農林水産予算を考える

山下 一仁
上席研究員

総額確保?

本年度の農林水産予算が3兆円ギリギリだったため、関係者の間では来年度は3兆円維持できるかどうかが焦点だそうだ。農林水産予算は1960年度の1319億円から75年度には2兆円台に乗り、80年代以降3兆円台を確保している。しかし、農業の国内総生産は60年度の1.5兆円(経済全体の9%)から80年度6兆円(同2.4%)02年度には5兆3000億円(同1%)に低下した。60年度の農業予算は11倍の国内総生産を生んだのに、今日では1.8倍の国内総生産しか生まなくなっている。高い水準の農業予算を維持しても農業は衰退した。憂うのは乏しきではなく効果かもしれない。

総合性の欠如

予算は各課からの要求の積上げである。各課が自分の予算の削減に抵抗すれば、省としての総合力を発揮できない。また、過去の予算との継続性もある。予算の抜本的見直しは言うは易く行うのは難しい。

戦前の農政の最大の目標は高額物納小作料に苦しむ小作人の解放だった。制度として低率金納小作料制を実現したのは第一次農地改革であったが、それ以前に食糧供出制度に低い地主米価と高い耕作者米価を設定し、事実上の低率金納小作料を実現した。農政は構造政策の実現に価格政策を使うという総合性を発揮した。8月の中間論点整理を受けて担い手の育成支援等に予算を拡充しようとしているが、米価維持のための生産調整への助成をそのままにしていたのではこれまでと同様効果は期待できない(戦後ある時期までは構造政策担当部局は構造改革を阻害する米価引上げに抵抗した)。農地の基盤整備は私的な投資だがコストダウンを通じた農産物価格の低下により効果が消費者に帰属することが農業基盤整備事業を農家負担わずか10%の公共事業で行う根拠だった。その一方で農産物価格を下げないという生産調整に助成してきた。悲しいかな、こうした総合性の欠如による矛盾は容易には解決できない。

地方裁量主義

中山間地域等直接支払制度では、直接支払いの使途や対象地域・行為の決定等を集落・自治体の裁量に任せたため、地方裁量主義という評価を得た。2年前の米政策の改革でもこのような方向は継続されたが、今回の予算要求でもこの方向をさらに拡充し、対策の大括り化・交付金化を図り地域の裁量・自主的判断を活かそうとしていることは評価できる。農林水産省として総合性を発揮できない場合でも自治体レヴェルで総合性を発揮することが期待できる。

新しい直接支払い導入のための調査

1億円の予算が要求されているが、必要なのだろうか。筆者達はこのようなお金がなくても中山間地域等直接支払いの制度設計をした。我々の仕事は1億円の価値があったと言われているような気もするが、その割には評価されていない気もするのは単なるヒガミだろうか。

2004年9月15日号 『週刊農林』に掲載

2004年10月5日掲載

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