やさしい経済学―公共政策を考える 人口減少下での政治

第3回 財政の将来設計が必要

小黒 一正
コンサルティングフェロー

少子高齢化が進む中、政策決定において欠かせないのが長期的な視点です。

人ロが増えた高成長の時代には、政策決定の視野が短期的でミスが起こっても、資源配分の失敗を取り戻す余力がありました。しかし、人口が減る低成長の時代には政策決定のミスが致命的となる可能性が高まります。その代表例が今の日本の厳しい財政です。社会保障費の急増や恒常化する財政赤字により、国内総生産(GDP)の2倍にも及ぶ政府の借金は今後も膨張する見込みです。

このため、中長期的な視点の政策決定が必要になっています。1つの目安となるのが、内閣府が定期的にマクロ経済や財政の見通しを明らかにする「中長期の経済財政に関する試算」です。現在のところ内閣府は、2023年度までのマクロ経済や財政の見通しを示していますが、50年ほど先を見渡す長期の試算は公表していません。

諸外国では、長期の財政に関する将来推計を公表するケースが少なからず存在します。例えば、欧州委員会による財政の持続可能性に関する報告書はその代表的な存在です。同委員会は3年に1回、高齢化に関する報告書も作成し、社会保障費について、60年までの規模を推計しています。米議会予算局は、今後75年間の将来推計を実施し、現行制度を変更しない場合の財政やマクロ経済を予測するベースライン・シナリオと政策変更を織り込んだ代替シナリオの2種類を公表しています。

2000年代以降、海外、特に欧州では、一定の政治的独立性を付与しつつ、(1)予算の前提となる経済見通し作成(2)中長期の財政推計(3)財政政策に関わる政策評価などを担う「独立財政機関」の設置、といった議論が盛り上がっています。例えばオランダでは「経済政策分析局」、英国には「予算責任局」が存在し、その役割を担っています。日本でも今後、こうした体制の構築が必要になるとみられています。

2015年10月29日 日本経済新聞「やさしい経済学―公共政策を考える 人口減少下での政治」に掲載

2015年11月18日掲載

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