「減産協議バブル」にとどめを刺すのは中国か
原油需要の伸びが減速、不動産市場崩壊という爆弾も

藤 和彦 上席研究員

OPECと非OPEC産油国の減産合意に対する期待から、米WTI原油先物市場はこのところ1バレル=50ドル前後で推移している。

だが、世界の原油市場は供給過剰の度合いを強めている。

OPECは11月末に開催される総会で日量3250万〜3300万バレルに減産するとしているが、9月のOPECの原油生産量は日量3364万バレルと史上最高となった(前月比16万バレル増)。イラクが過去最大の生産量となり、リビアで輸出港の活動が再開したことなどがその要因である。サウジアラビアの原油生産量も日量1065万バレルと高水準を維持している。

非OPEC諸国の原油生産量も前月に比べて日量60万バレル増加した(ロシアとカザフスタンが増産)。このため、9月の世界の原油生産量は日量9720万バレルとなった。

足元が脆弱な中国の原油需要

一方、世界の原油需要は昨年の第3四半期以降伸び悩んでおり、今年第3四半期の伸び率はさらに低下しているとされている。

OECD諸国の需要停滞に加え、中国の需要の伸びが減速しているからだ。

10月13日に発表された中国の9月の原油輸入量は、前年比18%増の3306万トン(日量平均808万バレル)と米国(日量798万バレル)を抜き世界最大となった(今年2度目、過去1年間では3度目)。しかし、「輸入した原油を精製して石油製品を海外に輸出する」という構図が中国で強まっていることは、世界の原油需要にとって重荷となりつつある。中国では「茶壷」と呼ばれる新興石油精製民間企業が、石油製品の輸出の増加を牽引している。その結果、9月の中国の石油製品輸出量は430万トンと過去最高を記録した7月の457万トンに近づいている。

中国の原油生産量が、昨年の日量430万バレルをピークに減少を続けていることも見逃せない。高コスト体質である中国の国有石油企業は、シェール企業と同様に国内での原油生産を減少させており、8月・9月の生産量は前年比10%減となっている。専門家は「原油価格が1バレル=60ドルに達しなければ原油生産の本格回復は見込めない」としている。

国内の生産減を補うために輸入の増加傾向は続くだろうが、中国全体の原油需要が今後も増加するとは限らない。中国の足元の原油需要はこのようにかなり脆弱である。

中国政府は金融引き締めを早期実施?

市場関係者の間では、「11月までは減産協議の動きが原油相場の下支えとなる」との見方が一般的だ。しかし、前述のように中国の「爆食」が今後も続くとは思えない。

中国経済について筆者が最近注目しているのは、9月の卸売物価指数(PPI)が前年比0.1%増と4年7カ月ぶりに上昇に転じたことだ。中国のPPIは国内の過剰生産のせいで下落が続いていたが、「鉄鋼加工や石炭などの部門で減産が進む」との思惑から当該部門に投機マネーが流れ込み、製品価格を急激に押し上げたことでPPIはプラスに転じた(10月15日付日本経済新聞)。

中国経済全体のリストラが順調に進むかどうかは定かではないが、期待先行でPPIが今後も上昇することになれば、このところ落ち着いている消費者物価指数(CPI)にも悪影響を及ぼしかねない。

リーマンショック以降、中国ではマネーサプライが急激に増加したが、実体経済の過剰生産が「重し」となってPPIを下落させていたため、深刻なインフレは今のところ発生していない。だが、PPIが上昇基調に転じたことをきっかけに、CPIが急上昇する兆しを見せれば、中国政府は国内の金融引き締めを早期に実施する可能性がある。中国政府内では「2ケタ台のインフレが天安門事件を招いた」との認識が広く浸透しているため、国内でのインフレ発生を極度に恐れていると言われているからである。

中国の不動産市場が「一巻の終わり」を迎える日

中国政府は「国慶節」(10月1日)から住宅市場に対する引き締めを強化した。

中国の住宅市場のバブルぶりは猖獗(しょうけつ)を極めつつある。中国国内の住宅販売価格は年初から急伸し、8月までに前年比40%以上と6年ぶりの増加幅となっている。中でも南京市と上海市で30%以上と高騰している。政府が発表する8月の新築住宅の価格動向も、主要70都市のうち64都市で値上がりし、7月の51都市から大きく増加した。経済成長の鈍化を食い止めるため、政府は住宅市場のテコ入れを図ってきたが、予想以上の過熱ぶりに政策を転換させた。

だがその結果、中国からの資金流出が再び活発化しているのが気がかりである。

10月から国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)の構成通貨に正式採用された人民元だが、その下落が止まらない。

8月の人民元の流出額は、過去5年間の月平均(44億ドル)を大幅に超える277億ドルだった(10月11日付ブルームバーグ)。ドイツ銀行は「中国の緩和的な金融政策などにより今後2年間にドルに対して17%下落する」との見通しを示した。

人民元安の傾向が続いているにもかかわらず、中国の9月の輸出額は前年比10%減の1845億ドルと今年2月以来7カ月ぶりの大幅な減少となった。輸出の大幅減少が6年ぶりの安値で推移する人民元への下押し圧力となり、資金流出がさらに拡大する悪循環が懸念されている。

資金流出の懸念から、株式市場でも外貨建ての取引で下落が目立つようになっている。資金流出のリスクを覚悟しつつ製造業の輸出を支援するため中国政府は人民元安誘導を実施してきたが、効果がなければ今後資金流出を防ぐために人民元高誘導に変更する可能性があるのではないだろうか。度重なる人民元買いのための介入で外貨準備が目に見えて減少していることから、中国政府は今後金利の引き上げを現実的な選択肢として検討することになるだろう。

中国ではこれまでの放漫な経済政策の副作用で金利の引き上げ圧力が急速に高まってきているが、そうなれば、これまで無敵を誇った中国の不動産市場も「一巻の終わり」である。

不動産バブルが崩壊すれば原油需要が一気に冷え込むことは火を見るより明らかである。「山高ければ谷深し」ではないが、中国の「爆食経済」がもたらした原油価格高騰の反動は残念ながら大きいと言わざるを得ない。

目を離せない中東湾岸地域の地政学的リスク

需要面から見れば、原油価格は今後再び1バレル=20ドル台に下落してもおかしくない情勢だが、思わぬ「伏兵」も頭をもたげ始めている。

言うまでもなく「中東湾岸地域の地政学的リスクの上昇」のことだ。

今回の原油価格下落が中東湾岸諸国にもたらす負のインパクトは、1986年の「逆オイルショック」(注)の頃よりはるかに大きくなっている(注:1970年代の2度にわたる石油危機による原油価格の高騰で北海油田の生産が拡大、原油市場が供給過剰に陥っていた状況でサウジアラビアが増産に動いたことで、1986年4月に米WTI原油先物価格は1バレル=10ドルを割り込んだ)。

さらには、サウジアラビア政府にとって「躓きの石」となっているイエメンとの軍事紛争に、イエメンの反政府勢力からのミサイル攻撃がもとで米軍が巻き込まれかねない状況になっている。

その結果、原油価格が高騰したとしても、それは世界の誰もが望んでいないシナリオではないだろうか。

2016年10月21日 JBpressに掲載

2016年10月28日掲載