ブレイン・ストーミング最前線 (2003年7月号)

デフレを笑う「非連続型業態」の成長&革新方程式とは?-ドン・キホーテの「起業家精神」と「知恵」

安田 隆夫
(株)ドン・キホーテ代表取締役社長

ドン・キホーテとは?

ドン・キホーテの特徴には、深夜営業、独自の陳列方法、現場への徹底的な権限委譲の3つがあります。チェーンストア理論に基づかないで大きくなった企業で、流通業の既存の「常識」にとらわれない、いわば「反則ワザの集大成」のような店です。

まず深夜営業ですが、既にコンビニエンス・ストアでは8兆円を超える市場がありました。しかし、コンビニエンス・ストアとドン・キホーテとは同じ深夜営業でも、全く違います。コンビニエンス・ストアは、「緊急性の消費」に合わせた商品を扱っています。ドン・キホーテの商品はそうではありません。ブランド品、電気製品、アパレルが山のように陳列され、それが深夜にどんどん売れています。これは「業界常識」では考えられないことでした。最も売れる時間帯は夜中の10時~0時半で、昼間営業は「夜のついで」という感じです。

ナイト・マーケットには、2つの消費行動があります。1つは、コンビニエンス・ストアに象徴されるように「必要な物が、必要な時に、必要なだけ、ただちに買える」というものです。もう1つは、お祭りの夜店を歩くような「時間消費型」の消費行動です。まったく正反対のものが同居しているのがナイト・マーケットです。

次が「買い場」の楽しさです。ドン・キホーテは典型的な「時間消費型」の店ですから、仮に「理論」に忠実に、見やすく、買いやすい、取りやすい店になったら、2、3度行けば終わりで、30坪程度のコンビニエンス・ストアに比べ店舗が大きいので、坪効率も悪くなり事業として成り立ちません。それで、敢えて「常識はずれ」の、見にくく、買いにくく、取りにくい、熱帯雨林のジャングルのような「圧縮陳列」の店をつくりました。都会で「探検」できるわけで、レジャーの延長線上の受け皿としてこれほどおもしろい店はないのです。ホームページに寄せられた御意見では「カラオケは飽きた、居酒屋も疲れる、でもドン・キホーテに行くと同じお金で、同じ時間楽しめて、しかも安い商品が手に入る。今、ドンキにハマッてます」と。要は、ドンキは、カラオケ、居酒屋の延長線上であって、そこに型どおり、理論どおりの小綺麗な「チェーンストア」は入ってきません。夜は日常の束縛から最も解放された、しかも親しい人達と過ごす楽しい時間です。ドン・キホーテに行くと常に新しい発見があります。扱っている四万種類の商品は、常に変化しカテゴリーは多種で何でもありです。ルイ・ヴィトンとトイレットペーパーが一緒に買える店は世界中でほかにないでしょう。

時間消費型の流通業といえば、かつての商店街がそうでした。多種多様な店舗が軒先を並べ、しのぎを削って、まさに時間消費の受け皿として機能していました。しかし、高度成長期以降、チェーンストア全盛の中ですっかり廃れてしまいました。しかし、日本人のDNAの中に、そういうものへの郷愁が性質としてあったのではないか、そこにドン・キホーテが登場して人気を集めたのではないかなと思います。

第3に、徹底した権限委譲です。これは先にあげた2つと密接に関係しています。時間消費型の深夜営業には、常に「意外性のある店づくり」が不可欠になります。お客様のニーズにスピーディに、かつ柔軟に対応するためには、現場に全権が集中していることが不可欠です。仕入れから販売まで一切を任せます。店は実際には、商品カテゴリーを7つに分けた小さな商店街になっていて、社員は各担当コーナーの「商店主」に任命されます。新入社員も含めて一定の予算を任せ、商品をどんな値段で売っても、どこから仕入れてもOKです。売るのが苦痛な人はいても、仕入れが嫌いな人はいません。自分の感性で、しかも人の金で仕入れられます。他方、チェーンストアでは全権限が本部に集中しています。現場は、(自らは考えずに)金太郎アメのように全く同じことをし、効率を究極まで高めます。私はチェーンストアを否定しません。人類がつくった画期的な1つのシステムです。しかし、私が創業したときにはイトーヨーカドーを始め、チェーンストアがたくさんあり「とうてい勝てない。それなら徹底的に正反対をやってみよう」と思ったわけです。

では、「どうやってコントロールするのか」「多種多様な商品管理はどうするのか」。一店舗4万種類の商品がありますから、(ポートフォリオになっていて)実はリスクも分散されます。大体、一店舗の在庫は4億円ですから、1アイテム1万円の計算になり、仮に売れ残っても4万分の一のダメージで済みます。(経験のない新入社員に任せたら)「彼らは何をやるか分からない。気がついた時は大変なことになっていて、手遅れでは」という心配ももっともです。でも、ルールを事前に設定して、徹底して権限委譲し、結果だけチェックするようにすると、実は「仕事」が「ゲーム」に切り替わり、彼らのモチベーションは飛躍的に上昇します。ゲームとなれば、つらかったはずの仕事が楽しくて仕方がなくなります。

「仕事」を「ゲーム」に切り替えるポイントが4つあります。(1)現場に対して大幅な自由裁量を認め、プロセス・コントロールを放棄する。(2)最小限のルールを設ける。サッカーで手を使ったり、ボクシングで足を使ったりしないように、シンプルな「反則」を決める。(3)シンプルで明確な勝敗判定をする。(4)タイムリミットを設ける。ゲームには一回毎に終了時間が必要。当社では、定期昇給やボーナスはありません。約80%の社員は半年年俸制で半年の結果で見直し、新たに本人と話し合って、次の半年の課題を設定させます。結果のチェックはデータに基づいて割とすぐできるのですが、課題設定の方が難しい。上司と部下がかなり「気合い」を入れて、各個人の目標設定について話し合います。

ドン・キホーテは創業13年目になります。売上は1154億円(2002年六月期)で約150倍に伸びました。しかし、スケール・メリットの時代はもう終わったと思います。むしろ現代は、スケール・デメリットをなるべく防ぎ、1人1人の社員の活性化を図ることが重要です。当社は、その中で規模拡大もスムーズにいくことを実証するよう努めてきたつもりです。ドン・キホーテは「専門店」の集合体ですから、規模が大きくなってもやっていることは変わりません。それがまたよかったのでしょう。

「今」につながる原体験

私は「理論」ありきで、経営したことはありません。経営指南書も読みません。その時々で、何となくこちらの方がよいのではないかと直感で思って、そちらに行ったらうまくいった。そういうことです。経営者の本能的なある種の感触と、それをなんとか実現しようという、いわば「経営者の腑」が結果をつくり、それに後で理屈をつけてみたら、1つの「ビジネス・モデル」になったということでしょう。

私が起業したのは、29歳の時です。経営者になりたいと思っていましたが、バックボーンも技術も手に職もない。そこで、ディスカウントショップならできるのでは、と甘い考えで20坪の店で始めました。しかし、1カ月で客はこなくなりました。そう甘くなかったのです。店員にも辞めてもらい、全て1人でやりました。1人だとさすがに忙しくて、陳列は夜中にやっていたのですが、そうしたら夜中にお客さんがきて、けっこう買ってくれたのです。セブンイレブンがまだ11時までだった頃、12時まで営業していました。夜にものが売れるという「原体験」をしたのです。

大量仕入れはできないので、安く仕入れるために、ハンパ品、サンプル品を貰ってきました。向こうは中途半端な数では売りにくい、こちらはそのくらいの数がちょうどよいということで、お互いの利害が一致しました。一山いくらで買ってきて、原価がほとんどないから儲かります。でも、当たって、売れ筋になったとしも補充はできません。ところが、これがかえって「あそこに行くと何か面白い新しい物がある。でも、次に行ってももうない」ということで、口コミでお客を呼びました。安く仕入れられる時に大量に仕入れたので、在庫を置く場所もなく、店内に山のように陳列したら、客がおもしろがってゆっくり見ていきます。今のドン・キホーテの特徴は、みんなこの時の経験に基づいているのです。

その後問屋を7~8年やりました。でも、お金儲けというより、自己実現のために事業をやっていたので、今までの経験を活かした新しい事業をやってみたくなり、14年前にドン・キホーテ1号店を始めました。500mゥの大きな店で駐車場も完備し、自信満々だったのですが全然売れませんでした。問屋を続けていたので、店は人に任せましたが「圧縮陳列」だと言い聞かせても、その頃は他に現実のモデルもないし、私がいくら教えてみても、神髄は分かってもらえません。自分の「原体験」を店員たちと共有できなかったのです。最後には、「教える」ことをやめて、店員に全部任せることにしました。私も誰に教わったわけではなく、のっぴきならない状況の中でつかみ取ったのだから、疑似体験をしてもらおうと思ったのです。そうしたらうまくいきました。現場への権限委譲は、この時が始まりです。

今後の抱負

ドン・キホーテは、ナンバーワン企業ではなくてオンリーワン企業です。同業他社なし、業態あって業界なしです。コンビニエンス・ストアの年商は8兆円、そのうちナイト・マーケットを仮に4兆円とすれば、40兆円はいけるのではないかと思います。つまり、我々は小さな山頂ではなく、エベレストの1合目にいるようなものだと思います。今はとにかく「顧客第一主義」。謙虚な気持を忘れないようにと思っています。「顧客第一主義」とは、自社の都合よりもお客様を優先する、お客様の心のひだをつかみ、心の変化に対応することを心がけていきたいです。

コメント(月泉氏)
ドン・キホーテの特徴を3点指摘します。

(1)流通の「常識」を全否定して成功

今まで成功していたチェーンストア・システムは、全店舗を画一的にして、合理性を徹底追求したものでした。しかし、ドン・キホーテは各店バラバラで、同じ品物の売価さえ違います。マニュアルもなしで、標準化を否定しています。ドン・キホーテの特徴の1つ「CVD+A」というコンセプトは、CV(コンビニエンス)、D(ディスカウント)、A(アミューズメント)という意味ですが、それが結合したこんな業態は世界中どこを探してもありません。この数年で東証一部に上場し、1500億円企業に成長しました。

日本の流通業界は、たいてい欧米をモデルにしていますが、欧米人と日本人は違います。欧米では広々とした店で、他人にじゃまされずに買い物をするのが心地よいようですが、日本人の自分が視察に行ってみると「こんな閑散とした店で買い物したくない」という感想を持ちました。反対に、日本のデパートでワゴンセールに人が群がる様子やアメ横での年末の買い物風景などは、欧米人にはまったく理解不能でしょう。それなのにアメリカの型をそのまま輸入したのが日本の流通商業の歴史であり、今や不況にあえいでいます。他方で、ドン・キホーテは、日本人の奥深いところにある買い物に対する「ワクワク感」を刺激しているようです。

(2)非連続性

ドン・キホーテは突然変異の業態です。日本は流通革命の第三期といわれ、短縮化が進んでいます。日本には昔ながらの独特の中間流通形態があり、「流通効率化」が盛んに主張されてきましたが、ドン・キホーテはむしろ、日本独自の流通形態があるからこそ成り立っています。ドン・キホーテはスポット仕入れなど、独自手法を開発しました。日本独自のものを前近代的だと排除せずに、逆に大いに活用しようとする発想があります。

(3)超成熟消費社会への対応

日本は世界一、モノが溢れています。世界の最先端商品に加え、日本古来の物が渾然一体となって、欧米とはまったく違う商品構造になっています。

これからは生産の時代ではなく「流通の時代」です。お客が欲しがるモノを生産者に作らせるなど、流通が主役になる時代です。さらに、モノ離れが進んでくると、流通そのものに独創的な「付加価値創造」(バリュー・クリエーション)が不可欠です。コンビニエンス・ストアも、お客のニーズから生まれたのではなく、(逆に、周囲の反対に逆らってつくった人がいて)実際にできてみて、(お客は)その便利さを初めて知ったのです。そして、コンビニエンス・ストアは単品管理という情報システムによって流通だけでなく生産まで革新しました。ドン・キホーテも、これから新たな生産と消費を創造していくと思います。

質疑応答

Q:

オンリーワン企業で、ライバルがいない状態をどう思いますか。また、ネットオークションはライバルとなるでしょうか。

A:

ライバルがいないというのは、デメリットだと思います。ですので、社内を二分割してライバルを創り競争させています。
ネットオークションは、直接影響はありません。多種多様な商品、意外性、時間の超越では共通していますが、手に取って見られることと、またネットでは4万点の品物を見るのは無理という違いがあります。

Q:

「全て」現場に任せるのに情報共有はどうですか。また、お客さんのニーズを知る工夫はありますか。

A:

うちのような雑然とした店には「デジタル」の情報システムが不可欠です。POSや情報解析も昔からやっています。また顧客第一のためにこそ現場に全権限を与えます。若いお客様の心に近いのは若い現場だからです。

Q:

一括仕入れにはメリットがあると思うのですが、それは一切しないのですか。また「スモール・ドン・キホーテ」や「ビッグ・ドン・キホーテ」の狙いはどこにあるのでしょうか。

A:

確かに、一括仕入れに近いものはありますが、通常は本部が「一括商談」をし、仕入れの約束をした後で、その一定の枠中で、各現場の各担当者が何個、いくらで仕入れるかは自由です。今は変化の激しい時代ですから、現場の目利きによる仕入れの柔軟性は非常に重要です。

「スモール・ドン・キホーテ」は「ピカソ」と言いまして、コンビニエンス・ストアに対抗するためにつくりました。一方「ビッグ・ドン・キホーテ」はドン・キホーテが大きくなったわけではなく、同一施設の中に「時間消費型」の他業態を入れるということです。具体的には、軽食やネイルアート、マッサージサロン、占いなどです。今、各地の駅前の一等地が空洞化していますが、それを活性化するには一社では無理です。うちの集客力を最大に活かし、有機的結合によって1プラス1が3以上になることをめざしています。

本意見は個人の意見であり、筆者が所属する組織のものではありません。

※本稿は4月23日に開催されたセミナーの内容に一部加筆したものです。
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