やさしい経済学―日本企業のオープンイノベーション

第2回 「供与」から「取り込み」に重点

元橋 一之 ファカルティフェロー

日本企業の経営者が「オープンイノベーション」という言葉を使い出したきっかけは、チェスブロウ米カリフォルニア大学教授の著書「オープンイノベーション」(2003年)に遡ります。同氏の定義は「外部技術の自社取り込み」と「自社技術の外部導出」の両面を含んだものです。

2000年代の前半、日本企業では自社の知的財産をどう生かすかという議論が活発に行われました。当時のオープンイノベーションは自社技術を外部に供与するライセンスアウトに重点がありました。しかし、特許がそれ自体で大きな経済的価値を持つことはまれです。その後、リーマン・ショックなどで経営環境が悪化し、新事業や新商品の開発プロセスを効率化する必要性が高まりました。その結果、オープンイノベーションの主軸は、外部技術や知識を効果的に導人する活動に移っていきます。

外部技術の導入には、他社の特許やノウハウをライセンスインする方法のほか、大学の研究成果のように、商品化からかなり遠い技術について共同研究で技術を磨いた後、事業化することもあります。また、シリコンバレーでは多くの日本企業がコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を設立し、ベンチャー企業への投資を行っています。CVC投資は、キャピタルゲインに加えて、将来的に有望な技術(ベンチャー企業)を自社事業に取り込む目的で行われるので、オープンイノベーションの一形態といえます。

もちろん、自社技術の外部導出というオープンイノベーションの重要性が低下しているわけではありません。特に大学やハイテクベンチャーは技術の重要な供給元となっており、技術のライセンスアウトも重要な経営課題です。トヨタ自動車は15年1月、同社の持つ燃料電池関連の特許を一定期間、無償で公開すると発表しました。技術をオープンにすることで同社がトップを走る分野のイノベーションを一気に進める意図によるものです。

このようにオープンイノベーションの手法が多様化する中で、企業にとっては自社の事業戦略に合った方法を選択する能力が重要になっています。

2016年7月12日 日本経済新聞「やさしい経済学―日本企業のオープンイノベーション」に掲載

2016年8月3日掲載

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