やさしい経済学―デジタル化の衝撃と人的資本

第2回 日本企業、多段階競争で劣後

中馬 宏之 ファカルティフェロー

デジタル化時代の到来と共に日本の主要産業の競争力がある顕著なパターンで低下してきました。具体的には、(1)製品・サービスやそれらを含むシステムの複雑性が不連続的に上昇(2)情報の転送・応答速度の飛躍的向上により、既存システムを含む新領域での競争(多段階競争)が頻発(3)複雑性上昇速度の加速による事業戦略上の考察系の急拡大に対応できなくなり、多段階競争に劣後-。

多段階競争という概念はデジタル化の影響を理解するために必須なので、分かりやすい事例で敷衍(ふえん)してみましょう。

単純な製品の場合、自前の道具や人手だけで設計・製造が可能ですが、半導体に代表される微細加工技術が進むと、同じ大きさの部品の中に様々な機能を安価に組み込めるようになります。製品の複雑化が進んでも価格が下がることが多いうえ、機能をソフトウエアによって実現できれば柔軟性も高まります。さらに、ユーザーの需要に応じて機能を追加する応用ソフト(アプリ)の市場も誕生し、従来の製品では性能・価格・機能面でとても太刀打ちできなくなります。

このように従来の製品間の競争に、新しくハイレベルでの競争が付け加わるパターンの繰り返しが多段階競争と呼ばれています。例えば2000年以降、単純な携帯電話からパソコン並みの機能を持つスマートフォンへの移行が急激に進みましたが、日本勢はこの多段階競争に乗り遅れ、製品・半導体・ソフト・アプリの全てで、あっという間に競争力を失いました。

なぜ、多くの日本企業が冒頭で指摘したパターンで競争に劣後するのでしょうか。それはいまだにデジタル技術(機関銃)にできるだけに頼らず、研ぎ澄ました旧来のアナログ技術(竹やり)で挑もうとしているからではないでしょうか。

その一端は、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)が世界の企業経営者を対象に昨年実施した意識調査にも垣間見られます。日本の経営者は、人的資本やイノベーションの重視度は世界でも最上位ですが、最も強化すべき分野に「デジタルと技術の能力」を挙げた経営者比率は突出した最下位でした。

2017年5月18日 日本経済新聞「やさしい経済学―デジタル化の衝撃と人的資本」に掲載

2017年6月6日掲載

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