地方創生の本質

中村 良平
ファカルティフェロー

地方振興や地域活性化をスローガンとする国の政策は、古くは1962年の新産都市に始まり最近では福田内閣の地方再生に至るまでこれまで何度もあった。ただ今回の地方創生が従来の地域振興と異なるのは、従来の地域振興策が生産額の増加や雇用創出が中心であったのに対して、そこに地域(地方自治体)の人口対策、特に人口維持対策が加わっていることにある。これには一国全体の人口減少が背景にあるわけだが、この人口減少問題については、かねてから分かっていたのであるがなかなか選挙の争点にはなりにくいことから先延ばしにされてきたと言っても過言ではないであろう。正に切羽詰まっての人口対策ということになる。

人口分布の偏り

人口が減少局面に入るかなり前から、我が国の人口分布は戦後の高度経済成長期を経て空間的(地理的)にかなり偏ってきたといえよう。

下の表1は、各都道府県庁所在都市のその都道府県における人口割合を1970年と2015年について示したものである。各年において人口構成比の大きい都市順に並べている。表を見ると、この45年間で、東京特別区、横浜市、京都市、大阪市、名古屋市といった三大都市圏の大都市では対都府県人口割合が減少したのに対して、高松市、高知市、金沢市、大分市など、甲府市、岐阜市、静岡市、那覇市を除く全ての地方都市では県内での人口集中度が高まっていることがわかる。なかでも大分市は25.1%から40.0%、高知市は33.7%から46.3%とそれぞれ10ポイント大きく上回る県内での集中度となっている。

表1:都道府県庁所在都市の対都道府県人口に占める割合
1970年 2015年
1 東京特別区 77.5% 東京特別区 68.6%
2 京都市 63.4% 京都市 56.5%
3 横浜市 40.9% 仙台市 46.4%
4 大阪市 39.1% 高知市 46.3%
5 名古屋市 37.8% 高松市 43.1%
6 金沢市 36.1% 広島市 42.0%
7 高松市 36.0% 熊本市 41.5%
8 和歌山市 35.0% 大分市 41.0%
9 富山市 34.0% 横浜市 40.8%
10 高知市 33.7% 金沢市 40.4%
11 仙台市 32.9% 富山市 39.3%
12 広島市 32.8% 和歌山市 37.8%
13 長崎市 31.5% 岡山市 37.4%
14 熊本市 31.4% 松山市 37.2%
15 福井市 31.2% 鹿児島市 36.4%
16 鳥取市 29.7% 宮崎市 36.3%
17 岡山市 29.3% 札幌市 36.3%
18 那覇市 29.2% 新潟市 35.2%
19 徳島市 28.2% 徳島市 34.2%
20 神戸市 27.6% 福井市 33.8%
21 新潟市 26.8% 鳥取市 33.8%
22 鹿児島市 25.7% 長崎市 31.2%
23 佐賀市 25.6% 秋田市 30.8%
24 松山市 25.6% 名古屋市 30.7%
25 大分市 25.1% 大阪市 30.5%
26 甲府市 24.7% 福岡市 30.1%
27 宮崎市 24.3% 松江市 29.7%
28 奈良市 23.2% 佐賀市 28.4%
29 松江市 22.7% 神戸市 27.8%
30 岐阜市 22.4% 奈良市 26.4%
31 静岡市 22.1% 宇都宮市 26.3%
32 福岡市 21.6% 大津市 24.1%
33 秋田市 20.7% 盛岡市 23.3%
34 宇都宮市 20.5% 甲府市 23.1%
35 大津市 20.4% 山形市 22.5%
36 札幌市 19.5% 那覇市 22.3%
37 青森市 18.3% 青森市 22.0%
38 さいたま市 17.0% 岐阜市 20.0%
39 山形市 16.7% 静岡市 19.1%
40 盛岡市 16.5% 長野市 18.0%
41 長野市 16.5% さいたま市 17.4%
42 前橋市 16.5% 前橋市 17.0%
43 津市 15.7% 千葉市 15.6%
44 千葉市 14.3% 津市 15.4%
45 福島市 12.1% 福島市 15.4%
46 山口市 10.6% 山口市 14.1%
47 水戸市 9.1% 水戸市 9.3%
出典)「国勢調査」(総務省)、ただし2015年は速報値。

これらの数字は何を物語っているのだろうか? すでに都市部への人口集中が過渡期を迎えようとしていた高度経済成長末期においても、それなりに地方では県庁所在都市に人口が集まっていたことを表1の数字は示しているが、その後45年で、三大都市圏の大都市は都府県内での人口集中度が低下したのに対し、地方都市の県庁所在都市では人口集中が高まったのである。首都圏人口の方は、対全国比でも28.4%から23.0%へと低下している。首都圏への人口集中というよりも、地方圏における県庁所在都市への一極集中が高まっているのである。

地方の多くの県庁所在市は、県内の他の市町村(特に中山間地の市町村)からの転入が多かったのと同時に、東京など大都市圏地域には転出超過の状況であった。これが県内の中小自治体からの人口供給が底をついてきたこともあり、県庁所在都市の人口増加にも陰りが見え始めてきたのである。そして、幾つかの県庁所在都市では、この10年で人口減少となっている。

地方創生は、本社機能や省庁の部分移転を促すということでの東京一極集中の是正という側面も併せ持っているが、人口の空間分布で見ると人口減少の中で地方圏の中でも一極集中が進んでいることが示され、地方圏における中小都市や非都市部の自治体の持続可能性をいかに導き出すかがもう1つの主題となっている。

東京集中の中身

上に示した東京集中とは人口面でのことであったが、それ以外の経済関係の指標ではどうであろうか。表2は、最新のデータでもって東京都の集中度を比較したものである。昼間人口で12.6%、従業地就業者数で13.7%、また生産額では18.3%といずれも2割未満となっている(注1)。小売販売額についても東京都の割合は13.4%で、47の都道府県があることを考えると集中してはいるが、驚くような数字ではない。また、工業・製造業については、出荷額、生産額ともに1割を下回っている。

表2:東京都の集中度
項目 東京都のシェア 出典
人口 夜間人口 10.28% 国勢調査(総務省)
2010年
昼間人口 12.16%
課税者所得額 15.59% 市町村税課税状況等の調査(総務省)
2014年度
就業者数 常住地 10.09% 国勢調査(総務省)
2010年
従業地 13.71%
県民経済計算 産出額 16.76% 県民経済計算(内閣府)
2013年
総生産額 18.31%
工業生産額 出荷額 2.67% 工業統計表(経済産業省)
2014年
付加価値額 3.33%
商業販売額 卸売販売額 42.74% 商業統計(経済産業省)
2014年
小売販売額 13.37%
銀行預貸額 貸出額 42.13% 日本銀行、2015年度末
預金額 32.19%

ところが、表2の卸売販売額と銀行の預貸額をみると、それらの指標はいずれも30〜40%というより大きなシェアとなっていることがわかる。卸売販売額で約4割、銀行の貸出額で4割強、預金額でも3割超、また表には示していないが大企業と呼ばれる事業所の割合も41.2%と集中度4割を上回っている(注2)。これらはどういったことを意味しているのであろうか。

人口や生産額というのは財・サービスのフローに対価が伴う実物経済の指標であるのに対して、預貸額というのは金融(マネーストック)経済の指標である。実物経済以上に、マネー経済(資金フロー)における東京集中が進んでいることを意味している。卸売販売額での東京都のシェアの大きさは、大手総合商社の本社の存在である。そして、同じ商業という産業分類に属するとはいっても、卸売業の場合は消費者を対象とする小売業とは異なり、ほとんどが企業間取引の仲介である。したがって、この販売額が大きいということは、財貨の空間的な移動を統括するという意味での業務機能の大きさを表していることになる。金融機関がマネーの需給を仲介するのに対して、卸売業はモノの需給を仲介するのである。マネー経済における東京への構造的な集中が表2からうかがえるのである。

総合戦略とKPI

このような趨勢としての人口減少を眺めたとき、それをどのように受け止めて、どのように地域の経済社会の再構築をするかが、各地方自治体のみならず地方で生活するものにとって課せられた地方創生の本質的課題であると考えられよう。

そういった事を踏まえて、地方創生における人口ビジョンと地方版の総合戦略が、国の実質上の要請もあってこれまで多くの地方自治体で作成されてきた(はずである)。その結果、4月の時点で、今後5年間の「人口減少対策」と「地方版総合戦略」について、47都道府県と1737市区町村の計1784団体が策定した。未策定は災害地の宮城県女川町と茨城県常総市、東京都中央区と足立区のわずか4自治体であった。その地方版総合戦略では、新規雇用や移住者数といった数値目標を自治体が定め、そのための施策を明記することになっている。

そこで、ほとんどの市町村の総合戦略では「住みやすいまち」「働くことのできるまち」「訪れたいまち」というまちづくり三原則に則ったものにはなっているのだが、中身的には似たりよったりで大きな違いを見出すことが難しい感じである。これは、多くの地方都市において課題が共通しているということもその理由かも知れない。しかし個人的印象として、まちの産業・経済構造を思い切って変えるようなビジョンを持った戦略を見る機会があまりないのも実情である。もちろん、個別の施策で面白そうなものも少なからず見つけることが出来る(注3)。ただ、その前段階において、人口減少社会を受け入れてどういった「まちの経済構造」にしていくかという分析とそれに基づいた展望がなかなか見えてこないのである。

市町村によっては、出生率の低下を食い止め転入者を少しでも増やすことで、自然増減と社会増減をバランスさせて人口維持を図ろうとするところもあれば、「国立社会保障・人口問題研究所」が示した減少率を少しでも底上げできるような予測プランを描くところもある。そのための施策は、それぞれ意味はあるのだけれども、施策を実施したときの人口や雇用に対してどのように変化をもたらすかというインプットとアウトプットの間のつながり(メカニズム)がほとんど説明されていない。

確かに今回の戦略で考え出した新たな施策の企画もあるであろうが、おそらく多くはこれまで類似した施策を実施してきたはずである。総合計画や振興ビジョンが既にあるところで、地方版総合戦略だからといって、それも短期間に簡単には新機軸は出せないからだ。結局のところ、どうしてこれまで実施してきた施策が、着地点としての雇用増加や人口維持につながらなかったのか、ここの理論的な解明なくしてはKPI(Key Performance Indicator)も実質的な意味をなさないであろう。

図1は、総合戦略など計画を立てる際の広義のまちづくりの流れについて、KPI を意識して描いたものである。まずは、まち歩きをしてまちを観察し、また各地でヒアリングを実施し、そこで色々な課題を見つける。そしてその解決のためのワークショップをできるだけ多くの階層の人々を集めて開催する。これは、「まちづくり」についてよく行われる定型化したアプローチであると思われる。しかしながら、そこに「何をすれば、何がどうなる」という規範的な考え(理論モデル)と客観的なデータを用いた解析が伴わないと、ワークショップの結論は、下手をすると言いたい放題の結果に終わってしまうこともある。

図1:まちづくりフローとKPI
図1:まちづくりフローとKPI

「正しい」KPI とは、こういった客観的分析から出て来る数字であるべきだろう。希望的な目標値を掲げれば良いというのは大きな誤りである。定量的な分析をする際には前提条件もあれば、データにしても集計されていることが多いので、なかなか細かな部分までの分析はできない。これは、基本はまちのマクロ経済の分析なので、主体的にも空間的にも限界がある。しかしながら、きちんとしたモデルに基づいて分析した結果からは、全体としての方向性が客観的な数字で示される。それをベースにした政策や個別の施策であれば、必ずその実施結果からの検証・施策再考というフードバックをすることができ、まちをよりよくする次なる施策へとつながるはずである。

きちんとした調査と規範的な理論に基づく経済構造分析に基づいて地域社会の新たな産業構造を描くことで、そこから維持可能な人口なり雇用が生まれてくる。地域内で希薄な産業間のつながりを改善し、また移入超過という外部依存の経済を改善するための「まちの産業経済構造」はどうあるべきかを考え、そこに向かって地方創生の交付金が活用されるべきであろう。

規範的見方の必要性

このように地域自らがまちの経済を分析できる知識が必要となる中、政府の「まち・ひと・しごと創生本部」から「地域経済分析システム(RESAS)」が提供されている。しかし、なかなかデータだけあっても、分析する理論(モデル)がなければ使いこなせない。良好な漁場があって新鮮な魚を沢山捕ってくることができても、魚を上手にさばくことが出来ないと美味しく食べられないのと同じである。

そこでデータをどうやって読み解いていくかが課題となってくるのであるが、それには規範的なモデルと問題解決のストーリーが必要となる。「ここをこうすれば、ここがこうなる(はず)」、「ここがこうだから、ここはこうなっている(はず)」といった因果関係の明確化、その関係仮説の確認や検証である。実際、地域分析のための知識には、「経済基盤モデル」の他に「都市階層理論」や「産業連関モデル」など、最近では政策との絡みで比較的わかりやすく示されることも多くなってきている。特に、市町村での開放経済型の地域産業連関表を作成することで、地域経済のつながり(連関)を読み解き、様々な経済波及効果を測定することが「地方創生」の実践の中で広がってきている。

データの見方としては、他市町村との比較、商圏、圏域での他市町村との比較といった横断面でのものが1つ考えられる。もう1つは、定点観測で全国の伸びとまちの伸びを比較するといった時系列で考える2つがあろう。その時に必ず意識しておかないといけないことが、因果関係を必ず念頭においてデータを見ることである。因果関係のとり方は、例えば図2aでみるように、「まちの所得が大きいとそのまちの小売販売額も大きくなる(はず)」ということである。また、生産関数の理論からも導けるように、「資本労働比率が高いと労働生産性は高くなる(はず)」という規範的な考え方である。さらに、対個人サービス業でいうと、人口集積が高いとサービスの提供効率は高まるので、1人当たりでみた収入額は人口集積とともに高まる(はず)」という都市経済の集積理論に基づく考え方であり、これは図2cのようなプロットになるであろう。

図2a:所得と小売り販売額の関係
図2a:所得と小売り販売額の関係
図2b:資本労働比率(有形固定資本額/ 従業者数)と労働生産性(付加価値額/ 従業者数)の関係
図2b:資本労働比率(有形固定資本額/ 従業者数)と労働生産性(付加価値額/ 従業者数)の関係
図2c:人口集積と個人サービス販売額の関係
図2c:人口集積と個人サービス販売額の関係

それぞれの図においてプロットしている点は市町村であって、その間を通る直線もしくは曲線は縦方向のバラツキをもっとも説明できるように導かれた基準線で回帰線と呼ばれる。もちろん、全ての点が基準である(回帰)線上に位置しているわけではない。各々のまちがその上下に位置しているのだが、それがどうして乖離しているのかを考えて見ることが大切である。図2bでみると、わがまちの○○工業の位置が曲線よりも低い位置にあれば、それは資本装備率の割には労働生産性が低いということを示唆している。そこで、固定資本の新しさや稼働率、また従業者の労働の質というものを精査してみることになる。

ここで図2aについての具体例を考えて見よう。図3は、愛媛県内の自治体を対象に、横軸には個人所得(課税者所得+年金所得)、縦軸に小売販売額を取ってプロットしたものである。ほぼ直線関係になっている(注4)。回帰線より上方に位置する自治体は、愛媛県の所得消費関係の基準より、まちの所得に対して消費が多いといえる。理由として、まちの外から買い物客が多く流入していることが因果関係から想像できよう。そうすると、縦方向の差がまちの外から購買を吸収している金額だということがわかる。この典型例は松前町である。松前町は松山市にとっての典型的な郊外地域であり、常住就業者の40.9%が松山市に通勤している(注5)。ここに2008年4月に「エミフルMASAKI」という店舗面積が6万8360㎡の巨大なショッピングセンターが開業している。開業前後でのプロットを比較することで、松山市から小売販売額がどの程度流出しているかが推測できよう。

図3:個人所得と小売販売額の関係
図3:個人所得と小売販売額の関係
出典) 商業統計表(経済産業省、2014年)、市町村別年金(厚生労働省、2014年度)、個人所得指標(JPS、2014年度版)などから作成

また新居浜市をみると、以外に下方に位置している。新居浜市は昼夜間人口比率も1.0を超えており、市内には大型ショッピングセンターもあり、西条市、四国中央市から買い物客も流入している。その理由として、ここは住友系の大型企業が立地しており、単身赴任が多い事が挙げられる。単身赴任が多いというのは、家族が東京や大阪にいるので自分の月収が40万円であっても自分が使わないでほとんど家族に送ってしまうので消費性向が低いため、下方に位置しているということになる。結果、所得があって外にお金が漏れているのではなく、お金が空間を移動していることである。そうすると、そのまちならではの有効な対策を考えることができる。

このような規範的な分析がきちんとできるようにするためには、やはりある程度のトレーニング(研修)が必要になってくる。これは、地方自治体の職員のみならず、地方創生がらみで昨今誕生している大学の関連学部における学生への教育に対しても同様である。こういったことを念頭に地域の発展、成長戦略を練っていくのである。

地方創生と成長

経済成長を追い求めることには批判的な見解も少なからずあるが、誰だって昨日よりは今日、今日よりは明日、良い暮らしをしたいと思うわけであるから、そこには必然的に経済成長が必要条件となってくる。ただし、それは良い暮らしをするための十分条件ではない。必要十分条件となるには非経済的価値も含めた持続可能な成長の道を探らないといけない。言い換えると、総合戦略の中でも、背伸びをせず正しい身の丈に合った成長を目指すことが肝要となってくる。

もちろん、いくら持続的な経済成長を目指すといっても、まちの外からお金を稼いでこないと、まちの総生産額が実質的に増えることはありえない。預貯金という循環から漏れていたお金がそこに再出現することによって増えることはあるが、大元であるまちの中にあるお金自体は変わっていないわけなので、まち自体が成長する為には、まちの外からお金を稼いでこなければならない。

環境への負荷を小さくするための経済循環を重視する施策は大切である。また、非経済面でも、人的資本(ソーシャルキャピタル)などに価値をおくことも留意すべきことである。しかし、その循環型経済が閉鎖的な経済になってしまうことは良くないし、同時にすべてを自地域内で循環させることだけでは地域は持続しない。地域で自らが供給できないものは沢山ある。経済規模の小さな地域であればなおさらである。無いものを地域のもので代替できる場合とできない場合がある。

化石燃料は再生可能エネルギーと代替できるが、かなりのものは外からの移入に依存せざるを得ない。そうすると、地域の交易収支は赤字になり、それが財政バランスを悪くする。そして、交付税のような財政移転で補填することになる。結局、地域の稼ぐ力が必要になってくるのである。これは正にまちの外からお金を獲得する移出産業の必要性を意味している。過疎地の振興例として頻繁に取り上げられる徳島県の上勝町の場合は「葉っぱビジネス」が移出産業であり、そこで得た外貨を地域内で循環させて、新たな投資に向けていることがポイントである。

まちがお金を稼いでいるわけだが、まちの経済が上手くいき、稼ぐ力があれば、それが雇用に跳ね返ってくる。単純な例で考えてみると、まちの外に地ビールを売り、それがどんどん売れてくると生産を増やすようになり、より高い賃金で人をもっと雇用することが可能になる。これが理想的な良い循環である。さらに、稼いだお金がまちの中の様々な所で使われるであろう。使われるということは、みんなが何かを買ったり、サービスを受けたりするということだが、そういったものが多くの部門であればあるほど多くの人の所得になる。これが、いわゆる経済の波及効果である。

1980年代に発展なき成長ということが言われた。発展なき成長、つまり国から地方への財政移転、一言でいうと公共事業の原資である地方交付税、補助金といったものが、地方に送られてきて、それでもって地方が発展しているように見えることである。確かに、お金が入ってきているので地域の所得は増加するが、本当にそれが「発展」につながっているのかどうかは疑問である。

人口減少時代のまちの振興:ミクロな行動

日本全体でみると、社会増減というのは基本的にはほとんどない。外国からの移民、移住者があまりないので、人口増減に関係するのは出生と死亡だけである。ところが、市町村になってくると、人口増減には自然増減だけでなく社会増減も大きな役割を果たしてくる。ただ最近の動向をみると、地方の多くの市町村で転出超過ながら並行的に両者が低減傾向である。それは、高度経済成長期に比べて人口移動率の低下という現象で地域間格差の長期的な縮小を示唆している。

市町村が地方創生の総合戦略の中で、必ず一緒に考えるようにといわれているのが人口予測である。人口予測というのは、自然増減の出生・死亡と社会増減の転入・転出の両方ある。転入と転出については、ほとんどの市町村が移住促進、定住促進を施策として考えている。自然増減について、死亡は高齢化社会で元気な高齢者の健康寿命をどれだけ延ばすか、出生は子育て支援や若い女性の働く環境を非常に良くするといった施策を打ち出している。しかし、こういった子育て支援を担当する課と移住を支援する課が一緒になっている市町村はほとんどない。

仮に労働需要が増えて若い人が入ってくればそれは移住を伴い、すぐに子どもは増えないかも知れないが将来的には出生率の増加につながるはずである。また、元気なお年寄りがやってくれば、年金生活とはいえ少しでも働いて、それが死亡率を下げることになる。そこでは、社会増減と自然増減はリンクしている。子育て支援と移住促進は同じ課で考えるべきである。さらに言うと、産業振興についても、それは必ず人口移動に結び付くであろう。産業振興、移住、子育て支援は、ひとつの屋根の下でセクションが違っていても常に一緒に議論をして取り組んでいかないと、トータルでのまちづくり(総合戦略)は出来ない。

地方創生のピットフォール(落とし穴)

このように考えてきても、地方創生には、幾つかの落とし穴(ピットフォール)が存在している。その例をいくつか紹介する。

まず1番目は「移入代替」の考え方である。移入代替とは移入置換とも言われるが、経済発展の中でこれまで域外からの移入に依存してきたものを、まちが実力をつけて自らが生産供給できるようになり、さらには、それを移出していくという考え方で、経済発展の基礎でもある。しかし、経済規模の小さな地域がそれを目指そうとすると、まちに供給能力が小さいために反ってまちの外からの移入が増えてしまい、まちの経済収支の赤字幅が大きくなっていくことがある。ここでも身の丈に合った成長戦略が求められる。

2番目は「企業誘致」に関する落とし穴である。いまもって、ほとんどの地方自治体では企業誘致に熱心である。たとえ、誘致企業は景気が悪くなると出て行ってしまうといわれても、雇用吸収に即効性が有り、地域の生産額も視覚的には増えるからである。しかし、企業誘致には戦略が必要である。1つは、いまある企業の景気変動に対する反応とはできるだけ逆方向になる企業の立地を考えるべきだということである。たとえば、輸出企業は円安時には業績が良いが円高時には打撃を受ける。こういった企業が地域経済の中心であると、地域経済は為替レートに敏感となり、安定性を欠くことになる。したがって、地域の産業構成には、できるだけ多様性を必要とする。

もう1つは、経済循環を考えた誘致施策である。誘致した企業の生産活動で、仕入れ品の多くが地域外からで、地域に落ちるのは従業員の給与だけだという話は少なからずある。地域に供給源がない場合は仕方がないが、食料品製造業の場合は地元からも供給が可能な場合もある。こういった現実を考えないで、誘致した企業の経済波及効果を推計すると過大評価になってしまうことがある。データは、あくまでもこれまでの趨勢であり、具体的な立地企業について経済循環の構想を念頭に置いた調査・ヒアリングやグローバル情勢を読んだマーケット分析が必要となる。

3番目は「地域連携」に関することである。地方創生の加速化交付金においても申請のキーワード(要件)に「連携」がある。自治体間の連携や企業、大学との連携も掲げられている。そのなかでも地域連携はダウンサイジングなまちづくりを考える際に避けて通ることの出来ない事柄であると同時に極めて実効性が難しいことでもある。

図4はその1つの例示である。地域の中心的なまちであるA市の商業を考えると、D町の農業従事者の買い物は重要な収入源であり、D町の農業振興はA市に対して消費の外部経済をもたらす。しかしながら、A市はD町の農業振興は行わない。逆にD町の農業振興がうまくいかないと、町は宅地化と大規模小売店の誘致を推進するかもしれない。その結果、A市の中心部が空洞化という外部不経済も生まれる。また、周辺のC市ではその多くの住民がB町の工業団地に通勤しており、従業者の住民税はC市に入る。この意味でC市にとってB町の製造業振興は重要である。B町は税収増と雇用創出で工場を誘致しようとするが、固定資産税は増えても雇用はC市で増える。B町にとってあまり雇用効果がない。C市は雇用創出の努力をするインセンティブが生まれない。

図4:市町村間の外部経済と不経済
図4:市町村間の外部経済と不経済

総合戦略の実施は、基本は市町村単位なので、このようなことが生じる可能性は否定できない。それぞれの自治体の首長は、その自治体の住民によって選ばれているのだから。こういったことを克服するのに地域連携が意味を持ってくるが、各自治体の建て前と本音が交錯する中では、実効性のある地域連携を行うにはもっと広域的な自治体である都道府県が本来調整すべき事である。

4番目は「経済モデル」への過信である。これまでの論調と矛盾するようであるが、モデルには前提条件があり、そこには当然適用範囲というものが存在することを忘れてはならない。たとえば、ある産業の生産物やサービスに対する需要が高まると、当然のことながら労働需要が高まることになり、やがては雇用が増加することになり、域外からの転入者も生まれて人口も増加することが期待される。これは需要サイドで見た経済モデルのストーリーである。

しかし、現実はそう教科書通りには行かない。介護分野での需要が高まり、働く人が必要となっても、そう容易には増えないであろう。また、一次産品の出荷が好調で、もっと生産を増やしたいが、現実にはその労働力を確保できる保証はない。産業連関モデルのような需要主導の経済モデルでは生産需要があれば、それに応じて雇用は増えることになっている。

そこには、労働供給という労働のサプライチェーンを考慮する必要がある。働く側にとってみれば、賃金も重要だが、それ以外にも労働環境や福利厚生、雇用形態といった要素も無視することは出来ない。そういった労働市場の需要と供給の両面を見据えた分析を心がける必要がある。

地方創生の本質

受験勉強には合格体験記が付き物である。誰しも、そのサクセス・ストーリーを自分に当てはめたいと思う。しかし、合格体験記をそのまま真似ても、現実にうまくいくことは多くはない。それは個人の資質や環境が異なるからである。ただ、勉強をすることの本質は同じである。地方創生も同じだと思われる。巷には地域活性化の成功例を紹介した報告書や書籍、さらにネット情報が溢れている。いくら境遇がよく似ているからといって成功事例をそのまま真似てもうまくいかない。それぞれのまちには固有の歴史と人材も含めた地域資源があるからだ。しかし、地方創生の本質は変わらない。産業と雇用の側面でいうと、基盤産業の素となる有形・無形の地域資源をいかに見つけ、それに磨きをかけ育てていくかである(注6)。これには、弱体化した地場産業を復活させること、基盤産業候補を外から誘致することも含まれる。伸ばすべき産業を識別し、産業間のつながり(連関)を強化、非基盤産業への波及効果の向上を目指すことである。

この基盤産業の育成は、リカードの比較生産費説(比較優位)に基づいた考えであり、一国の産業振興のあり方に対してもこの考え方が使われる。しかし、比較優位な産業に重点化するに当たっては、(潜在)需要が十分にあるか、価格優位性があるかといった市場性の概念が必要である。需要が小さいと、いくら頑張っても稼ぐ力を大きくできない。価格優位性とは、市場で直面する他の競合財との相対価格の問題であり、他地域の比較優位な産業と比べて価格的に優れているかという判断である。価格に関して優位性がない場合は、商品の差別化ということで対抗するしかない。これを経済用語で言うと「代替の弾力性が小さい」、つまり簡単には取り替えが効かないものを生み出すということである。これにはイノベーションが必要である。

こういった場合には、そこでの人材の果たす役割が重要になってくる。岡目八目を期待できる外部の視点(異質な人材の誘致)、そこから生まれる人のつながりというネットワークは、次々にまちに外部効果を生み出す。そして、展望を持ったまちの将来を考える先見性や先導性もまた人の役割である。

これらがトリクルダウンではない地方創生を導くのである(注7)。

『日経研月報』2016年7月号に掲載

脚注
  1. ^ 就業者のシェアや産出額のシェアに対して生産額のシェアの方が高いのは、東京都の生産性が高いことを示唆している。
  2. ^ ここでの大企業は経済センサス基本調査(2014年)においての定義を用いており、たとえば、製造業や建設業、運輸業では資本金3億円超かつ常用雇用者規模300人超の企業を意味している。
  3. ^ 最近見た中では、香川県三木町の取り組みは興味深い。ここは高松市の東に位置するベットタウン的なまちであるが、地元には香川大学農学部と医学部のキャンパスがあり、若い人が積極的に参加するまちづく施策や、かなり詳細な子育てプランが示されている。
  4. ^ 松山市は人口規模が大きいので突出していることから松山市を除いた図となっている。松山市は回帰線より上に位置している。
  5. ^ 2010年の国勢調査による。
  6. ^ 「基盤産業」とは、域外からまちにマネーをもたらす産業のことで移出産業ともいわれる。これに対して、「非基盤産業」とは域内需要を満たす産業、基盤部門からの派生的産業である。
  7. ^ トリクルダウンとは、地域経済的には、豊かな地域がより成長することで、その果実が雨傘からしたたり落ちるしずくのように、貧しい地域の成長に導くという考え方である。経済学ではサプライサイドに属する考え方である。

2016年7月21日掲載

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