経済を見る眼 デジタル化が変える税務

佐藤 主光 ファカルティフェロー

おおむね10年後を念頭に置いた長期ビジョン「税務行政の将来像」を国税庁が公表した。確定申告や年末調整に必要な書類を従前の紙ベースから電子データに置き換え、電子化を推進するとともに、人工知能(AI)を駆使して納税者からの相談内容を分析、最適な回答を行うようにする。

また、マイナンバーを使って国税当局が保有する情報と突合させ、申告に誤りがないかどうかを自動的にチェックし、AI・ビッグデータを使って税務調査や滞納整理の重点化・効率化を進めるという。たとえば、統計分析の手法を適用して、納税者ごとに調査が必要かどうかの判定を精緻化するとともに、電話と文書のどちらがよいのか、最適な接触方法や調査の必要項目について提示するシステムを構築する。OECDも税務行政フォーラムにおいて、徴税の効率化に向け税務データの分析を推奨している。

AIの活用を含む税務のデジタル化は世界的な潮流である。AIの利用はシンガポールなどでも試行されてきた。韓国やエストニアなど、この分野の進歩が目覚ましい国もある。英国でも「税のデジタル化」と称して、将来的には個々の納税者と課税当局がネット上で直接やり取りをし、簡単に確定申告ができるシステムの構築を計画している。北欧諸国では課税当局が確定申告書類に所得や控除など必要情報を記入、ネット上で納税者がこれを確認して提出する「記入済み申告制度」が行われてきた。いずれも単なる徴税強化ではなく、個人・企業の利便性の向上を図っているのが特徴だ。

他方、わが国では所得税は源泉徴収と年末調整で完結するため、自身で確定申告をする機会が乏しく、納税の利便性といわれてもピンとこないかもしれない。しかし、今後、状況は変化しうる。

サラリーマンの副業が進めば、確定申告が必要になる。複数の事業者と契約して働くフリーランスも同様だ。働き方が多様化するとともに、確定申告の数もおのずと増えていく。この問題に対処するにはマイナンバーカードの普及に合わせ、今年10月から本格稼働するポータルサイト「マイナポータル」を活用することか提案されている。

各個人のマイナポータルに、事業者や金融機関からの所得情報のほか、医療機関からの医療費の明細書、保険会社からの生命保険料支払いの控除に関する情報などを集約、一元化する。自分で給与明細書や領収書を集める必要もなく、所得税額を簡単に計算できるようになる。これを電子納税(e-Tax)に連動させれば、税務署に出向かずに納税が済む。将来的には記入済み申告制度に発展しうる。

マイナポータルにある所得情報は、納税のためだけでなく給付のためのインフラでもある。児童手当などを申請する際、所得証明書の代わりに使うことができる。英国では雇用主が課税当局に提出する所得情報を給付にも活用している。むろん、国民の間には個人情報の漏洩への懸念もあろう。個人情報保護委員会の強化を含め、制度の適正な運営を監視する第三者的な組織が同時に求められることはいうまでもない。

『週刊東洋経済』2017年7月15日号に掲載

2017年7月31日掲載

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