ポートランドに見るまちづくりと産業振興(下)

中村 良平
ファカルティフェロー

米国・ポートランドの都市政策のもう1つの特徴は、都市成長の境界を定めることによる都市成長管理政策の実施である。これはオレゴン州の土地利用政策と連動しつつ、これまで人口増加による都市のスプロール開発を抑制してきたのである。

都市成長境界線を決めるのはポートランド市だけの意志決定ではない。周辺の23自治体と構成されるMETRO(メトロ)と呼ばれる地域政府によって決定される。METROは、選挙によって議員が選ばれ、徴税権や起債権を持つ。日本には広域連合はあってもこうした広域政府は存在しない。米国でもここだけだと聞いている。

高度な土地利用

ここでも住民参加のまちづくりが貫かれている。1994年に策定された2040年の都市圏成長構想では、METROにより示された複数の将来像について議論が交わされ、何度もワークショップが行われ、資料を公開することで住民が豊富な情報に基づく選択を可能とした。そのような中、かつて計画されたポートランドを横断するバイパス道路計画は中止され、路面電車に変わった。

都市の無秩序な外延的拡大を抑制する成長管理政策の一方で、ダウンタウンの再生と高密度な土地利用を目指すのがポートランドの外局である「ポートランド開発委員会」である。都市内の再開発地区を定め、そこの資産価値を高めるべく投資を行う。何年か後に資産価値が上がり、固定資産税の増収により結果的にプロジェクトをファイナンスする。市街地の空き地や駐車場が減少し、高度な土地利用が路面電車の駅を中心に生まれている。

パートナー探し

人と環境に優しい都市を目指すポートランドでは、地域振興で「環境の良いまちは経済も発展する」という理念がある。これが産業振興をつかさどる「ポートランド開発委員会」のもう1つの役目だ。一言でいうと、都市全体としての外貨獲得戦略である。今は環境技術・産業を基軸とした「グリーン・テクノロジー・クラスター戦略」を掲げている。

再生可能エネルギーの技術など環境技術の企業における移出産業部門の成長と雇用創出を目指し、積極的に海外の都市に赴きパートナーを探し出す。ポートランドの企業の製品の移出先、ポートランドの環境技術を生かせる企業の連携、上流と下流の産業連関を域外に求めるという姿勢だ。岡山の企業も重要なパートナーシップを築けるかもしれない。

いずれも岡山市のまちづくりや都市政策、産業振興策に大いに参考となる。

地元大学と連携

もう1つ、特筆すべきは、地元のポートランド州立大との連携が密であること。同大のパンフレットを見ると「良いまちには素晴らしい大学があり、いい大学は良いまちを必要とする」と書かれている。そして、市の経済、雇用面にどれだけ大学が貢献しているかを数字で示している。

研究面では、METROと大学と共同での地域の交通経済分析や将来像の予測が行われている。また大学教育プログラムでも住民参加型まちづくりを支援するカリキュラムが多数組まれている。

ポートランドは岡山市と同様、地方中核都市だ。バラ園をはじめとする庭園があり庭園都市としての名声もある。都市政策面、産業振興面、そして教育や学術面における産官学での交流を深める価値のある都市であろう。

2013年4月26日 山陽新聞に掲載

2013年5月20日掲載

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