やさしい経済学―予測に挑む「期待を組み込む」

第1回 新たなモデルの登場

藤原 一平
ファカルティフェロー

近年、マクロ経済学の世界では新たなモデルを使った分析が広がっています。日銀を含む中央銀行や国際機関が、経済予測や政策シミュレーション(例えばインフレ目標を変更すると予測がどう変化するか)にこのモデルを用いています。ノルウェーのように、中銀自身がこのモデルから「2年後に中銀が設定する金利は何%か」といった予測を示すケースまであります。

モデルの名前は、「動学確立一般均衡モデル(Dynamic Stochastic General Equilibrium Model)」、略してDSGEモデルです。

名前からして近寄りがたい雰囲気ですね。少しでも親しみやすくしようとしたのか、イングランド銀行はサッカー選手にちなみBEQM(ベッカム)、ノルウェー中銀は、大ヒットした映画のタイトルからNEMO(ニモ)と名付けました。これをみて「はやりものは陳腐化する」と思ったのかは分かりませんが、スウェーデン中銀は古代エジプトの王を連想させるRAMSES(ラムセス)と、かなり強引なのですが、時代を超越した荘厳な名前にしています。

この連載では、なぜこのモデルがケインズ経済学に基づく従来型モデルに代わって使われるようになったのかを中心に解説したいと思います。

昔、有名なロック歌手が「大切なことは、どうやるか(how)ではなく、なぜやるか(why)だ」と言っていました。正直なところ、モデルを学ぶには「how」はとても重要です。大学院の講義でも「神は細部に宿る」の精神で、どう解くかにほとんどの時間を費やします。しかし、この連載では「なぜこのモデルを使うのか」に焦点を当てます。そうすると現在の金融・財政政策が、どんな考えに基づき運用されているかも見えてくると思うからです。

2014年6月12日 日本経済新聞「やさしい経済学―予測に挑む『期待を組み込む』」に掲載

2014年7月11日掲載

この著者の記事