やさしい経済学―GDP統計の基準改定と課題

第2回 R&D支出を資本扱いに

野村 浩二 ファカルティフェロー

イノベーションは天才発明家によるものではなく、有能な先駆者と後継者に恵まれた一連の研究の蓄積によるものだと歴史家は指摘しています。現在の技術革新は、企業や公的機関における組織的な研究開発(R&D)活動なしには実現しないでしょう。そのための支出が投資的な性格を持つことは、経済学においても認識されてきました。

国連の08SNA(国民経済計算)勧告は、R&Dを資本として扱うことに舵(かじ)を切りました。これを受け、今年末に基準改定を迎える日本の国民経済計算(JSNA)でも、R&Dへの支出は消費(中間消費)ではなく、投資(総固定資本形成)であると大きく転換されます。

こうした転換のためには、国際的に比較可能なR&D支出データが不可欠です。概念整備は経済協力開発機構(OECD)のマニュアルに基づいて行われ、すでに50年の歴史があり、日本には「科学技術研究調査」という60年の基礎資料の蓄積があります。

JSNAにおけるR&D資本化の公表は欧米諸国に比べ2年ほど遅れますが、内閣府経済社会総合研究所は8年前から、長期時系列R&D支出データの収集や産業分類の組み替え、SNA投資概念への調整など準備を重ねてきました。基準改定後、名目国内総生産(GDP)は3%強押し上げられるとみられています。日本経済の構造を反映し、増加幅は諸外国よりやや大きなものとなります。

R&Dの資本化によるGDP増加は、生産(投入産出関係)の認識の変化に対応しています。資本化前のR&D支出は、期中の生産に要するサービスの消費として中間投入されていたことになります。資本化後は、現在までに蓄積されたR&Dストックからもたらされる生産要素としての「資本サービス」が各期に投入される認識となります。この資本サービスという概念は、08SNAで新しく導入された鍵となる概念です。

重要なのは、改定された生産の描写では、冒頭のイノベーションの認識との整合性が高まることです。経済がどれほど消費し、また将来の成長のために投資したのか、より適切に評価されることになります。

2016年9月23日 日本経済新聞「やさしい経済学―GDP統計の基準改定と課題」に掲載

2016年10月12日掲載

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