する評価等にもとづいてどのようにもたらされたものかを明らかにしたいと考えている。

この大きな転換点について、一方では総論的に、この四半世紀に生じた国内のマクロ経済状況の変化、世界的規模の経済の国際化(グローバリゼーション)、市場の重視と財政再建、そして地球環境の維持保全に関する国際世論の高揚という4つの大きな変化に留意しながら、その1つの帰結点として1990年代に訪れた通産政策の転機の歴史的な意味を明確にしたい。

他方で、個別の政策領域についても、2000年までとそれ以後との連続面と断絶面を検証しながら、ここまでとりまとめられている研究成果を経済産業政策史につなげていく作業が必要となろう。第2期計画の通産政策史編纂事業でも、政策の立案過程や政策意図の実施による効果などを明確に把握し、これを評価することには固有の困難があり、当初の意図とは異なり、十分な記述が尽くせないことも少なくなかった。

すべからく評価すべきという時代ではあるが、結果について、政策との因果関係を確定することはそれほど容易ではない。そうした判定が求められることもあるだろうし、特定の政策が自己完結的に目的を達成したかどうかというかたちで論じうるケースがある一方で、政策的関与によって新しい問題が発見され、それに対する対処が求められることもあるだろう。そうした場合には、問題発見につながる政策検討は政策立案に関わる創造的な革新として評価することもできる。その意味では評価軸は多様に用意されなければならないということになる。

固有の困難には、記録文書が十分には整備されていないという通産省・経済産業省の「固有の文化」によると思われる側面もある。公文書に関わる法制度の整備が進んできたから、これからは状況は改善されるかもしれないが、そうした資料的な基礎を充実していくことは第一義的に重要と思われる。1990年代半ばに通産研究所がプロジェクトの1つとして取り組んだ「通商産業政策史研究」が、通産省の協力を得て直近の時代の資料を利用しながら残した2次資料としての研究成果が第2期計画の政策史編纂事業に大いに役立ったことを考えると、重要な政策課題について具体的な研究活動を介して資料整備を促すことも必要と考えている。