やさしい経済学―非営利部門と統計整備

第8回 統計充実に向けて

山内 直人
ファカルティフェロー

これまで、非営利部門の統計について議論してきたが、最後に今後の課題を整理しておきたい。

第1に、官庁統計において、非営利団体、特に小規模な草の根団体に対する捕そくを改善する必要がある。2009年以降、事業所・企業統計調査、サービス業基本調査、商業統計調査、工業統計調査などを整理・統合する形で、包括的な経済センサスが実施される予定であり、非営利団体に関してもより正確な情報が得られるようになることを期待したい。

第2に、個別法人の事業報告書を有効活用する必要がある。たとえば特定非営利活動法人(NPO法人)は毎年事業報告書の作成・提出が義務付けられており、この情報を有効活用すれば、統計精度の向上に役立つと考えられる。

米国には「ガイドスター」という有名な非営利団体データベースがあり、内国歳入庁から提供を得て約170万におよぶ非営利団体の財務データを収録・公開している。

筆者らは日本のNPO法人について、同様のデータベースを試作して公開している。これによりNPO法人の規模分布なども正確に把握することが可能となった。しかし、全国の都道府県から毎年事業報告書のコピーを取り寄せてデジタル化するには膨大な時間と労力と費用を要する。インターネットを活用しデジタルデータでの報告提出を奨励し、それらを集計するシステムの構築が必要であろう。

第3に、寄付とボランティアに関する定期的な全国調査の実施を提案したい。寄付もボランティアも、政府統計からは部分的な情報が得られるにすぎず、同一の調査で両者の関係についても把握できることが有用であろう。

また、特定の個人・世帯を長期間にわたって追跡するパネル調査の実施が望まれる。たとえば現在総務省統計局が行っている「社会生活基本調査」は、ボランティアに関する貴重な情報を提供してくれるが、毎回調査サンプルが変わるので、純粋な時系列的な変化とサンプル入れ替えによる変化を識別できないからである。

日本経済における非営利部門の役割は飛躍的に高まっている。その現状について正確に理解して適切な政策を検討しさらには法政・税制などを正しく制度設計するために、公共財としてこの分野の統計を充実させることが急務である。

2007年11月16日 日本経済新聞「やさしい経済学―非営利部門と統計整備」に掲載

2007年12月6日掲載

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