少子化政策の評価手法確立を

木村 秀美
RIETI研究員

ようやく「評価分科会」

少子化に対応するため、人と人との絆の大切さを再認識し、子どもを産み育てることに夢を持てる社会を実現する方策について検討する「少子化への対応を考える有識者会議」を設け、その下に「家庭に夢を分科会」と「働き方分科会」を設置する。

これは先日官邸から発表された、少子化対策のための新たな有識者会議のことではない。筆者が「働き方分科会」メンバーとして参加した1998年の「少子化有識者会議」の概要だ。

それは、下がり続けていた合計特殊出生率(一人の女性が一生の間に産む子供の数)が97年についに1.39になったため、この問題を幅広く世に問う必要があるという理由で設置されたものである。しかし2005年に同出生率は1.25まで低下し、8年間でさらに10%も減少した。

その間、政府が何もしなかったというつもりはない。

90年代半ばの「エンゼルプラン」、03年の少子化社会対策基本法を経て、近年には「子ども・子育て応援プラン」などが行われた。しかし残念ながら、政府の対策が効果的でなかったことは明らかだろう。

ここで問題とすべきは、政策の「評価」である。

政府は「従来の対策のみでは、少子化の流れを変えることはできなかったことを深刻に受け止める必要がある」という。しかし、過去10年の少子化対策の効果について精緻な評価を行い、どのような問題点があったのかについての検証は行われていないか、少なくとも発表はされていない。

今回発表された「子供と家族を応援する日本重点戦略会議」では、その下に「基本戦略」「働き方の改革」「地域・家族の再生」「点検・評価」の4つの分科会が設けられる。うち3つの分科会は、この問題についての議論が8年前からあまり進歩していないことを裏付ける分科会の設定であるが、ようやく評価に取り組むようである。

「評価」においては、対象となる人々の選定、評価の手法、費用対効果の問題などについて専門家の知見を取り入れ、できるだけ精緻な測定をすることが必要だ。政策評価は、取り組みやすい地域や対象から取り組むことにより過大評価のバイアスがかかる可能性が高いからである。

サンプルをランダムに

そこで紹介したいのが、発展途上国における開発プログラムの評価で試みが始まっている実験的評価手法―政策介入の効果をその他可能な要因を排除して正確に測る評価手法―である。

その特徴は、薬の治験に似ており、ランダマイゼーションと呼ばれる実験デザインによってサンプルをランダムに選ぶことにより、過大評価に陥りやすい従来の政策評価の問題を回避する方法である。もちろん政策の対象をランダムに特定の個人や家計に割り当てることは不公平であり、倫理的に問題だという意見もある。しかし、ある一定期間の予算制約によりプログラムを順番に実施する場面は多々あり、その順番をランダマイズすることで倫理的問題を回避するデザインを施すことは可能である。

日本ではこの評価手法はまだ広く社会で認識されているとはいえないが、アメリカでは開発プログラムだけでなく、国内における社会政策のプログラムにおいてもこの手法が取り入れられている。他の先進国に先駆けて人口減少社会を迎えた我が国おいて、少子化問題は財政、社会福祉、教育、労働問題など社会のあらゆる面に大きな影響を与え始めている。いつまでも同じことを悠長に議論している余裕はないだろう。

2007年3月6日付フジ・サンケイ・ビジネスアイに掲載

2007年3月27日掲載

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