日本企業のパフォーマンスはなぜ低いのか?

齋藤 卓爾 慶應義塾大学大学院経営管理研究科

RIETIの「企業統治分析のフロンティア」分析研究グループの成果として、『企業統治制度改革と日本企業の成長』が出版される予定です。
そこで各章の内容に関するコラムを連載していきます。

本コラムでは『企業統治制度改革と日本企業の成長』の第12章「日本企業の低パフォーマンスの要因:国際比較による検証」(井上光太郎(東京工業大学・教授)・蟻川靖浩(早稲田大学・准教授)・長尾耀平(東京工業大学・大学院生)との共著)を紹介する。

近年、日本企業の収益性の低さが大きな問題となっている。図1は本研究で用いた全世界の2012年度決算において売上高30億米ドル(1ドル=100円換算で3,000億円相当)以上の企業の国別のROAの平均値を高い順に並べている。図が示すように日本の平均利益率は主要国で最も低い値となっている。このような姿は業績指標として売上利益率、ROEやトービンのqを用いても変わらない。

図1:ROA (EBITDA/総資産) の国際比較
図1:ROA (EBITDA/総資産) の国際比較

近年、コーポレートガバナンスに関する法制度や雇用制度などが企業業績や金融市場の発展とどう関係しているのかをめぐる国際比較研究が進展している。本章ではこれらの研究成果に基づいて、なぜ日本企業の収益性がこのように低いのかを明らかにすることを目指した。

まず日本企業の低収益性は、日本企業がリスクを積極的にとって成長投資を行っていないためとの指摘もあるが、本当だろうか。これを検証するために過去の業績に基づいてリスクテイク指標を作成し、利益率との関係を検証した。図2は国ごとのこのリスクテイクとROAの平均値の関係をプロットしている。図の回帰線が示すように収益率が高い国では、リスクテイクも高い傾向があり、両者の相関係数は0.42であった。すなわち、高収益を上げるためには相応のリスクテイクが必要なのである。日本はリスクテイクについても主要国で最も低い値となっているが、回帰線の下方に位置し、そのリスクテイクに見合う収益性も上げられていないのが現状である。

図2:リスクテイクとROAの関係
図2:リスクテイクとROAの関係
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日本企業の低収益性の原因として、頻繁にあげられているのがコーポレートガバナンスの問題である。実際、日本政府もそのような問題認識に基づいて、近年スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの導入、上場企業については2名以上の社外取締役の導入の推奨などコーポレートガバナンスの強化に取り組んでいる。本章では少数株主の法的保護の水準、機関投資家持株比率、社外取締役比率に注目し、これらが日本企業の低収益性の原因なのかを分析した。少数株主保護は各国の法制度に基づく少数株主と取締役会のパワーバランスを示しており、少数株主保護が手厚いほど、株主の影響力が強いことを意味し、La Porta et al. (2002)は少数株主の法的保護を強めることは、その国の企業の企業価値にプラスに働くことを報告している。機関投資家については、多くの先行研究(たとえば、Aggarwal et al., 2011)がコーポレートガバナンスや企業業績にポジティブな影響をもたらしていることを報告している。社外取締役に関しては『企業統治制度改革と日本企業の成長』の第9章「企業統治制度の変容と経営者の交代」(齋藤・宮島・小川)でも述べられているように、コーポレートガバナンスにプラスの影響をもたらしていることが国際的に報告されている。

以上に加えてコーポレートガバナンスそして企業業績に影響を与えていると考えられるのが雇用制度である。不採算事業の整理やM&Aによる事業ポートフォリオの再構築を通した価値創造には、余剰人員の整理や再配置は避けて通れないが、従業員保護が強い場合、このようなことが行えなくなるからである。Botero et al. (2004) は85カ国のデータを用いて、従業員保護の規制が厳しくなるほど、従業員給与に正の影響を持つが、若年層の失業率が上昇することを示している。これは、従業員の雇用の法的保護が、既存の従業員には有利に働くが、雇用そのものを縮小させる潜在性を持つことを意味している。Caballero et al. (2013) は、60カ国のデータを用いて労働保護規制の強さと、各国企業の雇用の調整速度および生産性の関係について分析している。そして、経済ショック発生後の雇用の調整速度は、規制の弱い国のほうが相対的に早いことを明らかにしている。

本章では以上の要因が日本企業の低収益性の原因なのかを全世界約1500社のデータを用いて計量的に分析した。その結果、社外取締役比率、雇用調整の柔軟度によって日本企業の低収益性を部分的に説明できることが明らかとなった。すなわち、日本企業の収益性は、社外取締役比率の低さに代表されるコーポレートガバナンスの問題、景気変動、M&A、ビジネスの変化に応じて雇用を柔軟に調整するのが難しいことによって低下しているのである。

しかし、コーポレートガバナンス構造と雇用制度のみでは、日本企業の低収益性を完全に説明することはできなかった。そこで我々は追加的な分析を行い、経営者の態度も日本企業の低収益性を説明する一因であることを本章で明らかにしている。

参考文献
  • Aggarwal, R., Erel, I., Ferreira, M., and Matos, P., 2011. Does governance travel around the world? Evidence from institutional investors. Journal of Financial Economics 100, 154-182.
  • Botero, J.,C., Djankov, S., La Porta, R., Lopez-de-Silianes, F., and Shleifer, A., 2004. The regulation of labor. Quarterly Journal of Economics 119, 1339-1382.
  • Caballero, R., Cowan, K., Engel, E., and Micco, A., 2013. Effective labor regulation and microeconomic flexibility. Journal of Development Economics 101, 92-104.
  • La Porta, R., Lopez-de-Silanes, F., and Shleifer, A., 2002. Investor protection and corporate valuation. Journal of Finance 57, 1147-1170.

2016年9月23日掲載

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