コラム

雇用の非正規化・長時間労働の原因探れ

川口 大司
RIETIファカルティフェロー

先に発表された2008年12月の労働力調査の結果によれば、失業率は季節調整済み値で4.4%と前月の3.9%より0.5ポイント増加した。もっとも原数値は3.9%から4.1%への増加であり、たぶんに季節調整の効果が出ているという機械的な面がある点には注意が必要であろうが、雇用情勢の悪化は目を覆うべくもない。

特に製造業における派遣労働者の契約不更新や契約期間満了前の契約打ち切りが急速に行われつつあり、厚生労働省は2月4日の現在、春までに職を失う非正社員がおよそ12万5000人に及ぶだろうと見通している。底が見えない景気悪化の影響から、今後の雇用情勢についても先行きは決して楽観できない。

あたかも雇用の非正規化が今回の問題の原因であるかに語られる場合があるが、まず考えるべきなのは雇用の非正規化の原因である。非正規雇用には派遣労働者、請負工、直接雇用のパートや期間工などいくつかの雇用区分があるが、長期にわたる雇用の保証が得られないという点では共通しているので非正規雇用全般の動向を調べると、非正規労働者の比率は長期的なトレンドとともに増加してきた。一部で語られている規制緩和が非正規雇用の拡大原因だという説は原因と結果を取り違えており、現実に合わせて法的な枠組みが後追いでついてきたというのが実態ではないだろうか。

ではいったい雇用が不安定化した原因はなんだろうか。プリンストン大学のファーバー教授は経済のグローバル化にその原因を求める。日米の企業は共通してグローバル化の影響により、将来の製品需要の不確実性に直面するようになったという仮定から議論を出発させる。売り上げの増減に対応するために企業は雇用調整を行うが、米国では一般労働者の解雇が比較的容易なため彼らはレイオフされる。結果として、一般労働者の年齢階層ごとの平均勤続年数が低下したことを発見している。その一方で日本では一般労働者の解雇は容易ではないため、配置転換、出向、非正規労働者の雇い入れという形で不確実性への対応を行ってきたことを発見している。日米の企業が同じ経済環境に直面しているものの、それぞれの歴史・制度に依存する形で違う調整が行われたのだとする彼の指摘は大変興味深い。

今回の日本における雇用調整が激しく進んでいるのが、自動車や電器といった輸出に大きく依存した産業であることを考えると、企業は規模はともあれ、いずれこのような日がやってくると考え、雇用を非正規化して労働者の固定費化を回避してきたと考えられる。とすると、派遣労働の禁止という法的対応をとったとしても派遣労働者から請負工やパート・期間工への転換が進むだけで不安定雇用そのものは解消しないと予想される。

グローバル化に代表される将来の製品需要の不確実性の増大は、最適労働量の将来見通しを難しくすることを通じて、正規雇用の固定費としての側面を際立たせることになった。仮に正規労働者を雇うことを長期にわたりコミットしたとしても、安定的な将来需要が見通せる世界においては、固定費としての側面を強く持たない。正規雇用の固定費としての側面が強くなるにつれて可変的に労働投入を変化させることができる非正規雇用の魅力は企業にとって増すことになった可能性がある。これは不確実性が増す経済環境の中で企業が生産設備をリースにより調達し、生産設備を固定費から可変費に変化させようと努力してきた歴史と軌を一にしているともいえる。一方で大きな固定費を払った以上、正社員には長時間労働をさせることが合理的である。以上はいまだ仮説の域を出ず、厳密な検証を必要とするが、非正規雇用の増加・リース契約の増加・正規従業員の長時間労働化といった経済現象を不確実性の増大によって説明できる点において、1つの有力な仮説なのではないかと私は考えている。

セーフティーネットからこぼれおちた人々に緊急避難的な政策対応をすることはもちろんだが、中長期的には正規従業員の固定費部分を減少させるような労働政策が雇用の非正規化・正規労働者の長時間労働を解消するためには必要となるかもしれない。

2009年2月23日

2009年2月23日掲載

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