経済を見る眼 いま一度、財政再建の合意形成を

佐藤 主光
ファカルティフェロー

総選挙の結果いかんによらず確かなのは、2020年度に国と地方の基礎的財政収支を黒字化させるという財政健全化の目標が先延ばしになることだ。いわば目標というゴールポストが動いた格好になった。

消費増税を凍結するにせよ、教育の無償化を進めるにせよ、財政収支を悪化させることに違いはない。財政再建自体が放棄されたわけではないが、その進め方は再考を迫られるだろう。

この現状をあえて前向きにとらえるならば、財政再建の意義について再考する機会とすることだ。消費増税をめぐるこれまでの議論には同床異夢の感があった。増税と併せて医療提供体制や診療報酬を見直し、社会保障制度の構造改革を行うよう求める意見がある一方、そうした改革を避けて自らの既得権益を守るために増税を支持する声もある。

全世代型の社会保障への転換にしても、高齢者への偏重を改めるなら制度の構造改革にかなうが、育児世帯などへの支援を加えるだけなら制度の膨張にすぎない。そもそも、社会保障と税の一体改革は消費増税にとどまらず、社会保障給付の重点化・効率化を志向していたはずだ。大学教育の無償化にしても、授業料の減少分を国が補助金で埋め合わせるだけなら、大学の救済措置でしかない。

他方、大学の再編成や教育水準の向上を促すよう補助金配分を決めるならば、大学教育の構造改革につながるだろう。改革の目的と手段は区別すべきで、消費増税も教育の無償化も手段の1つであって、それ自体が目的ではない。

わが国では改革のたびに目的を玉虫色にしつつ、消費増税など手段についての幅広い合意形成を優先してきたように思われる。しかし、目的が共有されていない結果、改革への支持は長続きしない。

そこでいま一度、財政再建の目的について合意形成を図るべきだろう。財政の持続性を確保することで、将来にわたって安定的に社会保障を含む政府の機能を果たし続けることが財政再建の目的である。そのためには財源確保と併せて非効率な支出の是正が必須となる。非効率なまま財政が膨張すれば、持続性が危ぶまれるからだ。そうした目的さえ一致していれば、歳出改革を優先して消費増税反対派とも合意可能な財政再建のプランを練る余地はあろう。

反対に、無駄や非効率を放置する、既得権維持狙いの増税賛成派にはくみさない。財政再建は超党派的にも実現可能と考える。将来的に「大きな政府」(福祉国家)を志向するにせよ、「中福祉中負担」でいくにせよ、その前提条件は健全な財政である。公共サービスは安価で良質であるに越したことはなく、国民の厚生に貢献しない無駄な支出は除かれるべきだ。例えるなら、われわれはみな同じ船(日本)に乗っている。行き先(将来の国家像)には意見の隔たりがあっても、船底の穴(財政赤字)をふさがないことには航海を続けることはできない。

選挙後は歳出圧力が増すだろうが、今の有椎者への配慮だけでなく、この国の財政を将来世代にいかに引き継ぐかという未来志向の議論があってよいはずだ。

『週刊東洋経済』2017年10月28日号に掲載

2017年11月15日掲載

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