コラム

014: 日本型の企業の社会的責任と社会的責任投資とは

Arif ZAMAN
ヘンリー・マネージメント・カレッジ研究員

東京電力、パルマラット、エンロン。これらの社名が今や企業による無責任さと同義語となっていることに異議を唱える経営者はいないだろう。事実、特に財界、行政部門、マスコミ、圧力団体にとって、「信頼性」はおそらく今最も差し迫った世界的に重要な課題である。それは2003年1月のダボス経済サミットでも重要課題であったし、また、政府のビジネス政策とその政策の実行にあたって、顧客や従業員や株主、そして地域社会からの信頼を得ることが幅広い文脈において重要視されていることからもうかがえる。企業の社会的責任と社会的責任投資は、その活動を広範な社会の期待に沿うものにする機会を提供する。しかしながら、それは表面的なものにとどまり、経済活動に浸透していないという見解もいまだ存在する。企業の社会的責任(corporate social responsibility, 略してCSR)とは、広範囲の情報開示と透明性を特徴とする商慣習を意味する。そこで企業は従業員や地域社会、環境に関して、進んで倫理的責任を果たすのである。そして企業は長期的な株主利益の維持だけを追求するのではなく、持続可能な社会的貢献をすることが重視される。社会的責任投資(socially responsible investment, 略してSRI)とは従来の財務指標に加え、安定した配当を見込みつつ、法の遵守や雇用慣行、人権の尊重、消費者の問題、社会への貢献度や環境への配慮などの社会的倫理的基準をもとに評価、精選した企業に投資することである。また、SRIには社会正義や地域貢献、株主の権利行使を目的とした資金供給という意味もあるのだ。

CSRとSRIは世界的な広がりを見せている。企業報告によって、コーポレート・ガバナンス(企業統治)とCSR、SRIの関連もますます重要になっている。英国の例によれば、会社法の変更が投資家その他の人々に企業に関する情報をもたらし、企業と従業員の関係や環境、社会、地域問題に対する企業の方針や取り組みが(企業)評価の対象になりうることを示唆している。エビアンにおけるG8サミットでは「健全な社会的枠組みや環境問題、投資の決定、ビジネス・プロセスによる長期的影響に注意を払うこともまた、持続可能な成長のために重要である」との結論に達した。ISO(国際標準化機構)や多国籍企業に関するOECD(経済協力開発機構)ガイドラインのように、自発的な国際基準整備の動きも目立ってきている。SRIへの関心は高まっているが、さらに重要なことは、野村や日興ソロモン・スミス・バーニーやスタンダードライフ・インベストメントなどの主要な投資機関に社会的問題が影響力を強めていることだ。

CSRやSRIのこのような広まりは今や日本にも到達した。日本におけるCRSの特徴は、英国、米国、日本という金融の中心地におけるSRIの区分を比較する下記の表において明らかである。英国と米国における人権、排除品目重視の姿勢に対し、日本の基準は消費者指向と情報開示であるのが明白である。日本のSRI資金のほとんどはソニーやトヨタなど消費者に人気のある企業ブランドを含んでいる。このことは、数多くの企業不正スキャンダルとともに、日本では、企業責任は顧客との関係と強く結びついてきたことを意味する。それというのも、日本では人々は投資家としての行動より顧客としての経験から企業を判断するからである。

EIRIS
(英国)
KLD
(米国)
朝日新聞基金
(日本)
  1. 企業倫理ガイドライン
  2. 顧客/サプライヤー関係
  3. 職場の安全・衛生
  4. 労働者の権利
  5. 雇用の機会均等と多様性
  6. 従業員の給与
  7. 従業員教育と能力開発
  8. 雇用創出と雇用保障
  9. 地域奉仕活動
  10. 供給プロセス
  11. 海外での企業活動における人権の扱い
  1. 寄付金
  2. 雇用の多様性
  3. 労使関係
  4. 海外戦略
  5. 商品の有用性
  6. 役員報酬
  7. 排除品目(酒、タバコ、ギャンブル、国防関係、原子力発電)
  1. 労働者への配慮
  2. 家庭の重視
  3. 女性の働きやすさ
  4. 身障者の雇用
  5. 外国人の雇用
  6. 消費者指向
  7. 地域社会との調和
  8. 社会的支援
  9. 環境保全
  10. 情報開示
  11. 企業倫理

日本企業のCSRとSRIの関係は海外での事業運営において、最も弱い。よりコストの低い環境を求めて製造拠点を海外に移転したために、その企業の資産管理担当者が保有株を減らすという決定からもそれは明らかである。ある企業がマレーシアで操業を停止し、ベトナムやインドで現地人の雇用を含め活動を展開するために、その企業が無責任になる必然性はあるだろうか?

実際、現地の生産者に国際市場へ参入する道を提供することは、貧困を軽減する1つの方法である。中小企業の発展を支援するのは、大企業における重大なCSR義務の1つとなりうる。つまり社会や環境により良い影響をもたらすことと、製品と経営の質的向上は両立が可能である。長期に渡る取引や地域への投資を通じて企業の発展を支援することは、国際的な上場企業が世界中の貧困打破に貢献する最も重要な方法の1つと言える。

これは日本にとって非常に重要である。欧米の援助団体では主流の経済開発に関する考え方を日本は十分に受け入れていない。日本は自国が援助、貿易、投資を通して多大な貢献をなしとげた東アジアの開発経験が有効なモデルを提示していると信じ続けている。日本の援助プログラムは産業の促進とインフラの発達などの成長戦略に主眼を置いている。興味深いことに、まさにこれらの分野で英国・米国・日本によるアプローチに新たな合意が芽生えているのである。

現在必要なのは、FDI(海外直接投資)と開発援助政策およびその実践の協調を促進することである。政府やNGO、援助資金提供団体による人的資本形成のための取り組みには、往々にしてそれらの専門家をもっとも必要とする国の民間部門の専門家からのインプットが欠けている。大企業にとっては現地の技術不足、あるいは社会的責任という目的に後押しされ、現地企業や経営者のビジネスレベル向上を援助するチャンスである。また、公的機関のパートナーとなり、現地企業や、より規模の大きい会社の要求を理解し対応するのを手助けする役割もある。多くの場合、日本企業の貧しい国における活動は画期的である(一例にはパキスタン北部におけるトヨタの社会投資がある)。日本は国連や国際協力銀行(JBIC)、国際協力事業団(JICA)を通じて開発の推進に積極的に貢献している。日本の製造業トップ数社は、アジアの最貧国の一部でFDIを行っている。このような貢献は日本において開発途上のマーケットへの資金の流入を増加、国内生産力を高め、貧困を緩和、社会的リスクを軽減する援助プログラムとより密接につながったSRIの真の将来性を(比較的少ない努力で)生み出すのである。実際ベトナムは貧困解消の決意を示すため、ますます海外の民間企業に期待を寄せるようになっている。

欧米のSRI資金が世界的な経済開発を支援しているという認識にもかかわらず、最近の事例はそれが著しい失敗であることを証明している。日本において、CSRとSRIはそれが開発問題の主流に取り込まれるなら、非常な将来性を持つ。現実には短、中期的にはアジアの4カ国が貿易関係の将来性、製造コスト、そしてそれらの国々が地域の安全保障のために到達した経済的社会的発展段階といった点で、日本にとり重要性を増すだろう。中国、インド、そしてベトナムとパキスタンである。これらの国々は現実の、差し迫った社会開発の難題に直面しており、2003年1月に英国王立国際問題研究所でイギリスの蔵相ゴードン・ブラウンが提示した課題に立ち向かう好機を提供している。そこでは彼はこう述べている。「我々が探求したインプットと地域参加によってのみ成果を判断すべきではなく、発展途上の国々で貧困の軽減のために成しえたことによって我々の成果を判断しよう」。すなわち、企業の社会的責任とはインプットによってではなく成果によって、そして企業が行った広い意味での貢献によってではなく、社会的なリスクを軽減し持続可能な発展を支援することへの効果によって評価される必要があるのだ。

2004年4月13日

2004年4月13日掲載

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