農協や農林族議員の政治力は落ちたのか?(下)

山下 一仁
上席研究員

なぜ、マスコミのほとんどが減反廃止と報じたのだろうか?

産業競争力会議に民間議員が出した資料が、国から都道府県、市町村、農家へのコメの生産目標数量の配分(裏から言うと、コメを作付してはいけない減反面積の配分)を廃止することを減反(生産調整)の廃止と受け止めていた(「平成28年度には、生産目標数量の配分を廃止し、生産調整を行わないこととする」と記述)。これを見て、マスコミ関係者は、生産目標数量の配分の廃止、すなわち減反廃止と考えてしまったのだ。

マスコミは、農水省が自民党に提出した「5年後を目途に、行政による生産目標数量の配分に頼らずとも、国が策定する需給見通し等を踏まえつつ生産者や集荷業者・団体が中心となって円滑に需要に応じた生産が行える状況になるよう、行政・生産者団体・現場が一体となって取り組む」という部分をとらえて、減反廃止を明記したと報道している。

大いなる誤解である。生産目標数量(減反面積)の配分をやめることは減反廃止ではない。

前の自民党政権の2009年度までは、生産目標数量を達成しないと減反面積に応じた補助金を全く受けられなかった。分かりやすく言うと、1ヘクタールの水田農家が0.4ヘクタールの減反面積配分を受けていると、0.4ヘクタール全ての水田で減反(他作物の作付)を達成しなければ、つまり0.4ヘクタール未満しか減反していなければ、一切減反補助金は受けられなかった。

民主党政権は、この例で0.2ヘクタールでも減反していれば、0.2ヘクタール分の補助金を支払う仕組みに変更した。つまり、生産目標数量の達成を減反補助金交付の条件とすることをやめたのである。

そのかわり、民主党政権は、2010年度から導入した戸別所得補償(減反面積ではなくコメ作付面積に対する補助金)については、生産目標数量の達成を支給条件とした。自民党は戸別所得補償をバラマキと批判しており、今回の見直しでこれは廃止されることとなっている。

この結果、生産目標数量は、どの補助金にもリンクしないものとなる。つまり、生産目標数量は減反制度上なんら拘束力のない、意味のないものとなってしまったのだ。だから、農水省は生産目標数量の配分をやめると抵抗なく書くことができたのだ。

生産目標数量と補助金との関係は、農水省が産業競争力会議に提出した資料に簡潔に記述されており、以上述べてきたことは、この資料からも十分読み取ることができる。農水省を弁護するわけではないが、同省が産業競争力会議やマスコミ関係者を騙そうとしたのではない。農水省が減反廃止を打ち出せば、農協や農林議員との全面戦争になったに違いない。生産目標数量配分の廃止という意味で減反廃止という言葉を使ったとしても、農協等から相当な突き上げを受けただろう。

そもそも、生産目標数量の配分自体が減反に農家を参加させてきたのではない。目標を達成しなければ、行政罰を課すというものではない。

1970年以来、減反は減反補助金で推進されてきた。減反は多数の農家を参加させる減産カルテルである。カルテルの場合、他の人に減産させて高い価格を実現させ、自らは最大限生産するカルテル破り(フリーライダー)が最も利益を受ける。そのような事態を避け、農家に減反カルテルに参加させるためのインセンティブを与えるアメが減反補助金だったのである。今回の見直しでは、2010年度から導入された戸別所得補償は廃止されるが、それを財源として、従来からの減反補助金は拡充・強化される。

決して、一部の新聞が報じているように、農協や農林族議員の政治力が落ちたのではない。今検討されている見直しは減反の維持・強化であって、廃止(=コメの供給増加による米価引下げ)などではないからだ。だから農協や農林族議員も容認しているのだ。農水省の担当課長も「我々は減反廃止など一切言っていない」と断言している。事実を正確に理解し、これに基づき国民に正しい報道が行われることを望みたい。

2013年11月12日「WEBRONZA」に掲載

2013年11月29日掲載

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