Start Up 中小製造業のIoT

第12回 成功の秘訣は「時代よりも更に一歩先へ」

岩本 晃一
上席研究員

① 平成29年度の取り組み

「IoTによる中堅・中小企業の競争力強化に関する研究会」は、当面予定していた最初の1年間(平成28年度)の活動を終え、いま、研究会で得られた成果を本として本を出版した。タイトルは「中小企業がIoTをやってみた-試行錯誤で獲得したIoTの導入ノウハウ」(日刊工業新聞社発行、税抜定価2000円)である。

現在進行中の平成29年度の研究会の検討課題は以下の2点である。第1は、中小企業向けIoT導入支援を行う専門家のあり方や育成を行うにはどうすればいいかについて検討する。

第2に、平成28度の対象とした「機械系製造業の工場の中」よりも若干幅を広げ、「機械系以外の製造業の工場の中」以外についてもケーススタデイを積み重ねる。

平成29年度のモデル中小企業は、日本リファイン株式会、金属技研株式会社、しのはらプレスサービス株式会社の3社である。3社の参加動機とIoT導入への期待を下表にまとめた。

表:平成29年度モデル企業3社の参加動機及びIoTへの期待
日本リファイン株式会 金属技研株式会社 しのはらプレスサービス株式会社
参加動機
  • 少量多品種生産が中心で、多くの人と手間をかけている。この負荷を削減、効率化したい
  • 販売設備においてIT、IoT技術により付加価値をアップさせ、顧客、当社ともに運転管理負荷を下げられないか?
  • IoT導入を進めていきたいが、「何を」、「どこから」始めていけばよいのか?またメリット(費用対効果)があるのか?などの問題があり、進められていない。研究会を導入のきっかけにしたい
  • 各種データを採取し、様々なサービスを顧客に提供する。なかでも、「見える化」を超えて、現在、人間が行なっている「どうすればいいか」まで提供できないか
IoT導入に期待するもの
  • 自社工場における蒸留設備の運転管理、保守管理の改善、省力化
  • 販売設備の遠隔管理、トラブル予知、継続保守などによる装置の付加価値アップ
  • 社内の「視える化」→PDCAによる現場力向上
  • ロボット等の導入による省人化・自動化
  • 設備予兆管理
  • 生産管理システムなどの導入
  • 同上

研究会は、その試行錯誤のノウハウを公開することで、全国の中小企業の社長に、自社の現実の問題として実感して頂くことを目的とする「公益目的の研究会」である。そのため、前年度と同様、平成29年度の1年間で得られた成果もまた、公開する予定である。

② ドイツの取り組み

ドイツでは、連邦政府経済エネルギー省が、中小企業へのデジタル技術の普及を目指す「ミッテルシュタンド・デジタル」プロジェクトを実施している。ミッテルシュタンドとは、ドイツ語で中小企業の意味である。そのなかでも、製造業の現場にインダストリー4.0の導入を目指す「ミッテルシュタンド4.0」プロジェクトがメインである。

そのプロジェクトは、「テストベッド方式」と呼ばれている。すなわち、いくつかの大学が拠点となり、そこの教授がリーダーとなって、インダストリー4.0を体現した生産ラインを開発するものである。そこに近隣の中小企業が金と人を拠出し、開発に参加する。企業から派遣されている人は、ノウハウを得て、出身企業に帰っていく。テストベッド方式のコアは、共同開発に参加した人がノウハウを取得して出身の中小企業に持って帰る、という点にある。日本でもテストベッド方式が検討されたことがあるが、地方大学にインダストリー4.0の生産ラインを開発でき、かつリーダーとなり得る教授がほとんどいない、金と人を共同開発に拠出する中小企業はとても少ないと予想される、といった理由で、今のところ実現していない。開発リーダーとなる地元の大学の教授の呼びかけに応じて金と人を提供するドイツの中小企業は、高い意識を持っていると感じる。

③ 最後に

第4次産業革命という大競争の時代にあって、何も対応しなければ、時代に取り残されるだけである。かつてパソコンが導入された時、電話とファックスだけで頑張った中小企業は、メールを使わない企業とは取り引きしない、などと切られていった。パソコンを打てなかった年配者も、どこかへ行ってしまった。

時代の大きな波は、ただ1社が逆らってもどうしようもない。変革の時代にあっては、時代の流れに逆らうのではなく、時代よりも更に1歩先を走ることが、ビジネスの成功の秘訣である。

2017年11月25日 日本物流新聞「Start Up 中小製造業のIoT」に掲載

2017年12月19日掲載

この著者の記事