企業と投資家の対話促進

第2回:対話促進の必要条件:株主総会の分散開催と招集通知・議案の早期発送

宮島 英昭
ファカルティフェロー / 早稲田大学商学学術院教授 / WIAS

小川 亮
リサーチアシスタント / 早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程

2014年10月、経済産業省は「持続的成長に向けた企業と投資家の対話促進研究会」の分科会として「株主総会のあり方検討分科会」を立ち上げ、株主総会の分散開催と招集通知の早期発送を実現するための議論を重ねている。また、本年6月から施行される日本版コーポレートガバナンス・コードには、原則1-2(補充原則(3))として「上場会社は、株主との建設的な対話の充実や、そのための正確な情報提供等の観点を考慮し、株主総会開催日をはじめとする株主総会関連の日程の適切な設定を行うべきである」という項目が盛り込まれた。

よく知られているように、日本企業の株主総会は6月下旬のある特定の日に開催が集中し、投資家(特に、多数の銘柄を保有する機関投資家)から、議決権の行使にあたって、議案を検討・精査する十分な時間を確保できないという強い批判がある。

実際に、生命保険協会の投資家向けアンケートの回答結果からも、機関投資家が集中日を回避した株主総会の開催や招集通知の早期発送を切望していることが確認できる(注1)。一方で、現行の会社法上、株主総会は議決権の基準日から3カ月以内に開催しなければならず、また、株主総会の招集通知は株主総会の2週間前(正確には中14日)に送付しなければならない。決算や監査に要する時間など企業側の負担を考慮すれば、株主総会が6月下旬に開催され、招集通知の発送がその2-3週間前になることは避けられない。上記の分科会の目的は、現行制度の再検討によってこれらの問題を解決し、企業と投資家の対話を促進させることにある。

まず、具体的な数値から、株主総会の現状を確認しておこう。最近30年間の株主総会の集中開催の推移を示した図1によれば、集中率は1985年にすでに80%を超え、1996年にピークを迎えて96.2%を記録した。その後、機関投資家の保有比率が急速に上昇するのと並行して、ほぼ一貫して低下の一途をたどり、2006年には60%を、2010年には50%を、直近の2014年には40%を初めて下回った。

図1:上場企業は各ステークホルダーの利益をどの程度重視しているか
図1:上場企業は各ステークホルダーの利益をどの程度重視しているか
(注)データは商事法務研究会『株主総会白書』より取得した。サンプルは、全国証券取引所(除く新興市場)に上場する企業のうち、株主総会を6月に開催する企業である。集中率は、株主総会を6月に開催する企業のうち、集中開催日に開催する企業の割合である。

次に、いずれも株主総会の集中開催日が6月27日であった1996年、2002年、2008年、2014年を取り上げ、日経500採用企業を対象に、もう少し詳しく分布を確認しておくと、図2から、かつて株主総会を集中日に開催していた企業が、徐々に集中日の1-3日前に開催するようになり、2008年、2014年には集中日の1週間前に開催する企業も増加していることがわかる。直近の2014年では、集中日の前日に19.0%、2日前に14.1%、3日前に9.9%、1週間前に9.6%の企業が株主総会を開催している。

図2:株主総会開催日の分布
図2:株主総会開催日の分布
(注)データは商事法務研究会『株主総会白書』より取得した。サンプルは、日経500採用企業(除く金融業)のうち、株主総会を6月に開催する企業(約380社)である。

さらに、招集通知発送日の分布を確認すると(図3)、1996年には62.6%の企業が株主総会の15日前に、30.9%が16日前に、5.6%が17日前に招集通知を発送していた。既述の通り、会社法上、招集通知の発送は株主総会の開催日から中14日以上確保しなければならないとされているから、ほぼすべての企業が法定間際に発送していたことになる。しかし、2002年には招集通知発送の早期化傾向が確認できるようになり、15-17日前に発送する企業は60%を下回り、22日(中3週間)以上前に発送する企業は18%まで増加した。さらに、2008年以降は早期化傾向が強まり、直近の2014年では、15-17日前に発送する企業は13%まで低下し、22日以上前に発送する企業は57%と半数を超えている。

図3:招集通知発送日の分布
図3:招集通知発送日の分布
(注)データは商事法務研究会『株主総会白書』より取得した。サンプルは、日経500採用企業(除く金融業)のうち、株主総会を6月に開催する企業(約380社)である。

では、どのような企業が株主総会の集中日開催を回避し、招集通知を早期発送するようになったのだろうか。そこで我々は、株主総会の集中日開催の回避と招集通知の早期発送の決定要因について計量分析を試みた。注目する説明変数は、企業の所有構造(機関投資家保有比率と安定株主保有比率)、企業が市場からどのような評価を受けているか(過小評価されているか、過大評価されているか)、企業業績(産業調整済みのEBITDAと株価リターン)である(注2)。サンプルは、日経500採用企業の2008年6月から2014年6月の株主総会である。

分析の結果、第1に、業績が悪い企業ほど、株主総会の集中日開催あるいは招集通知の間際発送を選択するという可能性が想定されるが、この見方は支持されず、業績が悪い企業が投資家との実質的な議論を避けようとする傾向は確認できなかった。

第2に、機関投資家保有比率が高い企業ほど、招集通知を早期に発送する傾向がある。これは、機関投資家保有比率の高い企業ほど、招集通知の早期発送を求める圧力が強く、企業がその要求に応えているという直感的な理解と合致している。一方で、機関投資家持株比率の高低は、企業の株主総会開催日の決定(集中日に開催するかどうか)に有意な影響を与えていない。そもそも機関投資家はすべての企業の株主総会に出席する意思は持ち合わせておらず、集中日の回避よりは招集通知の早期発送を強く求めていることが窺える(注3)。

最後に、興味深いことに、市場から過小評価されている企業ほど集中日を回避する、あるいは招集通知を早期に発送する傾向があることがわかった。これは、市場から過小評価されている企業(経営者)が、株主総会を積極的に利用して、投資家との対話を通じて過小評価を解消させようとしていると解釈できる。つまり、企業側が投資家との対話を求めている証拠である。

「株主総会のあり方検討分科会」委員の田中氏によれば、現行の会社法上、株主総会を決算期から3カ月以内に開催しなければならないという規制はなく、現在、株主総会が決算期から3カ月以内に開催されているのは、企業が議決権の基準日を決算日に設定しているからである。しかも、議決権の基準日を決算日としなければならないという規制もない。企業の定款変更によって議決権の基準日を既定よりも1ヵ月ほど遅らせれば、株主総会の開催時期も同様に1カ月の猶予ができ、株主総会の分散開催と招集通知の早期発送が可能となるという(注4)。しかも、ここでの分析結果は、投資家だけでなく、市場によって的確に評価されていない(過少に評価されている)一部の企業も自ら投資家との対話を求めていることを示唆している。株主総会の分散開催と招集通知の早期発送が可能となれば、投資家が議案の検討・精査の時間を確保することができ、企業と投資家との対話の質の向上に寄与すると考えられる。議案の早期発送は、企業と投資家の対話の必要条件であり、それを可能とする制度整備が早急に実現されることが望まれる。

2015年6月11日
脚注
  1. ^ アンケート結果の詳細については、http://www.seiho.or.jp/info/news/2013/0315-2.htmlを参照。
  2. ^ 被説明変数には、株主総会を集中日に開催する場合に1、回避する場合に0をとるダミー変数と、株主総会開催日から招集通知発送日までの日数を用いている。説明変数に含まれるその他のコントロール変数は、企業規模、負債比率、現預金比率、設備投資比率、R&D投資比率、海外売上高比率、議案ダミー(定款変更、取締役選任、監査役選任、退職慰労金支給、役員報酬改定、敵対的買収防衛策)、開催場所ダミーである。
  3. ^ 別の分析では、1996年から2014年にかけて、機関投資家保有比率が高い企業ほど、早期に株主総会の集中日開催を回避し、招集通知を22日(中3週間)以上前に発送するようになったことが確認されている。
  4. ^ 分科会での議論の詳細については、http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/kabunushi_soukai/006_haifu.htmlを参照。分科会の資料によれば、招集通知発送日から株主総会開催日までの期間は、米国では10日以上60日以内(デラウェア州法)、カナダでは21日以上60日以内、英国では21日以上、ドイツでは30日以上と規定されている。また、議決権の基準日と同様に、配当の基準日についても、決算日に設定する必要はない。
文献
  • 田中亘(2007)「定時株主総会はなぜ六月開催なのか」黒沼悦郎・藤田友敬編『江頭憲治郎先生還暦記念・企業法の理論(上)』商事法務研究会、415-497頁。

2015年6月11日掲載

この著者の記事