外食産業の持続的成長に向けて

開催日 2017年12月13日
スピーカー 菊地 唯夫 (ロイヤルホールディングス株式会社代表取締役会長(兼)CEO)
モデレータ 小西 葉子 (RIETI上席研究員)
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開催案内/講演概要

日本経済に占めるサービス産業の割合が70%を超え、その重要性は非常に高くなっている。その中でも外食産業は市場規模が25兆円を超え、また訪日外国人にとって大きな魅力となるなど、今後ますます戦略的に重要な産業となっていくことが見込まれる。

しかしながら一方で、従来からその生産性の低さが指摘されているだけでなく、昨今においては人口減少という大きなうねりを受けて労働力の確保が大きな課題となるなど、産業構造自体が大きな転換期を迎えている。

今回のBBLセミナーでは、今後人口減少が進む中、どのように健全な持続的成長を遂げていくのか、ロイヤルグループの事例を交えながら、その課題、解決への仮説を考えたい。

議事録

増収増益を目指して

菊地唯夫写真ロイヤルグループは、総売上高のうち半分が「ロイヤルホスト」「てんや」などの外食事業、4分の1がコントラクト事業で、残りの4分の1が機内食やホテル事業です。グループの業績推移を見ると、1997〜2010年の間、増収増益がほとんどありませんでした。増収増益によって健全な経営を図るには、市場が縮小する中で既存店の売り上げを増やすか、新店をオープンさせるしかないのですが、この期間、既存店の売り上げがずっと右肩下がりだったのです。

既存店売上が前年を割っているのにグループ全体の売り上げが上がっているということは、既存店のマイナス以上に新店を出していることになります。新店は当初赤字ですから、売り上げは上がるけれども、利益は落ちていきます。減損処理をして不採算店を閉めれば利益は上がりますが、売り上げが減るのでまた新店を出さなければならなくなります。このメカニズムでは、どう考えても持続性はないだろうと考えました。

そこで、「増収減益」「減収増益」のサイクルを脱し、少しずつでも増収増益を続けることを目指して、「ロイヤルグループ経営ビジョン2020」を策定し、経営ビジョンを実現するための中期経営計画を作りました。基本方針は持続的な成長です。

まず着手したのは、ロイヤルブランドの再構築です。ロイヤルホストの商品とサービスが良くなって初めて、ロイヤルの質はいいと言ってもらえるということで、ロイヤルホストをロイヤルグループのブランドの源泉に位置付けて設計図を作りました。

その結果、2011年から5年連続で増収増益を達成しています。その背景には、ロイヤルグループの既存店の売上上昇があります。2008年までは既存店にあまりお金をかけず、新店に多く投資していたため、既存店へのお客さまの不満が蓄積し、負のスパイラルから脱却できなかったのですが、2009年から既存店への投資に転換したところ、既存店売上が前年を超え、キャッシュフローも安定し、増収増益が続くようになったのです。

成長エンジンの要件

しかし、既存店が良くなっただけではグループの成長には寄与しません。次に何を成長させるかという議論が必要です。その際に留意しなければいけないのは、これからは高齢化社会が進行するということと、外食業態が飽きられるスピードがとても速くなっているということです。投資回収前にブランドが飽きられれば、結局は減損になりますから、ブランドが陳腐化しにくい事業を考えなければなりません。

そこで、私は成長エンジンの要件を3つ挙げました。少子高齢化に親和性があること、ブランドの陳腐化に抵抗力があること、アセットライト型であることです。アセットライトが求められるのは、収益を生まなくなった資産の処分にかかるコストを回避するためです。これら3要件を満たしているのが、「てんや」事業と、高品質の食事をスピーディに提供するコントラクト事業です。

高齢者は、天ぷらを食べたくても調理するのは危ないし、処理も大変です。その点、「てんや」にはテイクアウトという大きな強みもあり、高齢者にうまくはまっています。また、非日常的でおしゃれな業態ほど飽きられやすいので、ファストフード的に日常使いされる「てんや」の業態は陳腐化しにくいと考えています。さらに、フランチャイズ方式で資産投下を極小化しながら事業を拡大している点ではアセットライト型です。

コントラクト事業では、高齢者が集まる老人ホームや病院への展開に力を入れており、ブランドに依存しないので陳腐化に対する抵抗力があります。また、アセットライトという点でも、オーナーが投資してくれて、われわれは受託事業を行うので、資産投下の必要がありません。

最近、要件に加わってきたのは、インバウンドに親和性があることです。「てんや」は、和食ブームで天ぷらを食べたいというニーズが非常に高まる中で、外国人にも非常に好まれています。コントラクト事業では、外国人が多く集まる空港やコンベンションセンターなどへの展開を増やすことで需要を取り込めると考えています。

「てんや」は、インバウンドとシニアの成長エンジンをうまく組み合わせ、2015年10月まで44カ月連続で来客数が前年を上回りました。海外にもタイやインドネシア、フィリピンなど18店を展開しており、さらに増やしていこうと考えています。

コントラクト事業は、インバウンドをターゲットにした空港やヘルスケア・シルバー領域での拡大を図っています。この分野では、ロイヤルホストをブランドの源泉としていることに大きな意味があります。空港のラウンジを受託しておりますが、受託で運営するということは、相手さまの大切なお客さまをおもてなしする、ということです。そのお客さまを任せていただくに当たり、「ロイヤルホストを運営している」ということが、ブランドと安心感の源泉になっています。

結果、5年連続で増収増益になったのですが、その要因をより客観的に探るために、「ロイヤルホスト」と「てんや」の売り上げと外食市場規模、全国の消費支出の推移を見てみると、全てが2012年というタイミングで下落から上昇に反転していることが分かります。ということは、2012年に外部で何か大きな変化が起きているはずです。

私の仮説は、団塊世代が65歳を超え始めたのが2012年で、この方々の財布が緩み始めた時期ではないかというものです。同時期の日本経済新聞に「百貨店業界15年ぶりに前年超え」という記事が出ていましたが、ロイヤルホストも同年15年ぶりに前年超えしました。百貨店とファミレスが同じタイミングで回復するということは、何かシンクロしているはずです。百貨店とファミレスが最も元気だったのはバブル期であり、その頃に主に消費していたのは団塊世代です。

消費がなかなか盛り上がってこなかったのは団塊世代が将来に不安を持っているからで、年金がある程度安定的に入る年齢になって財布のひもが緩み始め、そこにアベノミクスによる金融効果が加わって、消費を後押ししたというのが私の仮説です。正しいかどうかは分かりませんが、これからは仮説を立てた上で戦略を練らないと大きな間違いを起こすので、われわれはそうした仮説を前提に動いています。

ホスピタリティビジネスの産業化

そうすると、団塊世代が2017年に70歳を超え、2022年に75歳を超えるときに、今と同じ戦略が相変わらず有効かというと、そうではありません。そこで考えなければならないのが「ホスピタリティビジネスの産業化」というテーマです。

外食産業は、現在25兆円という大きな市場を有しています。外食の産業化が始まった1970年代はGDPがどんどん大きくなり、人口が増加していった時代で、外食に対するニーズもどんどん高まっていました。それに応えるために必要なのは「画一性」「スピード」「効率性」です。これが「チェーン理論」と結び付いて、セントラルキッチンを作るなどして増え続けるニーズを取り込むことが、外食の産業化の中心的なモデルでした。

ただ、それは人口がどんどん増えていく過程で生まれた産業化モデルだとすると、これから人口が減少する中で出てくる生産性や働き手確保の問題に対して、本当にこの産業化モデルだけで答えを出せるでしょうか。人口が減少するのであれば、これまでの産業化モデルだけでなく、その時代に合った親和性のある産業化の在り方を考えることが必要です。

日本は世界で最も早く高齢化を迎えているので、世界にモデルがないとすれば、自分たちで考えるしかありません。そう感じるのは、私が社長になって5年ほどの間に、外食産業では賞味期限切れ、異物混入、虚偽表示、産廃問題など、毎年のように問題が起きているからです。これは、もしかしたら産業化が限界を迎えているというメッセージなのかもしれません。

よくよく考えると、デフレで価格が下がっていくのに対し、コストはどんどん上がっていきました。製造業は海外移転や機械化を進めましたが、外食産業は海外に拠点を持っていくわけにいかないので、同じような答えの出し方ができません。しかし、産業である以上、利益は出さなればなりません。ソリューションがないとすれば、自分たちがコントロールできるコストをコントロールするしかなく、それが原材料費と人件費だったのです。

原材料費を圧縮した結果起きたのが、賞味期限切れ、異物混入、虚偽表示などの食材の問題であり、人件費をコントロールし過ぎた結果起きたのが、ブラック企業の問題だと思います。ですから、産業化自体がこれからどういう方法をとるべきなのかを考えてみることが重要です。

ホスピタリティ産業の生産性向上に向けて

今やサービス産業が日本経済の7割を超える中、外食産業の低い生産性を向上させない限り、日本全体がなかなか豊かになっていきません。ですから、われわれも生産性をいかに上げていくかを真剣に考えなければなりませんが、人口減少時代にこの問題を解くのは、とても難しいことだと思います。

製造業では、利益率を上げるために製造コストの低い地域に工場を移転したり、イノベーションによって新製品や付加価値の付いた商品を作ったりしています。逆に、1人当たり売上高を上げるために大規模な機械を導入して人員を削減したり、IT化を進めたりしています。こうしていろいろな取り組みを進め、世界トップクラスの生産性を生み出しました。

しかし、同じことが外食産業でも当てはまるかというと、機能を海外に持っていくことは簡単ではないし、イノベーションによる新製品開発も外食産業は模倣がよく行われているので、新しい業態が生まれればすぐに模倣され、イノベーションによる先行者メリットはとても得にくくなっています。それから、大規模な機械化は、製造業なら1つの工場に機械を導入すればいいですが、外食産業は分散された拠点全てに導入しないと生産性が上がりません。IT化も導入メリットが限定的でした。

つまり、われわれサービス産業のジレンマは、サービスの提供と消費の同時性にあるのです。製造業であれば、安く物を作って、運んで、ストックして、高く売ることで生産性を上げますが、サービス産業の場合、サービスを提供した瞬間に消費されます。ですので、生産性を上げるために従業員数を減らすと、付加価値がそれ以上に減ってしまい、生産性を下げてしまうことがよくあります。こうしたサービス産業の特徴を考えながら議論していく必要があります。

私どものグループでは、持続的成長に向けて2つのことを考えています。1つは、消費構造が変化する中で、市場が成長市場と成熟市場に二極化することです。市場のトレンドは景気やブームの影響を受けて上下するので、一時的なブームが起きたことで成長市場が生まれたと勘違いすれば、減損で苦しむことになります。ですから、長期的なトレンドを見て適切な投資をする必要があります。

近年、全国消費支出が増加しているのは団塊世代が消費を増やしたためであるとわれわれは考えており、現在はその山がたまたま大きくなっているという仮説の下、経営戦略を立てています。シニアの市場が拡大したとしても、団塊世代が75歳を超えれば使えるお金も時間も減るので、シニアの「ちょい高消費」は続かないことを前提にしています。

これから若者層が減って高付加価値の市場が厳しくなり、コンビニとの競争が激化して日常の市場も厳しくなり、団塊世代の消費もそれほど期待をかけられないとすると、増えていくのはシニアの日常における市場とインバウンドです。われわれの業態は、この両方に親和性のある領域を持っています。

もう1つ考えているのは、供給サイドの制約が厳しくなることです。外食産業はスピード、画一性、効率性の競争で、お客さまが喜ぶ業態をつくり、ライバルよりも早く多店舗化することが勝利への近道であり、これまで供給側の制約は一切起きませんでした。しかし、最近はアルバイトが集まらないために出店をやめるようなことが現実に起き始めています。

こうしたことから、これまで産業化を規定するのは需要だったのが、供給になっていくのではないかというのが私のもう1つの仮説です。つまり、働く人を確保できる企業が業界で生き残っていくということです。

これらを総合すると、市場が成長して働く人をいくらでも確保できれば、今までの産業化のやり方を一切変える必要はありませんが、これからは市場が縮小し、働く人が減っていく産業が増えるでしょう。ということは、供給力の制約を解除できた企業から生き残ることができるということです。ロイヤルホストがなぜ営業時間を短縮し、休みを増やすかというと、働く人をなるべく確保しやすい企業になって生き残るためです。働く人を確保するためには賃金も増やさなければならないので、当然、単価を上げていかなければなりません。付加価値を付けられる企業から産業化が可能になっていくということだと思います。

これまではあらゆる市場が拡大してきたので、効率的に多店舗化して生産性を上げていけばよかったのですが、供給制約が起きることでこれからの成熟市場では付加価値向上と新規市場開拓が求められます。そのためには、働きやすくし、サービスの質を上げて、お客さまからきちんと付加価値の対価を頂くことが必要だと思います。

ロイヤルホストがずっと国産食材にこだわっているのは、日本経済のデフレが20年間続く中、消費者が少し高くてもいいから消費してくれる食材が、国産だからです。それを使って付加価値を上げることにより、生産性を上げていこうと取り組んでいます。

現代の経営でとくに難しいのは、ステークホルダーの利害対立だと考えています。成長経済のときはあまり意識せずに全てのステークホルダーの満足度を上げられましたが、成熟経済の時代になるとステークホルダーの満足度が下がり、さらにステークホルダー間の利害対立が起きます。ですから、生産性をしっかり上げて、ステークホルダー間の利害対立が起きないようにしなければなりません。

こういった視点で増収減益・減収増益のサイクルを見ると、増収減益はお客さまが喜んでいるから増収なのですが、減益なので従業員と株主のボーナスが減ったり、株価が下がったりします。逆に減収増益は、従業員と株主は喜んでいるけれどもお客さまは不満です。私は少しずつでもいいから増収増益にこだわって、これからの人口減少時代においても持続的成長を実現していくことが必要だと考えています。

質疑応答

Q:

海外展開するときに、チップ制度をどう考えていますか。

A:

このデフレの20年間で、サービスの対価さえも削られてしまったため、サービス産業は苦境を迎えているのではないかと思います。ですから、サービスの対価を求められるようにする点では、チップは1つの答えだと思いますし、これから議論になることは正しいのではないかと思います。

Q:

イノベーションの観点からすると、外食チェーンのような業態では、ミシュランの星がいくつかなどというのはちょっと別世界の話なのでしょうか。

A:

外食産業はマーケティングの研究開発が中心であったので、これからはイノベーションの蓄積をしていかなければなりません。我々のグループが「現金お断り」の店舗を作ったと報道されましたが、本来の趣旨は、全て機械化を目指しているからではなくて、人がやることによって価値を生み出すことは人がやりましょう、そうでない部分は機械・ITを駆使して働きやすいお店を作ってみよう、という考えです。人がやっても機械がやっても価値が同じものは全て機械に置き換えていかないと、人口減少の中では生きていけないので、まずは実践してみようという考え方があります。

Q:

人生100年時代といわれる中、従業員や株主のシニア層をどのように捉えていますか。

A:

働く人の確保という意味では、実はシニアが働きやすいのがコントラクト事業なのです。働きやすい職場もグループ内に持つことで、そういった方々を戦力として働いていただくという点で、非常に大事ではないかと思っています。

Q:

ロイヤルホストや「てんや」にフランチャイズ展開が少しだけ混じっているのは、どういう意味でしょうか。

A:

これからはフランチャイズがどんどん増えていくと思います。ただ、直営店のクオリティはしっかり上げながらフランチャイズを展開していくという両輪が必要なので、全てフランチャイズに任せるのではなく、直営もやりながらフランチャイズも増やしていくという戦略をとっています。ただ、ロイヤルホストの場合は教育に時間もかかり投資も大きいことから、フランチャイズに親和性がないと考え、フランチャイズは想定していません。

Q:

労働力を確保するために人材を海外に求める流れもある一方、海外のマーケットには成長分野がまだまだ多いので、そちらの方を重視していくのでしょうか。

A:

日本ではまだ、飲食業界は技能労働研修を認められていません。外食の店舗が世界にこれだけ展開しているので、日本で研修して、幹部となって海外で活躍する道筋を付けるためにも、技能労働研修はぜひ進めたいと思います。

それから、インバウンドもこれからターゲットにしなければなりません。中でもわれわれが注目しているのはイスラムの食です。われわれは元々機内食で創業した会社なので、ハラールのノウハウを豊富に持っており、ハラールの患者食も出しています。このように、インバウンドとアウトバウンドの両方を合わせた戦略を考えています。

Q:

AIの時代、第4次産業革命を迎えるに当たり、人材面における大転換について何か考えはありますか。

A:

人材の転換をあえて求めるのではなく、今いる人材を生かすためにAIを活用していくことが、まずは考えるべきポイントではないかと思っています。AI化によって余った人がいなくなるのではなく、余った人は接客をよりきちんと行うことで本来人間としてやるべきことをしっかりやっていくことが、外食産業の場合の大事なポイントではないかと考えます。

Q:

外食やサービスの場合、環境配慮はサービス水準の維持とトレードオフの関係になることが多く、なかなか進んでいないように感じるのですが、環境配慮と企業価値向上の関係についてお聞かせください。

A:

最近聞いた話で衝撃的だったのは、たとえば動物性プロテインを人が多く摂取すればするほど環境に負荷を与えるし、食料に負荷を与えるので、動物性プロテインを植物性プロテインで代替できれば、地球環境に対してとてもポジティブだということです。調理のノウハウなどによっておいしく食べられれば、社会に対してものすごく大きな貢献ができるという話を聞いて、外食はそういうことも考えていかなければならないと感じました。

Q:

食の流通分野には、いまだに効率の悪いシステムが残っていると思います。効率性と安心・安全の観点から、ITを活用して生産者と直結するような取り組みは何かありますか。

A:

まさしく食と農の連携は、大きなテーマの1つです。ロイヤルホストは国産食材にこだわっているという話をしましたが、国産は供給制約があるので、われわれより大きなチェーンは同じことができません。それは逆に、店舗が少なければ少ないほど付加価値を上げる力が付くということを意味しています。ですから、われわれは日本各地の食材を使ったフェアをかなり行っています。

ただ、日本は縦に長く、産地連携がなかなか難しいので、この部分をわれわれ自身も一緒になって変えていかなければなりません。もっと効率化すれば、日本の農業ももっと発展するだろうし、われわれ外食もお客さまに付加価値の高いものを届けられると思います。ですから、ITをこういうふうに活用できるのではないかというアドバイスがもしあれば、逆に頂きたいです。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。