歴史的減産合意でも産油国を待ち受ける「茨の道」
ベネズエラの「メルトダウン」は起きてしまうのか

藤 和彦 上席研究員

12月10日、OPECと非OPEC産油国がオーストリアのウィーンで閣僚級会合を実施し、非OPEC産油国が合計約56万バレルの減産に合意したことで、原油価格は1年5カ月ぶりの高値となった(週末の時間外取引でWTIは1バレル=54ドル超、ブレントは同57ドル超となった)。しかし、上げすぎた反動から、原油価格は早くも大幅に下落している(12月12日のWTIは52ドル台、ブレントは55ドル台)。

その理由の1つとして、米国の石油リグ稼働数が引き続き増加基調にあることから、米国の原油生産量が増加するとの警戒感が高まっていることが挙げられる。

また、原油先物市場全体が「コンタンゴ(期近物の価格が期先物の価格よりも低い状態)」から「バックワーデーション」(期近物の価格が期先物の価格よりも高い状態)になったことも懸念材料だろう。

増産を準備し始めたシェール企業等が1年後以降の「先物売り」を活発化させたため、2017年半ばから2019年にかけての原油先物市場は既にバックワーデーションの状態になりつつあった。しかし、今回の減産合意によって、2017年前半までバックワーデーションになってしまった。

大手石油取引会社はコンタンゴの状態の下では、洋上で原油を貯蔵すること(いわゆるタンカー備蓄)で将来の利益を得ようとしてきた。だが、バックワーデーションとなると貯蔵によって得られるリターンが用船コストを下回ることになる。減産合意の予期せぬ結果として、洋上貯蔵されている数百万バレルの原油が市場に放出され、産油国の減産による価格上昇を抑制する可能性が高まっているのである(12月8日付ブルームバーグ)。

12月14日の米FRBの利上げも原油価格の下押し圧力になることは確実だ(14日の原油価格はWTIは50ドル台、ブレントは53ドル台に急落した)。産油国が望む価格シナリオ(1バレル=60〜70ドル台)は「茨の道」が待っていると言わざるをえない。

ベネズエラが中国に見捨てられる日

以下では、個別の産油国の事情を見ていこう。

筆者が最も注目しているのはベネズエラである。ベネズエラの原油生産を担う「ベネズエラ国営石油公社」(PDVSA)が、長らく苦境に陥っているからだ。

ベネズエラは過去30年間に海外からの借り入れでデフォルトや返済繰り延べを4回重ねてきた。

PDVSAは2007年から中国石油天然気集団公司(CNPC)から融資を受けるようになり、その額は既に650億ドル以上になっている。契約は「借金の返済を原油で支払う」ということになっており、原油価格が1バレル=100ドルの時に中国に支払う原油は日量23万バレルで済んでいた。しかし原油価格の急落後、PDVSAは日量55万バレルの原油を中国に輸出する羽目になってしまった。2015年は原油輸出量の45%が中国への債務返済に回り、同国の原油収入は激減した。

それを受けてベネズエラ政府は2016年6月に、中国に対して契約の見直しを要求した。その内容は「原油価格が1バレル=50ドルを下回る限り、1年間にわたり借入金の元本返済を猶予し、利子のみの支払いとする」というものだった。これにより、30億ドルのキャッシュフロー改善を実現する目論見だった。

しかし、中国側はこの要求を拒否する。同社の利息と元本の支払が年末に滞ることは確実となった。そこで、PDVSAは2016年11月に中国側からつなぎ融資(22億ドル)を受けてデフォルトを回避した。だが、その追加融資により、中国への原油供給は日量80万バレルにまで達してしまったとされる。

インフレ率が800%に達し慢性的なドル不足状態にあるベネズエラ政府は、原油生産を続けるのに必要な契約の一部支払いができなくなっている。これにより原油生産量は過去13年で最低水準に落ち込んでおり、中国政府は「融資の返済としての輸入(未返済金額は約200億ドル)が滞るのではないか」と気が気でない。

このような状況を前にして、中国政府はベネズエラとの戦略的パートナーシップという方針を転換しつつある。PDVSAは2017年4月にも多額の債務償還を迎えるが、中国側が再び支援の手を差し伸べるかどうかは不透明である。

ベネズエラの「メルトダウン」が原油価格を引き下げる

切羽詰まったベネズエラ政府は12月11日、「72時間以内に最高額紙幣の100ボリバルを撤廃しコインに転換する」と発表した。その理由は「密輸を防止し、食料品など生活必需品の不足に対応するため」としている。マドゥーロ大統領は「国境付近で活動する犯罪組織が紙幣を国内に持ち込む前に紙幣を無効にできる」として(2016年12月12日付BBC News)、コロンビアとの国境を72時間封鎖した。

100ボリバルは、ここ数年で通貨としての価値をほぼ失いつつあった(米ドルに換算して約2セント(2.3円))。ベネズエラの中央銀行は「500ボリバルから2万ボリバルまで6種類の新紙幣を12月15日から流通させる」としている。だが、市中で流通するすべての100ボリバル紙幣を72時間でコインに替えるのは不可能である。

2017年にインフレ率が2000%以上になると予想されるベネズエラの絶望的な試みにより、PDVSAの運命は尽きたと言っても過言ではない。日量200万バレル近くの原油を生産しているPDVSAが操業不能になれば、世界の原油市場が供給不足に陥ることは必至である。

一方で、ベネズエラ全体がデフォルト状態になれば、世界の金融市場への悪影響も懸念される。レーガノミクスの副作用で引き起こされた1980年代の中南米諸国の債務危機がウォール街を直撃したように、トランポノミクスで沸き立つ世界の金融市場の息の根を止めかねないからである。

筆者は現在の原油価格はバブル要因で1バレル=20ドル程度嵩上げされていると見ている。ベネズエラの「メルトダウン」は原油価格にとって大きな下げ要因になるのではないだろうか。

サウジで副皇太子の求心力が急速に低下か

サウジアラビアの動向も気がかりである。

今回の減産合意は「ムハンマド副皇太子の意向が反映している」とする向きがある。しかし、「自らが減産の大半を担い、それにより原油価格上昇を目指す」という対応は従来と全く変わりがない。それは改革派の騎手であるムハンマド副皇太子が最も嫌うやり方である。そもそも原油価格が上昇すれば、脱石油依存を掲げる「ビジョン2030」のモメンタムもなくなり、過去のケースと同様に改革は「掛け声倒れ」になってしまう。

ムハンマド副皇太子が軍事介入を主導するイエメン情勢が悪化し、4月以上にイランとの関係が険悪になっている中で、「敵に塩を送る」決断をしたとは到底思えない。

筆者は寡聞にしてムハンマド副皇太子の動静をつかんでいないが、11月下旬のフィナンシャルタイムズが「ムハンマド副皇太子の蜜月が終わった」と報じたように、今回の合意はムハンマド副皇太子の求心力が急速に低下している証左ではないだろうか。

12月12日付の米ビジネス情報サイト「Zero Hedge」は「迫り来るサウジアラビアの分断」と題する記事を掲載し、初代国王の孫の世代が初めて王位を継承することになるサウジアラビアでの王族の争いの深刻さを報じている。「サウジアラビアがいくつかの地域に分裂する」との予測はともかくとしても、原油価格が再び大幅に下落すれば、王家内の内紛が激化し、サウジアラビアの政治体制が著しく不安定化する可能性が高まっている。

世界の原油市場を巡る情勢は「一難去ってまた一難」である。

2016年12月16日 JBpressに掲載

2016年12月26日掲載