やさしい経済学―日本企業のオープンイノベーション

第5回 産学連携、企業側の積極関与も

元橋 一之
ファカルティフェロー

近年の科学技術の発展は目覚ましいものがあります。情報通信分野のビッグデータ解析や人工知能(AI)、生命科学分野におけるヒトゲノムの解読・iPS細胞の発見などは企業のイノベーションにも大きな影響を与えています。

大学などの科学的知見の産業への利用は、これまでエレクトロニクスや医薬品などの一部のハイテク産業にとどまっていました。しかし、素材産業でのナノテクノロジーの活用、モノがネットにつながるIoTにおけるデータサイエンスの活用など、幅広い分野で科学的知見がベースとなったイノベーションが生まれています。産業イノベーションのサイエンス化が進行する中で、産学連携の重要性が高まっているのです。

大学や公的研究機関も産学連携に積極的に取り組むようになりました。2001年に国の試験研究機関、04年に国立大学が法人化され、それまで教員や研究者の個人的裁量に委ねられてきた産学連携が、大学などが組織として対応すべきものと位置づけられました。その結果、企業としても個々の研究者に個別にあたるのではなく、大学などの研究情報に一度にアクセスすることが可能になります。

大学などの研究者にとっても、企業とのネットワークが広がり、知的財産管理や共同研究契約の法的手続きなどの事務から解放されるというメリットがあります。公的資金を中心に運営されている大学と企業の営利活動が相反する性格を持つため様々な課題はありますが、全体としては、ここ10年間で産学連携活動は大きく前進しました。

大学と企業の関係にも変化が見られます。大学と企業の共同研究は、大学教員のリーダーシップで進めるケースが圧倒的です。企業としては研究の方向性について口出ししにくいので、拠出する研究費は少額になりがちです。そこで大阪大学は企業が共同研究の内容により積極的に関与できる「共同研究講座制度」を導入しました。大学教員だけでなく、企業の研究者も特任教授として講座の運営に関与できるのが特徴です。その結果、コマツやダイキン工業などをはじめとする50以上の企業による講座が設置されています。

2016年7月15日 日本経済新聞「やさしい経済学―日本企業のオープンイノベーション」に掲載

2016年8月3日掲載

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