経済を見る眼 車体課税も「保有から利用へ」

佐藤 主光
ファカルティフェロー

来年10月の消費税率引き上げに際して、「駆け込み需要・反動減といった経済の振れをコントロールし、需要変動の平準化、ひいては景気変動の安定化に万全を期す」(経済財政運営と改革の基本方針2018)よう、政府はさまざまな対策案を検討している。その一つが自動車税を含む車体課税の減税だ。

消費税増税と合わせて自動車取得税が廃止される一方、購入段階では「環境性能割」が新たに課されることが決まっている(電気自動車は非課税)。これに対して自動車業界などからは、「ユーザーの負担が大きい」として自動車の減税を求める声が根強い。

 

しかし、地方税である自動車税の税収は年間約1.5兆円に上るため、減税は地方財政に影響しかねない。そこで政府は、国税であり来年3月でエコカー減税が切れる自動車重量税を実質的に増税し、さらに地方への配分割合(現行4割)を引き上げるなどして地方の財源を確保する案を検討しているという。

わが国では自動車に対して購入段階で自動車取得税が、保有に関しては自動車税・軽自動車税、および自動車重量税が課されてきた。このうち自動車税は総排気量により税額が決まり、自家用乗用車であれば総排気量に応じて2万9500~11万1000円となっている。他方、軽自動車税は自家用の場合、一律1万800円である。

ここでの総排気量とはエンジンの大きさに当たる。自動車税が創設されたのは1940(昭和15)年であり、当時は見えるモノを課税基準にしていたことがうかがえる。しかし、自動車が環境に与える影響や道路利用からの受益に課税するなら、本来、二酸化炭素(CO2)排出量などほかの課税基準があってしかるべきだろう。

また、これまで軽自動車は課税上、優遇されてきた。軽自動車は「庶民の足」といわれるが、いわゆる普通車も同様で、高級車を除けばぜいたく品という性格は乏しくなっている。このようにエンジンを課税基準にするのも普通車と軽自動車を区別するのも、現代社会の現状や政策要請にかなわない。

ではどうするか? 課税を保有段階から利用段階にシフトさせることだろう。わが国の保有段階の課税は欧州諸国に比べて高いとされるが、利用に対する課税は低い負担にとどまってきた。これは欧州諸国が環境政策として燃料課税を強化してきたことによる。「車体課税=環境対策」ならば、わが国も揮発油税・軽油引取税などを引き上げる余地があろう。

一方、「車体課税=道路利用の対価」の点では、道路料金を徴収するのが一案だ。従前、一般道路での料金徴収は技術的に難しいとされてきた。だが、情報通信技術などの普及で困難は克服されつつある。実際、英国ロンドンでは都心部の課金エリアの周辺にカメラを設置、進入車のナンバープレートを読み取り料金を請求している。

政府・与党も電気自動車やカーシェアの普及など新しい経済環境を踏まえ、2020年度以降、自動車関連の税体系を抜本的に見直すという。車体課税にはパラダイムシフト(発想の転換)が求められている。

『週刊東洋経済』2018年12月15日号に掲載

2018年12月28日掲載

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