OPECに勝利したシェールオイル、死角はないのか?
米国の原油需要が左右する原油価格の先行き

藤 和彦 上席研究員

3月13日の米WTI原油先物価格は6日続落し、1バレル=48.40ドルとなった(週明けの時間外取引では一時47.9ドルと11月30日以来ほぼ3カ月半ぶりの安値を更新した)。その後の原油価格は40ドル台後半で推移している。

OPECの減産合意は予想を大幅に上回る水準で履行されている(国際エネルギー機関によれば1月、2月を合わせた減産の遵守率は98%になった)ものの、米国の原油在庫が過去最高を更新するなど、米国の需給が改善しない状況が続いている。

「OPECなど主要産油国が6月まで減産を進めても、世界の原油市場の供給過剰が解消しない可能性がある」ことが市場で意識され、原油価格が急落したとされている。

3月に入って、なぜ市場関係者は急にこのことを意識し始めたのだろうか。

OPECが史上初めて会談を行った相手とは

筆者は、OPECのある動きに注目している。3月初旬、米テキサス州ヒューストンで開催されたエネルギー会議「CERAウィーク」を利用して、OPECが史上初めてシェール企業やヘッジファンド関係者と会談を行ったのだ。

OPECはこれまで自らの世界市場のシェアを奪うシェール企業を「獅子身中の虫」と忌み嫌っていた。原油価格の大幅な値動きを不必要に引き起こすヘッジファンドも「投機筋」として蔑視してきた。しかしシェール企業や投資ファンドが世界の原油市場、特に原油価格に与える影響が大きくなったことから、「宿敵」に歩み寄らざるを得なくなったようだ。

OPECはまずシェール企業と会談した。CERAウィーク開催前夜の3月5日の夕食会には、OPECのバルキンド事務局長の他、米国の大手シェール企業や石油サービス企業トップら約20名が出席した。

参加者らは「原油市場はさらに均衡すべきであり、在庫はより低水準な方が全員にとってに有益だ」との意見で一致した。だが、シェール企業関係者は増産を続ける姿勢を崩していない。OPECの減産による価格上昇の効果をシェール企業の増産が打ち消すという構図は変わらないままである。サウジアラビアのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相はCERAウィークの講演で、増産を続けるシェール企業に対し「(減産効果への)ただ乗りは駄目だ」と牽制している。

次にOPECは3月7日に、投資ファンド関係者と会談の場を持った。その詳細は明らかになっていないが、投資ファンド関係者が「OPECが減産措置を夏以降も延長するかどうか」に多大な関心を持ったであろうことは想像に難くない。

ファンド関係者が「失望売り」か

これらの会談についての情報がCERAウィーク出席者の間に流通し始めると、ヘッジファンドの動きをきっかけに、OPECの減産合意決定(昨年12月30日)以来1バレル=50〜55ドルのボックス圏で推移していた原油価格の下落傾向が強まった。

米WTI原油先物市場で史上最高水準に積み上がった買越残高の取り崩しは今後も拡大する可能性が高いとされている(3月13日付ブルームバーグ)。原油価格はどこまで下がるのだろうか。

この点について、フィナンシャルタイムズ(3月7日付)の記事が参考になるだろう。

その記事とは、「2016年11月30日のOPEC総会前日にサウジアラビア政府が大手ヘッジファンド関係者と接触し、減産合意の内容を事前にリークしていた」というものだ。これが事実だとすれば、サウジアラビアはヘッジファンド関係者と結託して原油価格上昇を実現したと言っても過言ではない。

このところヘッジファンドによる米WTI原油先物市場の買越ラッシュが続いてきた。だが今回の会合でヘッジファンド関係者が「OPECは次の手を繰り出すことができない」と判断して逆に「失望売り」に回ったのではないだろうか。だとすれば、原油価格は昨年のOPEC総会以前の水準(1バレル=約42ドル)にまで下落してもおかしくない。

勢いづくシェール企業

OPECの価格上昇シナリオにとって大きな障害となったシェール企業の増産攻勢はとどまるところを知らないようだ。

3月10日時点の米石油掘削装置稼働数は前週比8基増の617基となり、4月のシェールオイルの生産量は17カ月ぶりに前年比プラスになる見込みである。米国の原油生産量(日量約900万バレル)の50%以上がシェールオイルとなり、「米シェールの成長の第2波が始まった」との指摘もある。

米国における主要なシェールオイルの産地はバッケン(ノースダコダ州)やイーグルフォード(テキサス州)だったが、このところパーミアン地域が活況を呈している(原油生産量は日量約220万バレル)。テキサス州からニューメキシコ州に跨がるパーミアン鉱区は、他のシェールオイル鉱区の生産量が回復しない中、唯一増産を続けており、新たに稼働を開始する石油掘削装置も当該地区に集中している。

パーミアンへの投資が集中しているのは、恵まれた地質構造にある。原油が存在する層がミルフィーユ状に幾重にも重なっていることから、他のシェール層に比べて同じ投下資本でより多くの原油が確保できるのだ。加えて技術革新も進み、新規坑井1本当たりの生産量は2011年末から現在までに6倍となり、生産コストは1バレル=30ドル以下になっているとも言われる。

シェール企業は生き残りをかけてパーミアンの開発・生産を拡大している。米石油メジャーも、その動きを黙って見過ごすわけにはいかなくなっているようだ。

今年1月、米石油メジャー最大手のエクソンモービルがパーミアンで掘削用地を66億ドルで買収し、ライバル企業であるシェブロンもパーミアン地区での生産に重点投資を行う意向を表明した。メジャーが競ってシェールオイルに投資するのは、原油価格の先行きが不透明な状況下で短期で投資回収できる利点があるからである。

最近では「パーミアンはサウジアラビアのガワール油田(日量550万バレル)を超える世界最大の油田地域となる」との指摘も出始め、パーミアン地域の資産価値はうなぎ登りに上昇している。2012年時点での鉱区の価値はエーカー当たり約5000ドルだったが、昨年の取引最高額はエーカー当たり5万8000ドルに達した。58000ドルで購入しても原油価格が1バレル=30ドル前後でも利益が出るという。金融業界の今年のシェール企業への融資額は「パーミアン効果」で史上最高になる見込みである(昨年の約3倍に当たる66.5億ドル)。

だが、勢いづくシェール企業に死角はないだろうか。

「パーミアンの資産価値はバブルやポンジ・スキーム(ネズミ講)のような水増し価格に近づいている」との指摘がある(ダラス連邦準備銀行)。また、シェール企業の活動が急回復したことで、これまで低位で推移してきた生産関連コストが足元で急速に上昇し始めていることも見逃せない。

1バレル=30ドルを割る可能性も

OPECとの会談に出席したシェールオイル企業(パイオニア・ナチュラル・リソーシズ)CEOは、自らの増産姿勢を棚に上げて、「OPECが減産合意を延長しなければ原油価格は1バレル=40ドルに値下がりする」との懸念を示した(3月8日付ブルームバーグ)。ただしヘッジ取引を利用しているため、原油価格が40ドルに下落しても大きな打撃を受ける心配はないようだ(3月15日付ブルームバーグ)。 。

原油価格はこのまま1バレル=40ドルまで下落するのだろうか。

おそらく、米国の原油需要次第であろう。世界の原油需要の1割を占める米国のガソリン需要の伸びが鈍化すれば、原油価格にさらなる下押し圧力になるからだ。

米国の新車販売は2カ月連続で前年比マイナスとなっている。大手自動車メーカーが販売奨励金(インセンティブ)攻勢をかけているが、販売店で在庫が山積し、S&Pによれば1月のサブプライム自動車ローンの貸倒率は9.1%とーマンショック以降で最悪となっている。

12の州でガソリン税が今後値上げされることも予想されることから、「米国のガソリン需要は来年までにピークを迎える」との声が出始めており、原油価格は1バレル=30ドルを割る可能性もある。そうなればシェール企業も大量倒産を余儀なくされ、シェール・バブルの崩壊は米国経済に深刻な影響を与えかねない。

原油価格の安定が焦眉の急のサウジ

最後にサウジアラビアの状況について触れておこう。

来日したサルマン国王は安倍首相と会談し、石油依存体質からの脱却を目指すための「日・サウジ・ビジョン2030」を発表した。

ビジョン2030の実質的な責任者であるムハンマド副皇太子は3月13日、トランプ新大統領と会談するために訪米に出発した。オバマ政権時代に冷え込んだ両国関係を修復することが主目的である。これを受けて米国は前政権下で凍結されていたサウジアラビアへの武器輸出(イエメンでの軍事作戦に使用)にゴーサインを出した。

いずれも重要な政策の遂行だが、サウジアラビアにとっての焦眉の急は「原油価格をいかに安定させるか」であろう。サウジアラビアの今年の予算は原油価格が1バレル=55ドルで策定されており、財政が均衡する原油価格は同80ドル以上である。

原油価格の先行きに危機感を抱くクウェート・石油相は、OPEC加盟国では初めて「6月以降も減産合意を延長することを支持する」考えを明らかにした。OPECの雄であるサウジアラビアも、一刻も早く市場に対して新たなメッセージを発出すべきである。

さらに、財政面でも地域の安全保障面でも悪影響を及ぼしているイエメンへの軍事作戦を一刻も早く停止すべきことは論を待たない。だが、ムハンマド副皇太子にとっての「大きな失点」となる苦渋の決断をサルマン国王は行うことができるだろうか。

2017年3月17日 JBpressに掲載

2017年3月24日掲載