インセンティブ構造としての『企業法』

研究プロジェクトの概要

1.研究プロジェクトの視点

企業活動は、物的資本の拠出者(株主・債権者)が提供する資金を、人的資本の拠出者(経営者・従業員)が運用して、付加価値をあげ、それを、各資本の拠出者間で分配するものである。これら四当事者は、企業活動に不可欠な資源の提供者であり、かつ、企業活動の果実の分配に与る者であるが、各資源の拠出者がその拠出を躊躇すると、企業活動は成功し得ないので、四当事者は、各自の利益を最大化するために、他の資源の提供者との間で動機付け交渉を行う必要がある。

これら四当事者は、企業活動が成功することに共通の利益を有しているものの、類型的な利害対立関係にあり、各当事者は、その資源を拠出するに当たって、他の当事者の機会主義的な行動によって、提供した資源が無駄にされるのではないか、あるいは、企業活動の果実が生じても搾取されるのではないか、という不安を抱くことになる。このような不安を放置すると、各自の資源を拠出するインセンティブが阻害されてしまうので、各当事者は、自らの不安を緩和するとともに、他の当事者の不安をも緩和し、さらに、積極的なインセンティブを付与し合う必要がある。

以上のような、企業活動を4プレーヤー間の動機付けゲームとして分析する場合、果実(付加価値)の分配交渉において、政府の取り分(租税)は所与として議論されているが、政府を企業の動機付けゲームの5番目のプレーヤーとして加えるとどうなるであろうか。
政府は、他の4プレーヤー同様、企業活動に必須の資源(企業活動に必要な種々のインフラ)の提供者であると同時に、ペイオフ(租税収入)を最大化する利益を有している。自らの利益を最大化するために、他の4プレーヤーと動機付け交渉を行い、また、他の4プレーヤーも、それぞれの利益を最大化すべく、政府と動機付け交渉を行うことになる。

法制度は、企業活動に不可欠な資源の提供者間の動機付け交渉に影響を与える重要な外生的要因の1つである。本プロジェクトでは、このような動機付け交渉に影響を与えうる法制度を、広く「企業法」と呼ぶこととする。具体的には、会社法、金融商品取引法、倒産法、労働法、租税法等を当面の検討対象とする。

2.研究方法

各分野の専門家(研究体制の研究協力者一覧参照)に、企業活動に不可欠な資源の拠出者のインセンティブに影響を与え得る法制度をあげてもらい、各論的なブレーン・ストーミングを積み重ねる。他の分野の専門家からのコメントをもとに論争を試みることで、異なった法分野間の相関関係を浮き彫りにする。

初年度は、以上のような議論の積み重ねを中心に、全体としての「企業法」を書いてみる作業を行うが、翌年度以降は、アンケート調査や実証研究の可能性も視野に入れながら、規範的な提言に結びつく議論も行う予定である。