基礎年金の在り方が与野党合意の鍵

中田 大悟
RIETI研究員

基礎年金の財源を巡る議論がかまびすしい。さしあたって、2009年度までに現在の3分の1から2分の1に引き上げられることが決定している国庫負担の増分に対する財源をどのように確保するかが喫緊の課題だ。経済財政諮問会議では、基礎年金そのものを完全租税負担化した場合のメリット・デメリットが議論されるなど、政府内でもずいぶん踏み込んだ意見が散見されるようになってきた。

高まる持続可能性

年金記録や保険料横領問題でさらに増幅された年金不信もあってあまり信用してもらえないが、04年の制度改正により、公的年金制度の持続可能性は相当高まっている。モデル世帯の所得代替率(現役世代の平均手取り収入に対する年金額の割合)50%維持という制約を緩和すれば、現行のままでも公的年金財政そのものは基本的に持続可能だ。

04年改正で採用されたマクロ経済スライド制は、収入内で賄える範囲に年金給付を削減していくルールであるから、給付額の減少さえ甘受すれば、年金財政のバランスは自動的に保たれる。

ほかにも、国民年金保険料の未納が年金制度の崩壊を招くと喧伝されているが、保険料の未納は、結局のところ将来の給付を減少させるわけだから、年金財政全体にはたいした影響を与えず、低年金・無年金者の出現を甘受すれば、制度の破綻にはつながらない。

それでも、基礎年金の完全租税化は検討に値するメリットがある。まず、将来の低年金・無年金者の発生を抑える効果がある。また、被用者年金と国民年金間の定額・定率負担の不公平感も問題外になる。さらに、パートタイマーへの厚生年金適用拡大も非常に容易になる。

半面、当然デメリットもある。

保険料方式の年金と租税方式の年金は似て非なるものだ。保険料方式であれば、国は給付を簡単には削減できないのに対し、租税方式年金は国の財布の都合でいつでも給付の削減が可能になる。さらに、制度の完全移行には半世紀以上の歳月を必要とし、現状の低年金・無年金者への救済にはならない。国民はこれらを深く理解する必要がある。

不公平感への不満投影

ここ数年、年金は常に政治の争点の中心を占めてきた。しかし不幸なことに、現行制度の改善で制度は維持できるとする与党と、大掛かりな改正を主張する民主党の間で、一致点を見いだすことはまったくできなかった。

民主党の年金制度案は、具体的な計画性が乏しく、実現可能性は限りなく小さい。しかし、実体が薄いが故に、現行制度が抱える不公平感への不満が投影されており、与党も無視することは難しい。そうしたなかで、基礎年金の完全租税化は、民主党の年金制度案と現行制度の間で取り得る数少ない妥協点の1つだと思われる。

仮に民主党案を実現しようとすれば、まず基礎年金を完全租税化し、その後、厚生年金の全労働者への適用拡大と高所得者への基礎年金給付の削減を検討する必要がある。

そうした意味で、与野党は基礎年金の租税負担化で合意できる可能性はある。また、完全租税化ではなく、保険料方式を維持しつつ、国庫負担をさらに8割とか9割に引き上げるという妥協点も考えられよう。

年金制度の持続可能性は04年の改正で大きく前進している。残された問題は制度の破綻を招くほど深刻なものではなく、基礎年金の在り方次第で解決可能なものも多い。与野党は可能な限り早期にこの問題で合意にこぎ着け、より重要な医療・介護保険の問題に取り組む体制を整えるべきである。

2007年12月31日付 フジ・サンケイ・ビジネスアイに掲載

2008年1月9日掲載

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