OPECとシェール企業の果てしなき戦いの行方
米国産原油の輸出が急拡大、そして誰もいなくなる?

藤 和彦 上席研究員

7月17日の米WTI原油先物価格は6日ぶりに反落した(1バレル=46.02ドル)。

先週、米国の原油在庫が2016年9月以来の大幅減となり、国際エネルギー機関(IEA)が7月13日に公表した月報で「今年は世界の原油需要の拡大ペースが加速する」との予想を明らかにしたことなどを材料に、相場に強気モードが戻り始めていた。

だが、17日に米エネルギー省が「8月のシェールオイルの生産量が日量558.5万バレルとなり、7月の過去最高記録(同547.2万バレル)を上回る」との見通しを発表すると、「米国で供給過剰が続く」との警戒が広がった。6月のOPECの減産の遵守率が5月の110%から92%へ大幅に低下したことも売り材料となった(その後「サウジアラビアが追加輸出削減を検討している」との報道などで原油価格は47ドル台に上昇した)。

原油価格は7月に入り1バレル=45ドル前後のレンジで推移しており、市場関係者は相場が動く契機として、7月24日にロシアのサンクトペテルブルクで開催される主要産油国の減産遵守監視委員会(JMMC)で新たな決定がなされるかどうかに注目している。

JMMCでは、減産措置の例外扱いになっているナイジェリアとリビアに対し上限枠が設定されるとの観測が出ている。だが、マズルーク・クウェート石油相が先週末に「ナイジェリアとリビアの生産制限は時期尚早である」と発言するなど情勢は不透明である。

減産幅の拡大にブレーキをかけるサウジの苦境

原油価格は2016年11月末の減産合意以降、1バレル=50ドルを超える水準が続いていたが、このところ低迷しているため、「減産幅の拡大が必要」との論調も強まっている。

OPECの原油生産量(減産実施13カ国ベース)は今年に入り確かに減少している。しかし、昨年の原油生産量を見ると6月の日量約3230万バレルから11月に向けて100万バレル以上増加しており、減産目標である日量3250万バレルという水準は減産が議論され始めた昨年6月よりも実は高い。

IEAは先述の月報で「今年上期の世界の原油在庫は日量21.5万バレル増加しており、世界の原油市場の再均衡化が始まったとの確証はない」としている。OPECも7月12日に発表した月報で「加盟国の原油生産量は依然として需要を上回っており、2018年も供給過剰が続く」との見通しを示した。

思いっきり増産をした後に減産をしたところで原油市場が均衡するわけがない、ということなのだろう、原油価格を上昇させるためにOPECはさらなる減産の実施が不可避な情勢になっている。

だが、減産幅拡大の実現は極めて困難であると言わざるを得ない。減産合意実現の立役者だったサウジアラビアが苦境に追い込まれているからである。

関係者によれば、サウジアラビアの8月の原油輸出量は今月に比べて日量60万バレル減少する(7月12日付OILPRICE)。国内需要(冷房用の発電用)が急増(日量62.5万バレル増)し、輸出に回せる原油が減るためだが、これによりサウジアラビア経済の成長を支える外貨収入が一段と落ち込むことだろう。

サウジアラビアは減産実施によって今年第1四半期の経済成長率がマイナスとなり、足元の景気がさらに悪化している(今年1月から消費者物価指数の前年割れが続いている)。6月の原油生産量が減産合意後初めての増加となったのは、我慢の限界に到達したということなのかもしれない。サウジアラビアはこのように減産合意の水準を維持することすら厳しくなっており、さらなる減産を実施できる余裕は全くないのではないだろうか。

仮にOPECが減産幅の拡大を決定したとしても、カタールの前石油相が7月13日に「原油価格が上昇しシェール企業などがOPECの市場シェアを奪うだけだ」と主張したように、OPECにとって有益な結果をもたらすとは思えない。今年後半からは、OPEC内で「抜け駆け増産」が発生することも予想されており(18日、エクアドル政府は日量2.6万バレルの減産を止め原油生産量を同54.8万バレルに戻したことを明らかにした)、原油価格がさらなる下押し圧力に見舞われる可能性は高い。

米国産原油の輸出が急拡大

翻って、OPECを窮地に追い込んでいるシェール企業はどうだろうか。

7月14日時点の米石油掘削装置(リグ)稼働数は前週比2基増の765基となり、増加のペースは鈍化している。11日、米エネルギー省も2018年の米国の原油生産見通しを日量990万バレルに引き下げた(6月時点の見通しは同1001万バレルだった)。

IEAのチーフエコノミストは13日、「米FRBが保有資産の縮小を開始すれば、確実にシェール企業の悪影響を及ぼす」との分析を示すなど資金調達の面から変調の兆しも出始めている(7月15日付日本経済新聞)。低金利下で高い利回りを求める投資家はシェール企業が発行するジャンク債の購入を増やしてきた。だが、「市場の流動性の低下で投資家がジャンク債への関心を減らせば、キャッシュフロー不足に悩む多くのシェール企業が経営難に陥り、その結果シェールオイルの増産が止まる」との観測である。

しかし、筆者はシェール企業の「レジリエンス」(耐久力、回復力)はさらに高まったのではないかと見ている。シェール企業のレジリエンス向上に資しているのは輸出拡大である。

減産により割高になったOPEC産原油の世界市場でのシェアを、米国産原油が急速に奪っている。米国の5月の原油輸出量は日量100万バレルを突破し、6月は同125.5万バレルとなって1970年代以降過去最高となっている。輸出先を見ると、1位は引き続きカナダだが、中国への輸出規模が日量14.7万バレルに拡大した。10月にはインドにも初めて米国産原油が輸出される(7月11日付ブルームバーグ)。

米エネルギーコンサルティング会社、PIRAエナジーは7月13日、「米国は2020年までに原油輸出国として上位10カ国にランクインする可能性がある」との試算を明らかにした。それによれば2020年の米国の原油輸出量は日量225万バレルとなり、現在のイランの原油輸出量を凌駕するという。米メキシコ湾では日量300万バレルを超える原油輸出にも対応できる施設の拡張が進んでいる。このままシェール企業が、米国ばかりか世界の市場で躍進を続ければ、OPEC諸国はますます存在感を低下させていくことになる。

米国は、2015年12月の原油輸出解禁以前と比べると、日量100万バレル以上も多くの原油を輸出している。今や米国の原油在庫の減少は、需要の増加よりも輸出の増加による要因のほうが大きいのではないだろうか。そうだとすれば、米国の原油在庫の減少は世界の他の国で原油在庫が増加することを意味することになり、今後、米国の原油在庫の減少による価格上昇効果は小さくなっていくだろう(7月10日付ZeroHedge)。

米モルガンスタンレーは7月6日、「原油市場が均衡を取り戻すためには米国のリグ稼働数が150基以上減少する必要がある」との見方を示した。だが、現在の原油価格の水準では、リグ稼働数が減少する可能性は少ないだろう。

仮に米国の稼働リグ数が減少したとしても、カナダから米国への原油輸出量が増加しており(5月は前月比日量29万バレル増の同343万バレル)、メキシコ湾での増産も続くはずである(トランプ政権は10日、メキシコ湾で産出される原油に対するロイヤリティーを引き下げたことから同地区での生産活動はさらに活発化することが予想される)。

米国の戦略石油備蓄(SPR)は今年既に約1300万バレル放出され過去12年で最低水準となっているが、今後もさらに大量の原油が取り崩されることが予定されている。以上の事情から、ドライブシーズンが終わる9月以降、米国の原油在庫はむしろ再び増加するのではないだろうか。

原油市場の運命を握るのはやはりサウジ?

このところ市場では原油需要の堅調さも「買い」の材料となっている。中国では6月の原油輸入量および国内での原油処理量が高水準だった。だが、中国は国内で石油製品の供給過剰が深刻さを増しており(1〜4月のガソリン消費量は前年比マイナスとなったため国有石油大手は夏季に精製を削減する方針を示している)、この傾向はどこまで続くか疑問である。インドでもモティ政権の性急な制度・税制改革の悪影響から原油需要が伸び悩んでいる。

OPECが指摘しているとおり、世界の原油市場がいまだ供給過剰であるのだとしたら、原油の供給量が需要量と一致する水準になるまで原油価格が下がり続けることは避けられない。「シェールオイルの増産が止まってもブラジルなどの生産増が続く2010年代末まで原油価格は上昇しない」との予測も出始めている(7月6日付ブルームバーグ)。

しかし、1バレル当たり35ドルを下回る原油価格が続けば、シェール企業はもちろん、OPEC諸国、特にサウジアラビアが無傷でいられるはずがない。

イラクが過激派組織「IS」(イスラム国)の拠点モスルを解放したことにより、イラクが隣国イランの配下となる可能性が高まっている。それに伴い、サウジアラビアにとっての次の「敵」はイラクになるとの懸念が高まっている(6月21日付ブルームバーグ)。

サウジアラビアがイラン、カタールに次いでイラクとも対立を深めれば、中東地域全体の地政学リスクが上昇し、OPECの協調減産の枠組み全体が崩壊しかねない。

世界の原油市場の運命を握るのはやはりサウジアラビアなのだろう。

2017年7月21日 JBpressに掲載

2017年7月28日掲載