やさしい経済学―AIの雇用への影響を考える

第8回 人材育成・再教育へ環境整備

岩本 晃一
上席研究員

波多野 文
リサーチアシスタント

今回は前回までに説明した世界の議論などから導き出される、日本が採るべき政策について整理します。

第1は、第4次産業革命をけん引するデータサイエンティストなど専門家の組織的な育成です。大学でのデータサイエンティスト養成課程の現状をみると、日本は米国に比べて圧倒的に見劣りするだけでなく、ドイツにも遅れています。

第2に、人間でなければできない仕事を担う人材への積極的な投資です。これまでの分析で、機械による代替は中スキルのルーティン業務で進行し、代替されるレベルが上がっていることがわかっています。機械でも可能な業務は機械に任せる一方、人間ならではの業務を担う「さらに高スキルの人材」や「中スキルでコミュニケーション能力を持つ人材」の育成がますます重要になっています。

第3に、古い技術の下で働いていた労働者が新しい技術の下で働けるような再教育・再訓練や、企業を超えた円滑な労働移動を可能とする環境の整備です。製造現場で計測データを見てどうするか判断するといった、これまで熟練作業員が担ってきた業務が人工知能(AI)に代替される日は目前に迫っています。ドイツの専門家と話すと、製造業の現場を支えてきた労働者の雇用を守るために対策を講じる必要があるという強い意志が感じられます。

第4は、税による再分配の検討です。国際通貨基金(IMF)も指摘したように、イノベーションは経済格差を生み出す最も大きな要因ですが、競争力の源泉であり、格差を防ぐためにそれを止めるのは本末転倒です。IT投資でイノベーションを推進し、そこから生じる格差を縮小するには再配分の検討が必要です。

各国のジニ係数を見ると、米国は当初所得に大きな格差があり、かつ再配分機能が弱く、格差が拡大しています。ドイツは再配分機能は強いものの、やはり格差は拡大しています。日本の格差はあまり変化していませんが、再配分が弱く、その強化が課題です。

多くの研究により「雇用の未来」や必要な政策は徐々に見えてきています。

2017年11月16日 日本経済新聞「やさしい経済学―AIの雇用への影響を考える」に掲載

2017年12月8日掲載

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