「特別な関係」育むために

CURTIS, Gerald
RIETIファカルティフェロー

日米関係は、今までのどの時代よりも、密接でいい関係になっているとよく言われる。ブッシュ大統領と小泉首相の友情と信頼は厚いようで、それは両国にとって大きなプラスである。ブッシュ大統領に批判的な米国人でさえも、日本との関係は英国と米国の間にある「スペシャル・リレーションシップ(特別な関係)」のような、特別に良好な関係であると言う。

小泉首相が、9月の自民党総裁で再選されるのはほぼ確実だし、ブッシュ大統領が来年の大統領選挙で再選される可能性も今のところ極めて高い。ところが、この2人の関係はいくら親しくても遅かれ早かれ、2人とも権力の座から遠ざかる。

日米間に「特別な関係」が存在するならば、それはブッシュ氏と小泉氏の個人的な関係を超えたものでなければならない。共通の世界観があり、同じ目標に向けて、異なった政策を進めても関係が損なわれない、政府間だけでなく、ビジネスマン、知識人など市民社会の各層との深いつながりがあって、初めて「特別な関係」の存在が可能になる。

その観点から考えれば、日米関係はいわれるほど強いものではない。小泉政権はブッシュ大統領のイラク攻撃を「支持する」と速やかに決めたし、いまは国会を延長して米国が望んでいるイラクへの自衛隊派遣を可能にする法案を通そうとしている。しかし、世界観において大きなズレがあるに違いない。

9.11テロ以来、米国は戦時中という意識が非常に強い。武力をもって、新たなテロ攻撃を防ぐ先制攻撃と、核兵器の拡散を止めるための対北朝鮮、対イラン強硬姿勢は米国民の大多数が支持している。また日本を含め同盟国は当然、「テロとの戦い」において一緒に戦うべきだ、との意見は共和党、民主党を問わず政治指導者に共通する見方である。

多くの日本人の世界観が違うのは言うまでもない。中東では例えば、イランに対する見方は日本と米国でかなり異なる。北朝鮮への対応も、日米の意見は完全に一致していない。

今のところ、小泉首相はブッシュ大統領が望む通りに動いており、問題は表面化しない。しかし、日本と米国の世界を見る目は違うし、日本が果たすべき軍事的な役割に関して、多くの日本人の考え方と、特にネオコンの影響が強いブッシュ政権の間に大きな相違がある。

日米間に「特別な関係」を構築すべきだと思うが、日米両国においても、そのための努力は不足している。米国と仲良くすることは日本の国益にとって絶対条件だ、との小泉首相の考えは評価すべきだが、日本独自の外交ビジョンという枠組みの中で、対米関係を位置付けることが大事である。それをもっと明確な形で出さないと、日本はただ米国に「追随」しているという印象を与えるだけである。

日米の「特別な関係」を構築するためには、トップリーダーが仲良くすることも重要だろうが、もっと大事なのは社会各層の交流である。しかし、日本への米国人の関心は低下しているし、日米交流への日本政府の支援は縮小する方向だ。昔は下田会議があったり、日米議員交流が頻繁に行われ、知識人の交流も活発だった。

今は日本政府と経済界が、日米対話を促進するための活動の拡大に力を入れるべき時である。日米の「特別な関係」が単なるスローガンに終わらないためには、日米の絆を強める方法をあらためて考える必要がある。

2003年7月6日 東京新聞「時代を読む」に掲載

2003年7月10日掲載

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