Special Report

長期的な日本の理念、あり方の検討に資する機関を目指して

及川 耕造
RIETI理事長

2005年8月5日に就任した及川耕造経済産業研究所理事長に、今後のRIETIの政策シンクタンクとしてのあり方や、経営面でのビジョンについてお話を伺いました。

RIETI編集部:
8月5日にRIETIの理事長に就任されたわけですが、これまで、外からRIETIをどのように見ておられましたか。

及川:
及川耕造経済産業研究所理事長 RIETIには華やかなイメージがありました。BBLなどにも参加させていただいていましたが、講師はもちろん、聞きに来ている人達の顔ぶれも多彩で、大変のびのびしていた印象を受けていました。

また、シンポジウム等にも何度か出席させていただいたことがあります。これについても、テーマの多様さ、参加者の多彩さ、理論面の充実など水準の高さを強く感じていました。

RIETIの研究成果という意味では、RIETI政策分析シリーズやレビューシリーズを何冊か読ませていただき、私自身問題意識を持っていた事柄に対していろいろなヒントをいただきました。

RIETI編集部:
RIETIに求められている研究について、どのようにお考えですか。

及川:
私は野村総研に在籍していたことがあるのですが、その折、あるシンクタンクの方から「RIETIは大変立派な研究をしていて高い水準の成果もあげているが、わが国全体を見通して人口減少下での産業競争力強化をどのように行うべきかといった、政府系のシンクタンクならではの長期的・体系的な研究を一層充実強化して欲しい」と言われたことが印象に残っています。

90年代に比べて日本も少し自信が出てきました。今こそ新しい制度、新しい枠組みについてどうあるべきかといったことに焦点を当てていくことが望まれているのではないかと思います。そういった研究を行っていくには、相当の英知とコストそして時間が必要になります。

もちろん、民間にもこうした分野での研究はなされています。ただ、政策提案は収益に直結しがたいために、その土台となるような研究には安定した財源の確保が必要です。また、経済産業省のように忙しい官庁ですと、自ら研究し、施策を遂行するのはしばしば困難になります。RIETIのような研究所の研究を踏まえて政策を練り上げて行きたいと考えているところもたくさんあると思います。そういったニーズに結びつくような基礎的な研究をしっかりやっていくべきと思っています。

RIETI編集部:
そのためにはどのような取り組みが必要でしょうか。

及川:
やはり政策当局との密接な連携は不可欠です。同時に現代は、NPOのような行動主体が輩出しているように、政策提案は官のみでなされるわけではありません。実施される政策は多様な価値観の中から選択することが迫られます。RIETIのような研究所はこうした多様性のなかから、多くの外部の意見を踏まえて「こういった観点からみればAが良いけれど、こういった観点からみればBがよい」といった政策の選択肢に資するしっかりしたデータと分析の素材を積み上げていくことだと思います。「きちんとした研究なくして政策なし」だということですね。

RIETI編集部:
日本はまさに政策で政党を選ぶ時代になってきていますし、今後RIETIが果すべき役割もますます大きくなっていくことと思います。RIETIはどういったシンクタンクであるべきでしょうか?

及川:
まずRIETIは政府機関ですから、中立でいなければなりません。冷戦が終わり、イデオロギーの対立がなくなってから、絶対的な価値観に基づくような政策対立というのはあまり存在しません。しかし、申し上げたように国民の価値観、政策提言は多様化しています。したがってRIETIは政策当局さらには国民の政策立案、選択に有効なデータ収集と分析を行うべく専門家の英知を結集する体制を強化していかなければなりません。幸いこれまでの努力で多くの専門家の方々がRIETIのフェローとして参加していただいています。その力をさらに発揮していただくようにしなければなりません。また、現在、来年度からの第2期中期目標期間のスタートに向けて議論が行われています。それに沿って具体的な研究計画設定を行うことになると思いますが、長期的な日本の理念、あり方の検討に資する機関となることを目指したいと念じております。

RIETI編集部:
RIETI理事長として、経営的なビジョンをお聞かせいただけますでしょうか?

及川:
及川耕造経済産業研究所理事長 独立行政法人という制度を最大限有効に活用して、アカデミズムと政策現場の間に立って、触媒としての役割を果たしていきたいと思います。
民間企業の経営になぞらえて言うとすると、民間企業における最終的なアウトプットは「製品」ですが、政府におけるそれは「政策」です。科学的な原理の探求があり、それを使ってR&D(研究開発)があり、そこで生まれた技術を組み合わせて商品が生まれ、そこにマネジメントが働いて商品販売される。政策を製品になぞらえると、科学的な原理の探求というのは、主に、大学、アカデミアで行われるわけですが、RIETIはこれを基に政策への橋渡しになるような政策研究を行う。これはR&Dに当たります。そして経済産業省はこれを製品すなわち実施される政策にしていくという意味で、いわば工場なのだと思います。R&Dですから最後は全て商品になるとは限らないわけですが、しっかりしたR&Dがなければいい商品は生まれません。責任は大変重いものだと思います。

取材・文/RIETIウェブ編集部 谷本桐子 2005年9月1日

2005年9月1日掲載

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