プログラム

「国際マクロ」プログラムについて

急速なグローバル化の進展のなかで、日本経済の成長エンジンが、これまでのような「ものづくり」の優位性と輸出であり続けるとは限らない。新興市場国の成長をいかに日本経済に取り込むのか、成長著しいアジアの隣国に囲まれた日本がバランスのとれた維持可能な成長を実現するためには何が必要となるのかを考えなくてはいけない。東日本大震災からの経済復興という、戦後最大の課題を突き付けられた今、日本のマクロ経済運営は困難を極めている。これからのマクロ経済政策は日本の国内要因のみならず、国際的な側面を意識しながら新たな制度作りを行っていくことが重要である。

「国際マクロ」プログラムでは、マクロ・ファイナンス、国際貿易とマクロ、国際金融、企業の為替リスク管理、コーポレート・ファイナンスなどにまたがる分野についてのプロジェクトの研究を進める。それぞれのプロジェクトの位置づけは下図のように表すことができる。

国際マクロプログラム:空間軸国際マクロプログラム:空間軸

まず、震災復興を目指す日本経済の国内要因を重視したプロジェクトとして、③マクロ経済政策では、日本の公的債務の安定化が経済復興を円滑に進めるためにも不可欠の条件と考え、財政再建と国債の保有主体として金融システムの関係について理論的分析を行う。④日本の長期デフレでは、長期デフレを単純な貨幣的現象と捉えるのではなく、経済の実物的な側面(長期にわたる実物経済の停滞)と深く関連する現象と捉え、実体面の変調と貨幣的側面の変調の相互連関を解明する。

国際的側面では、特に日本とアジアの関係を重視したプロジェクトとして①通貨バスケットと②パススルーがある。①通貨バスケットでは、2005年よりRIETIのウェブサイトで公表されているアジア通貨単位(AMU)及びAMU乖離指標を用いた域内為替レートの安定を引き続き提案するとともに、新国際通貨体制とアジアの通貨体制のあり方について研究する。②パススルーでは、パススルーとそれに密接に関係する貿易インボイス通貨選択に関する諸問題を、価格設定行動、為替リスク管理、生産・販売ネットワーク、企業競争力などの要因をキーワードとして、マクロ経済全体と企業レベルの双方の観点から分析する。

さらに、本年9月以降スタートするプロジェクトとして⑤世界貿易の落ち込みでは、2008/09年の景気後退期に世界経済が経験した貿易の落ち込み―いわゆるGreat Trade Collapse―が日本のマクロ経済に与えた影響について、サプライチェーンなどの構造変化に着目しながら分析する予定である。

以上のように、当プログラムでは国際マクロに関わる問題を様々なアプローチで分析するが、図のようにそれぞれのプロジェクトテーマは密接に関係している。すなわち、日本経済においては為替相場への影響も考慮しつつ財政再建や長期デフレ化からの脱却を図るマクロ経済政策、アジアにおいては共通バスケット通貨の役割など制度インフラの検討や、日本企業のサプライチェーンを意識したパススルーとインボイス通貨選択に関する諸問題の分析、世界経済においてはGreat Trade Collapseの中で新たな貿易・為替政策を提言するという空間軸の中で、それぞれの研究が進められる。したがって、必要に応じた各プロジェクト間の連携が重要となる。これはプログラム・ディレクターが目配りをしながら、行っていく。その他のRIETIプログラムとも連携して、研究成果の向上に努める。

日本企業は、為替レートの動向、国内の需給の動向、海外の需給の動向によって製品・サービスの価格付けをしているが、製品の競争力のあり方、輸出相手国、為替リスク管理体制の違いによって個々の対応も異なる。このような企業レベルのミクロデータの収集とその分析もプロジェクトに加えることで、より多角的に日本経済を捉え、マクロ経済政策に直結する研究を行う。