地域経済活性化の矢を

中村 良平
ファカルティフェロー

2005年8月の郵政民営化を争点とした衆議院選挙以来、いつの間にか二者択一方式が選挙に定着してしまった感がある。「改革か、反改革か」「好きか、嫌いか」。争点を一つに絞り、それに対する是非を問うという形である。分かりやすい半面、ムードに乗じるポピュリズム(大衆主義)を反映する結末になる可能性もある。

そして、今回の参院選挙の争点は、まさに「アベノミクスにYesか、Noか」という二者択一式である。ただ、安倍内閣の経済政策の中身は当然ながら多方面にわたっており、二択であれば、その各論に対するそれぞれのYes or Noの判断をするべきなのである。本来は、複数の政党の政策を比較して政党や候補者を選ぶのが望ましいが、民主党政権が昨年の総選挙で大敗してからは、政策の多様性が欠如し、有権者の選択の幅が狭まってきている。

今回、有権者はどう判断するか。憲法改正、雇用問題、あるいは年金をはじめ社会保障の問題、エネルギー環境問題など、関心の強弱は個人によって異なる。最も重要と感じる事柄について評価をして判断をすることになる。

大都市中心

それでは我々、地方で働き、地方で生活し、地方で活動する者はアベノミクスの政策をどのように評価すればいいであろうか。そう考えると、第3の矢の「成長戦略」には「地方経済再生と活性化」の視点が欠けていることに気付く。

地域対策の国家戦略特区は大都市中心であり、規制緩和の空中利用権移転もそれは大都市の話であって、地方はむしろ中心部の空き地をどうするかの方が問題である。また、少子高齢化と人口減少、工場の海外移転など雇用の喪失や税収の低下に多くの地方は直面しており、雇用創出プログラムが内包された具体的戦略が乏しい。

また、2本目には国土強靱化政策という勇ましい矢もあるが、これは取り扱いを一歩間違うと、日本列島オール公共事業というかつての全国総合開発計画の二の舞となる気配さえ漂う。

3つの循環

そもそも第1の矢の「金融緩和政策」は、日銀の国債購入などで資金が市場により多く出回ることを意味する。増えたマネーは、循環し実際の需要に回らないと、経済は活性化されない。循環することは誰かの所得になるからである。

地域経済の活性化を図るには、3つの循環ができているかどうかがポイントとなる。1つ目は「所得になったマネーの循環」である。地方から都会に住む子どもへの仕送り、地方工場から本社への送金(本社サービスの対価でもある)などは、地域経済にとっての所得の流出であって、地域内に資金が循環できていないことである。

分配された所得(税引き後で)は、それが使われるか使われないかである。使うことは消費であり、使わないことは貯蓄である。その消費に回ったマネーが地域に還元されないと地域経済は活性化しない。つまり、2つ目は「消費されたマネーの循環」である。

基盤産業

そして3つ目は「貯金されたマネーの循環」である。地域の貯蓄は金融機関において運用されるが、地域に有望な投資先がないと国債などの有価証券の購入に回ることになる。近年、地方の金融機関は国債購入の割合が高まっており、金融緩和策が債券価格を大きく下げることになれば、地方経済は大打撃を被ることになる。

地域が活性化するには、これら3つの域内循環の程度が高まることが十分条件である。必要条件は具体的な成長素材を見いだし、そこから地域産業の国内外の地域間競争力を高め、新たな輸移出品を生み出すことである。

地域経済は外貨を稼ぐ強力な基盤産業を複数持つべきであり、これを可能にするには地域をより広域的にとらえる必要がある。もっと地域特性に即した規制緩和ができる権限を都道府県に与え、その地域間で競争を促すこと、これが地方経済の活性化にとって必要な矢である。

2013年7月11日 山陽新聞に掲載

2013年7月22日掲載

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