やさしい経済学―環境と向き合う 生物多様性を守る

第1回 優先順位付けが必要に

馬奈木 俊介
ファカルティフェロー

気候変動とともに長期的に大事な環境問題として生物多様性の保全問題があります。

地球では150万~180万程度の生物種の存在が知られています。未知の種を含めると数千万ともいわれます。問題はこれらの種が減少していることです。既に哺乳類で21%、両生類で30%、鳥類は13%が絶滅または絶滅の危機にあります。

人類は生態系を利用して生存し、経済活動もその上に成り立っています。生息地の変化や気候変動、人間の活動が一定以上になると、生態系は大きく変化し利用が難しくなります。生態系の変化は経済問題なのです。

大事なのは予算などの制約下でいかに多様性を守るかですが、まずはどのように多様性を測るかが重要です。どの種を優先的に絶滅回避すべきかの指針が必要です。

ツルでは、他の生物との相互作用を調査し、世界のどのツルの種を保護すべきかの優先順位付けが進んでいます。各地のツルを守るのにどの程度予算が必要かを計算し、費用便益分析することで、存在する種の優先順位を付ける「多様性指標」を作るのです。

これはノアが方舟にどの動物を乗せるかという「ノアの方舟問題」ともいわれます。ただ、生態系は非常に複雑なうえ、人間の活動によって影響を受けるにもかかわらず、人間と生態系の関係もよくわかっていません。そのため、実際の計算は難しくなります。それでも分かっている範囲で、守るものを優先的に決めていく活動が大事です。

ただ現実的には1つの種だけを保全すると問題も生じます。例えばトキだけを守ろうとすると、地域活性化に役立つ一方、行き過ぎた観光需要の高まりによって保全活動に支障が出る場合があります。環境全体を良くするためのトキの保全策が重要です。

2015年3月5日 日本経済新聞「やさしい経済学―環境と向き合う 生物多様性を守る」に掲載

2015年3月24日掲載