ふるさと納税の是非 返礼品部分 控除対象外に

佐藤 主光 ファカルティフェロー

2015年度の「ふるさと納税」の寄付額は1650億円余りとなった。これは14年度の4倍以上、制度の始まった08年度の約20倍にのぼる。ふるさと納税の理念は「応援したい自治体へのサポート」だ。寄付の使途・事業などを指定できることから、自治体が国民に取り組みをアピールする契機になることが期待されてきた。しかし実態はこの理念からかけ離れている。

東日本大震災や熊本地震、糸魚川大火などの災害で、ふるさと納税は被災自治体を支援する役割を果たした。しかし平時には、自治体は手厚い返礼品で寄付の獲得を図り、寄付する側も応援したい地域ではなく、好みの特産物が返礼される地域を寄付先に選んでいる。ふるさと納税は寄付ではなく、国が支援する「官製通販」の性格が濃い。

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なぜこうした事態に至ったのだろうか。その背景にはふるさと納税の仕組みがある。

ふるさと納税を利用する個人は寄付額から2000円を差し引いた金額を、所得税および自分が住んでいる自治体の個人住民税(所得割)から控除できる。通常の寄付金控除に加え、住民税(所得割)税額の2割を上限に特例控除が講じられる結果、寄付額から2000円を差し引いた額がすべて減税される。よって本人の負担は2000円にとどまる。

仮に1万円を寄付して6000円相当の返礼品を受け取ったとしよう。このとき個人は2000円払って6000円分の買い物をしたに等しい。ふるさと納税を受け取った自治体の収入は返礼品を差し引いても4000円になる。一方、この個人の地元自治体と国は減税で8000円の税収を失う計算となる。

ふるさと納税は中高所得者にとって有利な節税手段になっている。特例控除の上限(所得割の2割)は年収に応じて高くなるからだ。例えば給与年収が350万円の単身世帯の上限は3万4000円にすぎないが、年収1500万円の単身世帯の上限は約40万円に拡大する。つまり富裕層ほど2000円の負担で特産品を取り寄せる余地が膨らむ。

本来、住民税は地元自治体による行政サービスへの対価(応益性)の性格がある。多くの住民がこの原則に基づき納税する一方、ふるさと納税を利用する中高所得者は負担を免れたうえで返礼品を受け取っていることになる。中高所得者ばかりが減税を享受できるという意味で不公平だ。

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自治体間の返礼競争は過熱している。地元の特産品にとどまらず商品券や家電製品、中には高額寄付者を対象に夕ブレット(多機能携帯端末)やドローン(小型無人機)を返礼品とする自治体や、所得税・道府県民税からも控除されることを利用して地元住民にまでふるさと納税を認める自治体も出てきた。

総務省は換金性の高い商品券などの自粛を含め、返礼品について「寄付金控除の趣旨を踏まえた良識ある対応となるよう」求めているが、総じて競争が収まる気配はない。総務省の現況調査(16年6月)によれば、ふるさと納税を募集する際に各自治体が工夫している取り組みとして、全体の6割が「返礼品の充実」を挙げたのに対して、「使途の明確化や事業の充実」を挙げた自治体は3割に満たない。

自治体の側に立てば、これは当然の結果といえる。近隣の自治体が高額の返礼品を出しているとき、自分だけ地味な返礼品にとどめていては寄付が増えない。住民が他の自治体に寄付すれば、むしろ税収が減りかねない。自治体が主体的に返礼品競争をしているというよりは、それを強いられている面が否めない。

一般に地方分権では、自治体間競争の喚起が期待されている。しかしすべての競争が望ましいわけではない。切磋琢暦(せっさたくま)により新たな付加価値を創造するような競争は「良い競争」だが、他地域の損失で自身の利益を高めるゼロサム型の競争は「悪い競争」にあたる。返礼品競争は後者の典型だ。

返礼品の高額化で費用が際限なく増加するなど、その帰結は競合する自治体にとって望ましいものにならない。実際、前述の現況調査によれば、返礼品の調達・送付にかかる費用は670億円(15年度)余りにのぼる。これは同年度の寄付額の4割を占める。

ふるさと納税制度の狙いの1つに、都会の市区町から地方の市町村への寄付を通じた地域間格差の是正があった。

図は人口1人あたりの市町村税収(14年度)と人口1人あたりでみたふるさと納税のネット収支(15年度)の関係を示している。ネッ卜収支とは各市町村のふるさと納税の受取額から、当該自治体の住民による他自治体へのふるさと納税にかかる税額控除(市町村分)を差し引いた金額だ。ネット収支は税収の低い(財政力の弱い)自治体間でバラツキが大きくなっている。

図:市町村税収とふるさと納税のネット収支(1人あたり)
図:市町村税収とふるさと納税のネット収支(1人あたり)

こうした自治体の中でも勝ち組は一部にすぎないことが分かる。ふるさと納税は体系的な格差是正につなかっていないことがうかがえる。

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ふるさと納税は日本の寄付文化もゆがめる恐れがある。政府は「活力あふれる共助社会づくり」に向けて寄付金税制の拡充を含め、寄付文化の促進を図っている。本来、寄付とは自らが賛同する活動に対して、見返りを求めずに資金を提供する行為だ。日本人の寄付意識はいまだに低いとされる。寄付意識を醸成しなければならないときに、寄付には見返り(返礼品)が当然とする風潮を広めかねない。

社会的貢献度合いは高いが資金力に乏しい団体の寄付集めを一層困難にする恐れもある。これでは日本の寄付文化は発展しない。自治体からみても、返礼品で寄付を募るようでは長い目でみて自分たちの地域の「サポーターづくり」にはならない。他の自治体が魅力的な返礼品を出せば安定的に寄付を得られなくなる。

返礼品を生産する地元産業にとっても決して望ましいことではない。水産加工品の返礼品が好評なため工場を新設したり、地元産のコメを返礼品に充てるため従前の販売ルートへの提供量を減らしたりする自治体もあるという。しかしいずれ飽きられれば、過剰な生産設備や借金を抱え込んだり、元の販売ルートに戻れなくなったりしかねない。

ふるさと納税は地元の特産をアピールする好機との意見もある。しかし2000円の負担だから返礼品として人気のあるような特産物をアピールしても、需要は長続きしそうにない。特産物の競争力を高めて、市場価格でも買ってもらえるようにすべきだ。ふるさと納税は一種の官製需要にすぎない。それに依存した地域振興は持続性に欠く。

ではどうすればよいのか。現在、寄付と返礼品は「別途の行為」と解釈して特例控除を認めている。過剰な返礼品競争に歯止めをかけるためにも、返礼品の価値に相当する金額は所得税・住民税からの控除を認めるべきではない。

前述の事例でいえば返礼品の価値6000円は控除の対象としない。控除されるのは寄付額1万円から返礼品6000円と2000円を差し引いた2000円分ということになる。過熱した競争を抑えるべく総務省は返礼品を寄付額の3割以下に抑えるよう自治体に通知した。ようやく見直しが始まった。

さらに中長期的には現行の特例控除を縮減・廃止して、非営利団体など自治体以外の団体への寄付と税制上の優遇措置を均等にすることが望ましい。被災自治体への支援を含め、ふるさと納税は当初の理念に立ち返るべきである。

2017年4月7日 日本経済新聞「経済教室」に掲載

2017年4月25日掲載

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