災害後の人口移動から見る復興の状況

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開催日 2018年3月8日
スピーカー 奥村 誠 (東北大学教授(災害科学国際研究所・東北アジア研究センター))
モデレータ 近藤 恵介 (RIETI研究員)
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開催案内/講演概要

本BBLセミナーでは、被災地支援研究の第一人者である東北大学の奥村誠教授をお迎えし、ビックデータを用いた人口移動の短期的分析と人口データの長期的分析から見える災害からの復興について、具体的な事例とデータを交えて、お話いただきます。

議事録

災害からの回復過程への関心

奥村誠写真このところ、災害に対する備えや関心が変化してきています。今までは、どれだけの直接被害があったかによって災害の大きさが判断されていました。直接被害とは、ハザード(災害)の強さと人間の活動状態(暴露)と脆弱性の3つを掛け合わせたもので決まるものです。

ところが、最初の被害が同じだったとしても、早く回復できる場合となかなか回復しない場合があります。たとえば阪神・淡路大震災では、神戸の国際港湾としての役割はなかなか戻らず、その間にハブ機能が海外に移ってしまいました。したがって、直接被害はできるだけ減らしたいのはもちろんですけれども、社会にもたらす損失全体を考えると、回復力が早ければ当然被害は小さくなるわけです。ですので、これまでの防災中心の対応から、回復力を高めるために回避や減災を含めて考えていくというのが、最近の災害対応研究の流れになっています。

そうなると、回復のプロセスをつかまなければいけないということになりますが、1週間後、1カ月後に損失がどうなっているのかという間接被害のデータを取るのは困難です。私は、そこに人口に関わる部分からアプローチできないかと考えました。今日は、人口の面から災害に着目して、時間スケールの異なる2つの話をしたいと思います。

GPS情報から分かる行動パターンの被災・回復過程

1つ目は、携帯電話GPSビッグデータ(位置情報データ)を使った人口移動の短期的分析です。私の研究所の学生とゼンリンデータコムの共同研究で、熊本地震を対象としています。詳細な移動情報はプライバシーの問題に関わるので、本研究では人々の活動が日常行動パターンからどれだけ乖離したかを見ていきました。

使用するデータは、ゼンリンデータコム社が扱っている「混雑統計」です。NTTドコモが提供するアプリ「ドコモ地図ナビ」を通じて、利用許諾を得た全国50万〜70万人、人口比120分の1〜150分の1ほどの抽出率で、位置情報データを5分ごとに取得します。

ただ、GPSの情報は誤差が最大15〜20m程度と細かく分かるので、プライバシーの問題があります。そこで使ったのは、主拠点、副拠点の情報です。15分以上、半径300m以内にとどまっている状態を「滞在」と定義し、1カ月のうちで最も滞在日数が多い場所を主拠点、2番目に多い場所を副拠点と見なします。主拠点はほぼ自宅と見なすことができ、副拠点はほぼ、勤務先・通学先と見なすことができます。

そして、期間中の毎時00分において、携帯電話が主拠点にいた台数、副拠点にいた台数、その他の場所で滞在していた台数、移動中の台数を調べてもらいました。提供を受けたデータはこの台数の情報だけですので、個人を特定できないように処理された状態になっています。

まず、地震が起きる前の2015年の平日を見ると、朝6時ごろまでは主拠点にいる人が圧倒的に多く、8割ぐらいが主拠点にいますが、昼になると副拠点が多く、夜には減ります。その他の滞在は昼間が多いですが、夜もそれなりにあります。これが通常のパターンです。そこから、曜日や月の周期、祝日などの通常時の規則的な変動を分析して、それで説明できる部分とできなかった部分(残差)に分けると、残差の部分には災害の影響が含まれることになります。

主拠点(自宅)の残差を見ると、大きな地震が発生した4月14日21時(前震)と4月16日0時(本震)を境にして、通常と違う所にいた人の割合が増え、その後は戻っていきます。昼夜における主拠点の滞在がどのぐらい乖離しているかを見ると、昼間に外出できずに自宅にいた人が最大15%増え、それが10日間ほど続き、夜間に自宅に滞在できずに避難していたと思われる人が最大12%増え、それが8日間ほど続いていたことが分かります。

同じように、副拠点(勤務先)の残差を見ると、昼の14時はマイナスの方に出ています。つまり、昼間に会社へ行くことができなかったということです。最大12%程度の乖離があり、そうした影響が9日間程度続いたことが分かります。

この結果から、災害のときに何かが起きて日常からの乖離が起き、その影響が時間とともに戻っていく過程を量的に押さえることができたと思います。残差と人口規模で概算すると、自宅に夜間滞在できない人が最大20万人程度いて、5万人以上がその状態を8日間継続していたこと、昼間に外出できない人が最大26万人程度いて、5万人以上が10日間、自宅周辺にいたことが分かります。当然、働きに行けなければ、それだけ経済活動が抑圧されるわけですから、経済的損失につながっているはずです。

以上、災害によって日常行われている行動がどのぐらい減ったのかを確認して、それが戻っていくのにどれぐらいの時間がかかったのかを、携帯電話の位置情報から計算してみました。それらを熊本地震に適用することで、自宅・勤務地滞在に対する影響の大きさと回復過程が大体分かることになります。

もちろん、元データ自体はリアルタイムに取得されていますから、たとえば東京オリンピック・パラリンピックに向けた対応として、避難者がどこにどれだけいるかを即時に割り出して対応するような使い方ができるかもしれません。ただ、そのように使おうとすると、ゆっくり計算もできないし、誰が分析をやるのか、そのときのプライバシーはどう考えるのかという問題が浮上します。

それから、回復過程は当然、場所ごとに違うはずなので、場所ごとのインフラの回復具合との関係もこれから分析していかなければならないと思っています。

災害が人口移動に与える影響の統計分析

2つ目は、やや長期的な話で、災害が起きたときにその地域が立ち直るまでにどのぐらいの打撃を被るのか、そもそも立ち直れるのかどうかの分析です。

1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災で亡くなられた方は6000名強で、兵庫県では5000人近くが亡くなっています。このこと自体も大変なことですが、兵庫県の転出入人口を見ると、震災の影響を受けて転出人口が格段に増えています。つまり、震災で亡くなった方が多いことは事実ですが、震災の影響を受けて地域外に多くの方が転出してしまった影響の方が、圧倒的に大きいのです。

つまり、残念ながら直接災害の影響で命を落とされた方が多いことも問題ですが、それだけでなく、震災後の暮らし方や仕事、収入など産業への影響もあって、転出人口に大きな影響が出ています。東日本大震災の場合も、宮城県や福島県では2011年度、転入・転出ともにものすごく跳ね上がっています。

ですので、これまでは災害の影響を直接被害で見ていたわけですが、その後の復旧が遅ければ人が外へ流れ出てしまうこともあるので、震災後の人口の動きも含めて災害の影響を見たいと考えました。

しかも自然災害はそれほど珍しいわけではなく、日本の場合、毎年のように起きていて、軽微な被害で済む場合もあれば、深刻な被害の場合もあります。深刻な被害が起きると、たとえば国のレベルでは激甚災害指定が行われます。激甚災害指定が行われると、後の復旧や支援したときにかかったお金を国が補てんする仕組みが出来上がるわけです。

それは仕組みとしてはいいのですが、今までを見ると、残念ながら国政選挙が近ければ近いほど、小さな災害でも激甚災害指定されているのです。国政選挙が終わった直後は指定されません。要するに、そのときの政権が選挙に勝つために、国が各地方に支援してあげたことを見せるための目的で使われている部分があるわけです。

私としては、それはないだろうと思います。もう少し客観的なレベルできちんと捉えて、地元が自力で回復できるような災害であれば自力でやってもらえばいいし、それが無理な規模であれば国が支援するべきだということを、政権の都合に関係なく決めてほしいわけです。そのために何かできないかと考え、発生した災害がどちらに相当するのかを早期に判定して、広域的な支援が必要かどうかを見極める方法を作るべきだと考えました。

そこで使うのが、先ほどの転出人口と転入人口です。軽微な被害だと、転出人口は特に増加しないし、他県からの転入人口が減少することもなくて、人口減少はあまり起きないと思います。しかし、深刻な被害が起きているとしたら、きっと仕事ができなくなったり、商売が成り立たなくなったりして転出人口が増え、他県から就職する人が減るなど転入人口も減って、人口は減少するでしょう。つまり、災害規模に応じて、人口が減ってしまうのかどうかを早めに見極めたいのです。

ただ、転出入人口が分かるのはだいぶ後ですので、結果としての転出入人口を見てから激甚指定を判断したのでは遅いです。そこで、災害によってその都道府県内でどれだけの人口が罹災したのか(罹災率)を調べることにしました。罹災者とは、家族に亡くなられた人がいたり、資産が大きく毀損したりした人で、確認して罹災証明を出すので、直後に大体の数を把握することができます。

分析するのは、都道府県別の転出入人口の40年間のデータです。当然、災害が起きなくても年によって転出入人口は異なります。東京では毎年多くの人が入ってきて、それなりに出ていきますが、地方では東京などの大都市圏に転出する人が毎年多くいます。当然、地域が異なれば違いますし、景気によっても違うわけです。

ですので、まず災害が起こらなかったときの標準的なパターンを考えて、転出人口、転入人口が災害の影響によってそこからどれだけ増減したかを確認します。

転出モデルでは、都道府県ごとに固有の傾向、年次ごとに固有の傾向を当てはめて、それにうまく該当しなかった部分が災害の影響による増減であるとします。そして、災害の影響による増減部分を、直後に把握できる災害の規模として罹災率(罹災者数/人口)を使って説明します。

転入モデルの方も同じように分析してもいいのですが、転入の方は当然ながら、周辺の県で転出が多く起きると、その人たちは近くに行きやすいです。転出人口は、その県から1年間に就職などいろいろな目的で外へ出た人の数ですから、普通の年ならこのぐらいの人数が出ていくというデータがあるとして、それがずれたと考えます。しかし、転入人口の方は、周りの県からどれだけ出たかが分かっているので、今までのパターンでは近くの県に行きやすいですが、そういう割合でばらまかれたとしたときの標準の転入パターンを作っておいて、その転入パターンから実際どれだけずれたかを見ます。

ここで求めているのは、災害の影響によって、普通の年のパターンに対して転出人口がどれだけ増減したかということです。同じように転入人口も、周りの県から出ていった人の数が分かった上で、その人たちが今までのパターンで入ってきたとしたときに、入ってくると予想される値に対して実際値が大きかったかどうかを確認します。ですから両方とも、式は違いますが、災害の影響によって普段の人口よりもどれだけ増減したのかをチェックしていると考えてください。

災害の規模にしても、小さな災害なら影響はほとんどないし、大きな災害なら影響は大きいのですが、比例しているとは限りません。小さな災害と大きな災害は意味が違うのではないかという面があるので、災害規模によって分けます。罹災率が1%以上のものを「巨大」災害とすると、47都道府県の40年間のデータ(47×40=1800サンプル)の中で47サンプルあります。つまり40年に1回程度、どの県でもそういう大きな災害があったということです。「大」が276、「中」が587、「小」が857あって、「未発生」が296あります。つまり、47都道府県で全く災害がなかったことは、40年間で15%ぐらいしかないのです。

ここで使っているのは、自然災害統計のデータです。消防庁が集めているデータをどこかでまとめ直したものだと思いますが、ここから分かるのは、実は1回の災害ごとのデータではないのです。ある1年間に複数の災害があったとしたら、罹災者や死者のトータルは分かりますが、1回ごとの災害は分かりません。たとえば台風が3回来て、3回とも死者や罹災者が出たとしても、どの災害の被害かという区別は付かないデータであることにご注意ください。

たとえば2011年に東日本大震災があった後、福島県では夏に豪雨がありましたが、夏の豪雨で罹災した人と東日本大震災の罹災者の区別は付きません。分析上はそれぞれの都道府県の1年間の罹災者になっているので、厳密な意味ではそれが地震によるものか、雨によるものか、津波によるものかは分からないという制約があります。

都道府県別の罹災率から、転出モデルの都道府県ごとの固定効果(災害が何もなければ、1年間にどれぐらいの人が転出するかという割合)を推計すると、年を追うごとに下がってきていることが分かります。

それから年次別の固定効果を見ると、途中で飛び上がっている時期はありますが、一貫して日本では人がものすごく動いていたのが、だんだん動かなくなっています。昔は集団就職などがありましたが、そういうものもなくなって、だんだん動かなくなっていることが見て取れます。

災害の規模別に見ると、小規模災害があった場合は転出する人が減ります。どんなことが考えられるかというと、たとえば災害があって残念ながら跡取りと考えていた人が亡くなると、次男が代わりに継ぐことになると考えられます。一方、転入にはほとんど影響がありません。

中規模災害では、被災年は転出者が増えますが、徐々に減っていきます。転入には影響はありません。

大規模災害では、被災年には転出者が増えて、1〜3年後には減り、トータルでは減っています。転入にはその年は影響ありませんが、1〜3年後には入ってくる人が増えます。これには、ひょっとすると、復興事業などが影響しているかもしれません。

一方、巨大災害は、阪神・淡路大震災の兵庫県と東日本大震災の被災3県を除くと、残念ながら転出人口はその年から3年間にわたって増え続けています。一方、転入人口は減り続け、結局のところ人口は減ってしまいます。

つまり、パターンとしてはきれいには出ていませんが、罹災率0.01%未満の小・中・大規模災害(全体の98%)では、少なくとも人口減少はあまり起きません。当年の転出増はあっても、翌年以降は転出が減って、転入への悪影響は基本的に起こりません。それに対し、巨大災害(全体の2%)はそうはいかなくて、転出増と転入減が少なくとも3年間は続き、人口減少が起きるので、広域支援が必要ということになります。

データにもいろいろな限界があることはよく分かっていますが、そのときの状況をきちんと知ってから対応を決めるのではなく、これは都道府県に任せておいてもいい規模の災害なのか、国が頑張って支援しなければならない災害なのかを早い時点でつかみたいという意図があると考えていただければと思います。

もちろん、使っているデータ自体はその1年間で起こった複数の災害を足し合わせたものでしかないので、本当のことは分かりません。しかし、同じ災害の中に田畑の浸水はあったかどうかということは分かるので、そこまで見れば種類も少し分かりますが、そういう分析まではまだできていない状況です。

ただ、世界的に災害直後の直接被害だけでなく、その後の回復過程を見ておかなければならないという認識が高まってきているので、それに対しては意味のある結果が出ていると考えています。

質疑応答

Q:

小規模災害の場合、同県内で転居するケースが結構多いような気がするので、市町村レベルで分析した方がいいのではないでしょうか。

A:

そのとおりなのですが、市町村別に長い年次で分析しようとすると、合併の影響で市町村の人口情報をつなぐには手間がかかり過ぎるため、まだできていないのが実態です。国勢調査などを使って、パターンを分けて分析してみたりすることはできると思います。

Q:

前者の研究は、副拠点に着目した点が大変ユニークだと思うのですが、労働時間一般を把握する情報としても使えると思います。職種や年齢の情報とリンクすると、もっとリッチな分析ができそうな気がしたのですが、個人情報などの制約があるのでしょうか。

A:

携帯電話は個人情報と紐づいていないので、労働時間の把握は無理ですが、私は東日本大震災のときの500mメッシュ、1時間ごとの2カ月のデータを使って、どういう業種が集まっているところの回復が遅いのかを分析しました。空間的には一様に戻るのではなく、早く戻るところとなかなか戻らないところがあるので、産業別の影響はある程度分かる面はありますが、細かくやろうとすればするほど、個人情報の関係でデータ数が減ってしまうので、難しいところです。

Q:

防災、回避、減災という意味での対応としては、巨大災害にはどういう対応策が考えられるのでしょうか。

A:

最初の一撃は何とかして回避しなければならないので、そこへの備えはしなければならないのですが、災害を受けた後の支援の効果はこの分析からは分かりにくいです。今の分析では、周りで災害が起きたかどうかという影響は見ていません。たとえば兵庫県で震災が起きたときに、大阪府も一部は被害を受けていますが、人口としては増えている可能性もあります。しかし、災害が起きた県に対してしか見ていないので、県を超えたつながりの影響はよく分かりません。

ですから、近畿なら近畿、中部なら中部でのリスクの分担を考えれば、それなりに対応できるとは思いますが、この分析では、隣県への影響を具体的に入れて計算しているわけではないので、細かい部分では違うかもしれません。ただ、すぐ周りの地域は通常の経済機能が動いている可能性は高いので、そういう意味では地区ごとに助け合う相互補助的な仕組みをつくることが大事だと思います。

Q:

宮城県では、交通体系が回復していない地域の人口減少がものすごく進んでいますし、震災直後にあった廃棄物処理などの雇用がなくなってしまうと、雪崩的に転出が増えます。それから、医療や介護などの生活インフラが非常に脆弱になることの影響も含めて、長期的な分析とリンクしてこのモデルを活用していってほしいと思います。先生の今後の分析に期待します。

A:

私自身の悩みとしては、地方はもともと過疎という問題を抱えていて、それを解決できないまま来ているということがあります。人口が減っていくときの地域づくりの制度がまだきちんとできていない中で震災が起きてしまって、あたふたとできることを探してみたら、実は拡大期に作られた制度しかなくて、それに縛り付けられてしまっている面があります。阪神・淡路大震災の1995年まではまだ人口が増える時期にあったので、それほど深刻に考えなくてもよかったのですが、東北の状況は震災が大変なのはもちろんですが、社会全体の流れが縮小に向かったときに、それに合った制度がまだ準備できていなかったことが大きいと思っています。

Q:

GPSのデータから、主拠点・副拠点を持っていないボランティアや支援者が震災のときにどれくらい入ったかということが分かると、回復と支援の投入の関係が分かって役に立つと思ったのですが、いかがでしょうか。

A:

まず、外から入ってくる人は、住んでいる人と比べてそれほど多くありません。また、この期間中に熊本に1回でもいた人を抜き出そうとすると、全部のデータに対して処理を加えなければならないので、データの作成に時間とお金がかかり過ぎてしまうことから、分析が難しいのが実態です。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。