ガバナンス改革は企業不祥事を抑制するのか?

青木 英孝 中央大学総合政策学部准教授

RIETIの「企業統治分析のフロンティア」分析研究グループの成果として、『企業統治制度改革と日本企業の成長』が出版される予定です。
そこで各章の内容に関するコラムを連載していきます。

企業不祥事の発生とコーポレート・ガバナンス改革

企業のガバナンス改革は不祥事の抑制に効果があるのだろうか。この問題意識の背景には、近年も続発する企業不祥事の再発防止策として、度々企業のガバナンス改革が実施されてきたという事実がある。実際に、米国のエンロン事件後、日本では金融商品取引法や日本版SOX法によって内部統制の整備やチェック・システムの強化が進められ、2011年にオリンパスで粉飾決算が発覚した際にも、上場企業に対する社外取締役の義務付けが議論された。そして、コーポレート・ガバナンス元年とも称される2015年には、コンプライ・オア・エクスプレイン・ルールによって社外取締役の設置を強く推奨する会社法の改正が施行され、少なくとも2名以上の独立社外取締役の選任を求めるなどのコーポレートガバナンス・コードが上場規則として施行されるに至った。それでも皮肉なことに、2015年には東芝で不正会計問題が発覚し、世間は大きなショックを受けた。なぜならば、2003年に委員会設置会社に移行し、監査委員会に3人、全体でも取締役16人中4人の社外取締役がいたガバナンス優等生の東芝でさえ、粉飾決算を防止できなかったからである。そして今年も三菱自動車とスズキで燃費不正問題が発覚した。このように企業のガバナンス改革は着実に進んでいるにもかかわらず、一向に企業不祥事はなくならないのである。

企業不祥事は原因も種類も多様である

ガバナンス改革が進んでも不祥事がなくならないのは別に驚くことではなく、ある意味当たり前のことである。なぜならば、第1に、企業不祥事の原因は何もコーポレート・ガバナンスだけではないからである。企業不祥事の原因は、企業に対する監視や内部統制の機能不全といったガバナンス要因だけでなく、根本的には経営者や従業員など、組織で働く人々の倫理の欠如や認識の甘さ、あるいは組織内のコミュニケーション問題や組織風土など、実にさまざまである。第2に、企業不祥事の種類もまたさまざまであるからである。たとえば、不正会計問題が発覚した東芝では、第三者委員会による調査報告書で、再発防止策として社外取締役の強化が提言されている。不祥事の種類が会計不正のため、会計の専門知識を有する社外取締役の増強が図られている。しかし、仮に社外取締役を補強しても、その対策が有効に機能する不祥事とそうでない不祥事があるのではないだろうか。たとえば、阪神阪急ホテルズから多くの主要ホテルに飛び火したレストランの食品偽装問題や、タカタ社製のエアバッグのリコール問題、あるいは東洋ゴム工業の免震ゴム実験データ改竄問題や、旭化成建材のマンション基礎杭データの改竄問題などは、社外取締役を導入してもその防止には限界があるのではないだろうか。そもそも隠蔽や偽装など、企業が意図的に行っているような不正を、内部者よりも情報劣位にある社外取締役が見つけ出すことはできるのだろうか。また、リコールなどの製品不具合の防止に、社外取締役の監視がどれほど有効なのだろうか。このように、複数の原因と複数の種類がある企業不祥事の問題を一緒くたにまとめて議論すると焦点がぼやけてしまう恐れがある。

コーポレート・ガバナンスと会計不正

そこで本研究では、不祥事の一因であるコーポレート・ガバナンスと、不祥事の一種である会計不正の関係に着目する。企業不祥事の研究には、個別ケースの事例分析、類型化を試みた研究、原因や予防に関するアンケート調査、組織の失敗学、倫理規範を強調する研究など、実にさまざまなアプローチがある。しかし、実は日本では、企業不祥事を定量的に分析した研究の蓄積が進んでいない。不祥事の背景には各社に固有の事情があり、この特異性が定性的な分析にフィットするからであろう。そこで本研究では、2009年度から2013年度の上場企業(非金融事業法人)を対象に、企業のガバナンス要因が会計不正の発生確率に与える影響を定量的に検証した。基本的には、ガバナンスを改革して経営に対するモニタリングを厳格にし、経営者のインセンティブを強化すれば、会計不正に対する経営者の意識が改革され、不正防止に向けた努力水準が上昇し、会計不正の抑止につながるのではないかという可能性をテストした。

まず、会計不正の概要を整理しておこう。図は、会計不正がマスコミ等で報道されて発覚した際の情報から、不正金額が判明しているケースの度数を整理したものである。第1に、節税目的などで実際よりも内容を悪く見せる申告漏れや所得隠し等の件数が104件で、利益の水増しなど実際よりも内容を良く見せるいわゆる粉飾決算の80件よりも多い。第2に、申告漏れ等も粉飾決算も10億円未満が最多であるが、他方で100億円超の巨額不正も存在することが分かる。

図:会計不正の金額の分布
図:会計不正の金額の分布

分析結果とインプリケーション

この会計不正に関しては、発生と発覚を区別することが重要である。本研究では、財務諸表等に虚偽記載がなされたことを会計不正の"発生"、新聞等で公表されたことを会計不正の"発覚"として区別する。研究目的は、特定のガバナンス特性が会計不正を抑止するのかを検証することであるから、会計不正の"発覚"ではなく"発生"が問題になる。

分析の結果、企業ガバナンスは確かに会計不正に影響していることがわかった。会計専門の社外取締役が多いほど会計不正の発生確率は低くなり、逆に、経営者持株比率が高いほど会計不正の発生確率は増加する。また、安定株主持株比率が高いほど会計不正の発生確率は低いことも確認された。会計不正を粉飾決算に限定した場合は、執行役員制度の導入が粉飾決算の発生確率を低めること、ストック・オプションや経営者持株は粉飾決算の発生確率を高めること、安定株主の持株比率が高いほど粉飾決算の発生確率が低いことが確認された。また、会計不正を申告漏れ等に限定した場合は、会計専門の社外取締役が申告漏れ等を抑止すること、ストック・オプションを導入している企業ほど申告漏れ等の発生確率が低いこと、外国人株主の存在が申告漏れ等の発生確率を高めることが確認された。

分析結果からは次の3つの示唆が得られる。第1に、経営に対するモニタリング機能の強化を図るというガバナンス改革の方向性は間違いではない。ただし、会計の専門知識をもつ社外取締役が会計不正の抑止に寄与することが示されたように、今後は社外取締役の中身や質を十分検討する必要がある。第2に、経営者インセンティブの強化は不正防止に一定の効果をもつが、インセンティブを単純に強化すれば良いものでもないことも同時に示された。強いインセンティブが会計不正の誘発リスクを伴うという意味で、インセンティブの歪みに配慮が必要である。リスクテイクを促すと同時に会計不正の予防意識も高めるような制度設計の工夫が重要だろう。第3に、もの言う株主は諸刃の剣である一方、安定株主は明確な会計不正の抑止効果をもつことが示された。外国人株主や機関投資家は、粉飾決算を抑止する規律づけ効果をもつ一方、申告漏れ等を誘発するという意味で過度の利益圧力にもなる。他方、安定株主の持株比率が高いほど会計不正、特に粉飾決算の発生確率が低いという関係は明白であるが、発言も退出もしない安定株主が積極的な規律づけにコミットするとは考えにくい。会計不正という愚かな行為の自制に関しては、無理な会計処理をする必要がないことや大切なパートナーに迷惑をかけてはいけないという心理が、意外にも大きな意味をもつのかもしれない。

2016年9月13日掲載

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