ポートランドに見るまちづくりと産業振興(上)

中村 良平
ファカルティフェロー

米国・ポートランド市は、人口約70万人、都市圏では200万人近い、全米でも転入者が後を絶たない住みたいまちとしてトップクラスに位置するオレゴン州の最大の都市である。都市計画や交通政策を学ぶ者のみならず、実践する者にとっても、ポートランドの都市政策やまちづくりは、とても参考になる生きた教科書である。

このまちに昨年の11月下旬と今年の3月末に、岡山大学機能強化戦略経費による「持続可能な地方都市形成の国際比較研究」プロジェクトの一環で、大学間の交流促進も兼ねて同僚3人と2度訪れた。

需要増やす努力

ポートランドはバスや路面電車(ライトレール)などの公共交通の充実したまちとして知られているが、かつて1970年代において、路面電車の整備や延伸を計画した際、事前の需要予測結果から市はそれに懐疑的であった。わが国であれば、その段階で費用対効果が1を下回るということで路面電車の延伸は廃案となる。

だが、ポートランドでは、大前提として「公共交通によるまちづくり」を推進する、つまり根底に「公共交通の充実は住む人とまちを豊かにする」という理念があった。それであれば何とか公共交通への需要を増やそうと努力したのである。

大学内に路線

ダウンタウンの中では運賃を無料とし、運行時間の間隔を短くした。さらに市街地再開発による公共空間の創出である。代表的なのは「パイオニア・コートハウス・スクエア」と呼ばれる旧裁判所前に広がる空間で、その中心部はパフォーマンスや露天商でにぎわいをみせている。これにあいまって、周辺に商業施設が張りついた結果、人通りは絶えない。この公共空間の両側を路面電車が走る。

路面電車は、市内を中心に走るストリートカーと呼ばれる電車と、郊外に出ると高速鉄道に変わるライトレールの2種類があり、前者については、なんと大学のキャンパス内を路線が走り、停留所もある。

市民がサポート

確かに米国の他都市と比べて、ダウンタウンの車の量はあきらかに少ない。コンパクトなまちと公共交通機関の充実は、住む人だけでなく訪れる人にとっても利便性と快適性を高める。

まちのために良いと判断した政策は、それを貫くという姿勢である。もちろんその判断は最終的には市長の決断によるところではあるが、そこに至るには徹底的な情報公開に基づく住民参加の形態が取られている。よって、市の政策は多くの市民によってサポートされているわけであるし、サポートしている市民もそれに応えているという良い関係となっているのである。

2013年4月25日 山陽新聞に掲載

2013年5月20日掲載

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