企業統治制度の変化が経営者交代に与えた影響

齋藤 卓爾 慶應義塾大学大学院経営管理研究科

RIETIの「企業統治分析のフロンティア」分析研究グループの成果として、『企業統治制度改革と日本企業の成長』が出版される予定です。
そこで各章の内容に関するコラムを連載していきます。

本コラムでは『企業統治制度改革と日本企業の成長』の第9章「企業統治制度の変容と経営者の交代」(宮島英昭(早稲田大学・教授)・小川亮(早稲田大学・助手)との共著)を紹介する。

バブル崩壊以降、日本企業のコーポレートガバナンスを取り巻く状況は大きく変化した。株式相互持合いの解消、機関投資家、特に海外機関投資家の保有比率の急速な増加など、株式所有構造が大きく変化する一方、これまでの日本企業のコーポレートガバナンスを特徴づけていたメインバンクシステムが後退した。また、かつて経営と監督の組織的未分離、多人数かつもっぱら内部昇進者から構成された日本企業の取締役会は、この20年間を経て、経営と監督の組織的分離、取締役会規模の縮小、独立社外取締役の選任が徐々に進展した。第9章は、こうした企業統治制度の変化が経営者交代にどのような影響を与えたのかを明らかにすることを目指している。

なぜ経営者交代に注目するのだろうか? それは業績を悪化させるなどした経営者を解任し、新たな経営者に経営を託せることがコーポレートガバナンスの必須条件であるからである。コーポレートガバナンスとはいかにして経営者を規律づけるか、ということである。経営者を規律づけるためには、役員報酬やストックオプションを付与することにより業績に応じた「飴」を与えることも重要であるが、「鞭」として業績が悪化した際に経営者に責任をとらせることも欠かせないのである。つまり業績が悪化した際に経営者の交代が起きているかどうかが、コーポレートガバナンスが機能しているのか、していないのかを判断する1つの目安なのである。本研究では1990年以降の企業統治制度の変化が業績と経営者交代の関係にどのような影響を与えたのかを分析することにより、コーポレートガバナンスが変化したのかを検証しようとしたのである。

以下では簡単に得られた結果をまとめる。1990年以降、日本の経営者の交代頻度は上昇していた。1990〜2013年の経営者の平均交代確率は14.9%であったが、1990〜97年が13.5%、1998〜2005年が15.8%、2006〜2013年が15.2%であった。図1は交代確率の推移を図示している。

図1:経営者交代確率の推移
図1:経営者交代確率の推移

経営者交代の決定要因を計量的に分析すると、どの年代においても業績は経営者交代確率に有意にネガティブな影響を及ぼしており、業績の悪化した企業で経営者交代がシステマチックに発生する関係がこの24年間に失われたわけではなかった。むしろ、この間の最大の変化は経営者交代に影響を及ぼす業績指標が、これまでの金利支払い前の指標ROAから、株主利益に直接関連するROEや株式リターンに移動したことである。図2は1標準偏差、各業績が悪化した際に経営者が解任される確率の増分を示している。この結果は、株式相互持合いの解消、海外機関投資家の保有比率の上昇、取締役会改革の進展といった企業統治制度の進化と整合的と考えられる。

図2:1標準偏差業績が悪化した際の解任確率の増分
図2:1標準偏差業績が悪化した際の解任確率の増分

そこで実際に海外機関投資家や独立社外取締役は経営者交代に影響を与えているのかを検証した。分析結果は、海外機関投資家の持株比率が高く、とくに3%以上のブロックホルダーが存在している企業ほど、業績、主にROE悪化時に経営者が交代させられる確率が高いというものであった。この結果は、海外機関投資家がメインバンク制に代替して、経営の規律付けのメカニズムとして機能し始めたことを示していると見ることができよう。

独立社外取締役に関しては、経営者交代の業績感応度を引き上げるには、複数選任が重要であるという結果が得られた。独立社外取締役の人数が1人か2人の企業では、全員が社内取締役である企業と、業績悪化時に経営者が交代させられる確率は変わらないもしくは、むしろ確率が低くなっている一方で、独立社外取締役を三人以上任命している企業では交代確率が有意に高くなっていた。この結果は、独立社外取締役が経営者交代に影響を与えていることを示すと同時に、経営者の交代に対して実質的な効果を与えるためには、少なくとも3人以上の独立社外取締役の任命が必要であることを示唆していると考えられる。

では従来のメインバンクシステムは近年、経営を規律づける機能を失ったのかというと、そうではなかった。メインバンクは、その機能する領域が大きく縮小したものの、負債依存度が高く、メインバンクが役員を派遣している企業では、そうでない企業よりも業績悪化時に経営者が交代させられる確率は有意に高く、近年でも一定の経営に対する規律づけの役割を演じていることを示していた。

このように近年の経営者交代と企業業績の関係は明らかに1997年以前と比べ変化した。しかし、大きく変化したとはいえ、最近の日本企業の経営者交代が、株主価値に直接反映する指標(株式リターン)に強く感応的となったわけではなく、状況は、かつての日本企業と、米国企業の中間にあるとみることが適切であろう。こうした状況が、米国型の企業統治に向かう収斂過程における経過的な関係なのか、それとも安定的な関係なのかは、今後の事態の進展を注意深く観察しながら、立ち入って検討する必要があろう。

2016年8月24日掲載

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