最近の世界エネルギー事情とトランプ政権誕生

開催日 2017年5月19日
スピーカー 髙井 裕之 (住友商事株式会社執行役員/住友商事グローバルリサーチ株式会社代表取締役社長)
モデレータ 藤 和彦 (RIETI上席研究員)
開催案内

第一部では、ここ2-3年の原油市場でのファンダメンタルズや先物市場での投機筋の動きについて説明いただき、第二部では、トランプ政権になってからの中東情勢やエネルギー政策についてお話しいただきます。日本との関連性については主に米国産LNGの現状のところで言及いただきます。

議事録

石油ガスの基本情報

髙井裕之写真米国のシェール開発は、この10年ほどで大きく発展しました。シェール開発は在来型の油・ガス田開発と違い、根源岩といわれる油ガスを含んだ層から直接吸い出すので、外れがありません。ただし、どれだけ取り出せるかは、人工的な割れ目を作るフラッキング(水圧破砕法)の技術の良しあしによって異なります。

シェールが革命的である理由は、開発コストが安く、生産までのスピードが非常に速いことです。それから、空井戸になるリスクが非常に低く、油ガス田というよりも油ガス製造工場のようなイメージがあります。さらに、シェールは米国だけでなく世界中に広く賦存しており、掘れば掘るほど生産性が上がるので、技術の進歩と生産性を上げる努力でコストは下がっています。シェールの開発が可能になったことで、資源は有限であるという概念が覆されたといえます。

シェール開発の3大地域はテキサス州、ペンシルベニア州、ノースダコタ州です。中でもテキサス州には最近非常に成長株とされるパーミアン・ベイスンというシェール油ガス田があり、原油だけで300万バレル/日が生産されています。イラク1国で約400万バレル/日ですから、テキサス1州で産油国1カ国分のインパクトがあります。ペンシルベニア州のマーセラス・シェールも、カタールに匹敵する大きさを有します。

米国は、東海岸の大都市のすぐそばに世界有数のガス田を持っています。このことは他の国に比べて大きな優位性の1つになっていると思います。ガス処理工場や製油工場があるメキシコ湾岸に油・ガスを運ぶ上で非常に重要になるのがパイプライン網ですが、オバマ大統領の頃は環境重視でキーストーンパイプラインの開発をストップしていました。しかし、トランプ大統領になって開発をすぐに承認しました。トランプ大統領は今後もパイプラインをどんどん整備していくと言っているので、米国のエネルギー産業に相当なプラスになると思います。

ただ、「バイアメリカン」(米国製品の優先的購入)とも言っているので、外国産の安いパイプを使って開発することはできません。経済性を考えると、「バイアメリカン」や「米国第一主義」が米国経済にとって本当にいいかどうかはよく分からないところです。

米国はこれだけシェール開発が発達しても、世界で最も多く石油を輸入しています。米国はよくエネルギーで自給自足を達成したと言っていますが、それはガスの話であって、石油に関してはまだ需要量の半分ほどを外から買ってこなければならないのです。

そのため、トランプ大統領は引き続き中東への関与を続けていくことにしています。歴代大統領の最初の外遊先は大体カナダとメキシコだったのですが、トランプ大統領は中東のサウジアラビアを選びました。このことは米国にとってサウジアラビアという国が非常に重要なポジションにあることを示しており、石油に関しては自給自足には程遠い状態であることがうかがえます。

ガスは、米国が世界一の生産国ですが、埋蔵量はイランが世界一です。ただ、経済制裁などがあって、イランのガス資源はまだそれほど開発されていません。イランは欧州へのガス供給基地として非常に重要なので、イランの経済制裁が今後どうなるかによって、特に欧州向けのガス市場に影響を与えます。

ガスを世界で最も多く輸入しているのは日本ですが、今年末ごろからシェールガス由来のLNG(液化天然ガス)が米国から輸出されるので、これがフルで日本に入れば対米の貿易黒字を削減する効果が非常に出てくると思います。

米国のガスと石油はこの10年間、シェール革命によって大きく増産されました。ただ、これは米国にとって2回目の石油ブームであり、一時期1000万バレル/日の生産量を達成していたのがどんどん下がって400万バレル/日まで落ち、それが足元では900万バレル/日ぐらいまで伸びています。

米国の石油は自給自足できていませんが、ガスに関してはほとんど自給自足状態です。ですから、これからシェールガスをどんどん生産していけば、液化して外に輸出するという流れになっていきます。

米国のLNGの輸出計画における日本勢の動きを見ると、日系企業は現在3つの大きなプロジェクトを持っています。大阪ガス、中部電力、東芝の3社でフリーポート(テキサス州)のLNGを買うコミットメントがなされていますし、三菱商事と三井物産はキャメロン(ルイジアナ州)、住友商事はコーブポイント(メリーランド州)を拠点としています。これらを全て足すと、日本勢全体で日本の年間LNG輸入量の2割弱に相当する1700万t近くの液化キャパシティを、20年間確保することになります。特にトランプ政権は対日貿易赤字を重要視しており、LNG輸入によってその額が減ってくるので、これは日米経済対話の武器になると思います。

米国のLNG市場は、ヘンリーハブ(米天然ガスの先物市場価格)、長期契約(油価連動)、スポット価格(1回の取引ごとに成立する市場価格)の3つの価格条件が併存しています。米国産LNG価格(長期契約)は、2011年ごろはとても安かったのですが、油価の下落とLNG自体の需給の緩みにより、足元では相対的に割高になっています。経済性だけを考えれば現状はスポット価格の方がはるかに安いのですが、原油価格が回復すれば、価格競争力が回復してくるかもしれません。

原油市場の直近の動き

1970年代以降の原油市場の推移を分類すると、原油のコモディティ化期、長期低迷期、資源バブル期、そして現在は需給のリバランス期に入っています。特徴的なのは、1980年代半ばごろのコモディティ期と、今から3〜4年ほど前の資源バブル期の現象が非常に類似していることです。共通して石油輸出国機構(OPEC)は需給の調整機能を停止しています。

1980年代は北海油田が出現したためにOPECのシェアが奪われ、OPECはいったん減産したのですが、効果がなかったので再び増産しました。そのため、30ドルだった油価が10ドルまで下がってしまいました(第1次逆オイルショック)。

全く同じようなことが3〜4年前にも起きました。シェール革命によって新しい油が出てきたため、供給過剰が起きたからです。普通ならOPECが輸出量を抑えるのですが、2014年11月にはこれを見送りました。なぜなら、またシェアを奪われるという苦い経験をしたくなかったからです。そのため、油価の下落はとどまるところを知らず、26ドルまで落ちてしまいました(第2次逆オイルショック)。

その後、OPECが機能を回復したのが2016年11月のOPEC総会でした。今年1月からは、非OPECのロシアなども含めて180万バレル/日の減産に踏み切りました。前回の逆オイルショック後は長期低迷期に入ったことから、今回も同じような現象が起きた後は、油価があまり動かない時代に入っていくのではないかと考えています。

そもそも2014年の半ばごろから今年初めごろまで、なぜ供給過剰になったかというと、米国とOPECがこの期間に増産合戦をしたからです。本来なら、米国が増産しているときにOPECが減らせば、これほど供給過剰にはならなかったのですが、シェアを失いたくないというOPECの強い意思があり、ロシアをはじめとした非OPECもどんどん増産したために需給バランスが崩れ、在庫が積み上がったのです。

これはまずいと思い始めたのがサウジアラビアでした。2015年1月にサルマン国王が即位し、一番若い息子であるムハンマドを副皇太子に就けました。ムハンマド副皇太子はしばらく黙っていましたが、4月になってそれまで20年間サウジアラビアの石油政策をマネージしてきたヌアイミ石油相を更迭しました。

その頃から、ムハンマド副皇太子は右腕であるファリハ石油相を使って石油政策をどんどん進めるようになり、9月にOPECがアルジェリアで集まったときには減産を急きょ発表し、それがきっかけになって油価が上がりました。

驚いたのは、ロシアも含めた非OPECも大幅に減産することに同意して、今年1月から協調減産がスタートしたことです。目標はOPECの生産量を3250万バレル/日以下に持っていくことで、減産量はサウジアラビアとロシアが突出しています。世界最大の産油国2カ国が協調して減産することには、非常に大きな意味があります。

減産の背景として、油価の下落により2015年の石油輸出収入が前年の半分近くに減ったことが挙げられます。中東は、産油コストは13〜14ドルと非常に安いのですが、予算均衡に必要な油価は高く、80ドルを超えないと財政赤字に陥るため、各産油国が協調して減産に動いたのです。

もう1つの背景として、サウジアラビアが変革を迫られているということもあります。石油収入の減少で歳入減に陥ると同時にイエメン空爆などで歳出が大きく膨らむ中、緊縮財政に着手しており、「サウジ・ビジョン2030」の基本的な考え方は、歳出を抑えると同時に脱石油を図って歳入を上げることです。

このベースにあるのは、30歳以下の人口が7割近くいることです。これから人口は増加する傾向にあり、2060年にはサウジアラビアと日本の人口が逆転するともいわれています。若くて優秀な人材が増えていく中で収入を石油だけ頼っていていいのか、ここで脱石油をしておかなければサウド家が崩壊してしまうという危機意識を、サウジアラビアはものすごく持っているのです。

「サウジ・ビジョン2030」の最大の柱は、時価総額2兆ドルともいわれる国営企業サウジアラムコの5%株式を上場することです。それによって入ってくるお金で政府投資ファンド(PIF)を設立し、世界中に投資していくというグランドデザインです。これを実現する上で、原油価格が30ドルではまずいのです。サウジアラムコの企業価値は基本的に原油価格で決まるからです。

減産がスタートして以降、OPECの産油国は非常に真面目に減産を履行しています。特にサウジアラビアの達成率は126%で、自ら他の産油国にやってみせるという意思が表れていると思います。一方、ロシアなどの非OPECの産油国の達成率は非常に低くなっています。ロシアの場合は半分民間企業なので、サウジアラビアのように国が決めて実施できないからです。それでも、全体として現在はピークから200万バレル/日の減産に成功しています。

こうした動きと裏腹に、米国の原油生産量は90万バレル/日増えています。OPEC加盟国が一生懸命減産しても、米国がどんどん増産しているのです。それでも世界全体での減産効果は出ているのですが、OPEC対米国のいたちごっこになっているというのが正直なところです。

米エネルギー省の予測では、このままいくと米国の生産量は2019年にボトムから140万バレル/日増えることになりますが、油価がどうなるか分かりませんし、コストの上昇やFED(連邦準備制度)の利上げがあることを考えると、本当に米国の増産ピッチが上がるかどうかは分かりません。

増産の背景には、まず生産性が大きく向上していることが挙げられます。また、シェールオイルには待機井戸というものがあります。シェール開発ではまず井戸を掘り、掘った井戸に水を注入するフラッキング処理をします。井戸を掘るだけであれば6割ぐらいのコストで済むので、もうかっているときに井戸を掘って、そのコストを会計上全て処理してしまった上で放置してあるのです。そして、油価が戻ってきたときにフラッキングさえすれば油が出始めるので、原油生産のコストは会計上相当安く見えます。現在、こうした待機井戸が4000本以上あり、これらが全てさばかれないと米国の供給過剰は改善されません。

原油市場においてWTI原油とブレント原油は先物上場されているので、ヘッジファンドが活発に取引しています。WTI原油、ブレント原油の市場の投機筋が持っているポジションのネット先物建玉(未決済になっている契約)の数を見ると、ピーク時には90万枚(9億バレル分)のロングポジション(買い持ち)を取っていましたが、油価の下落によりどんどん売られて、今は50万枚を切るぐらいまで減っています。

ヘッジファンドがペーパーでロングポジションを取るということは、いずれ彼らは売るということなので潜在的な供給量になります。過去のパターンでは、約40万枚がメルクマールとなって原油のロングポジションをやめる傾向が見られたので、今の水準はヘッジファンドのペーパーロングが相当処分されてしまった状態といえます。つまり、先物のポジションで投機筋がこれ以上売り込んでくるリスクは非常に小さいということです。原油市場は実需給で動きますが、こういう先物ポジションも価格に影響を与えます。

基本的にはOPEC対米国シェールの構図が続いていくわけですが、油価はおそらく年内は40〜60ドル、もっと言うと50〜55ドル前後で推移するのではないかと考えています。油価が下がると産油国は減産を続け、上がると米国のシェールが増産を活発化するので、上も下も抑えられる状態がしばらく続くと思われるからです。

欧米の専門家は2025年までそういう状態が続くと言っていますが、中東で何らかのリスク要因が顕在化すれば、一瞬で急上昇する事態は想定しておく必要があります。ダウンサイドリスクを心配するよりも、アップサイドに価格が振れるリスクの方が大きいと思います。

トランプ政権の誕生と環境エネルギー政策

トランプ政権は、エネルギー・環境政策についていろいろ言ったり、大統領令を出したりしていますが、中身のあるものはほとんどありません。今までに出した61本の大統領令のうち、エネルギーに関するものが6本、広い意味でエネルギーに関するものが13本出ていますが、メッセージ性が非常に強いものばかりで、トランプ大統領になって実際に油価やガス価に影響を与えたものはないと思います。

むしろ彼は、パイプラインを整備したり、今まで油ガス開発ができなかった場所を開放したりと、どちらかというと供給が増える方向で動いています。今回のいろいろな法案が議会の反対などで止まったように、インフラを整備するにしても州ごとの許可が本当に下りるのかどうか、予算はどこから持ってくるのかなど問題は山積しており、トランプ大統領のエネルギー政策は、シンボリックなものと考えた方がいいと思います。

質疑応答

Q:

米国のエネルギー関連の情報は、誰が一番信頼できるものを発信しているのですか。

A:

エネルギー政策を主導している人はおそらくいないと思います。エネルギー省長官にテキサス州知事を務めたリック・ペリーが指名されていますが、彼の発言はほとんど報道もされていません。環境問題では、娘のイヴァンカがものすごく重用されていて、パリ協定に関しても、プルイット環境保護局長官よりもイヴァンカが表に出て交渉する感じになりつつあります。

Q:

ヘッジファンドの資金は、需要量の3分の1とか5分の1を占めるほどのシェアがあったのでしょうか。

A:

ヘッジファンドは先物取引市場に入ってくるのみで、フィジカルの現物のマーケットには一切タッチしません。先物取引は想定元本のわずか数%の証拠金を積めばものすごい量の取引ができるというレバレッジ効果があるので、ファンドの運用額は大したことがなくても、ほんの少し積めばものすごいポジションが取れる仕組みになっているため、われわれは金額をあまり見ていません。ただ、ヘッジファンドがWTIとブレントの市場でどれだけのポジションを取っているかは見ています。

Q:

OPEC以外の要素をどう捉えていますか。

A:

生産国以上に需要国の方がインパクトは大きいので、これからは中国がどれだけ石油・ガスの市場でバイヤーになっていくかが注目されます。特に中国は、車がものすごく売れていますが、電気自動車(EV)の普及も推進しているので、車が売れることが必ずしも油が売れることに直結はしません。ですから、全体のエネルギー消費量とともに、そのうち油はどれくらいの割合かを見ています。

生産国でわれわれが一番気にしているのは、イランです。経済制裁が解除されて既に1年5カ月がたちますが、その間にイラン国民が肌で感じるような経済的メリットはあまりありません。実際にはイランの石油生産量は経済制裁前後で100万バレルほど増えていますが、国民の生活に響いていないのです。

ですから、ロウハニ大統領は、制裁解除時は高評価だったのですが、1年5カ月たって支持が揺らいできている面もあります。しかも、トランプ大統領は反イランを強く主張しています。今回のイラン大統領選がロウハニと強硬派のライシによる決選投票にずれ込むと、トランプ大統領のサウジアラビア、イスラエル訪問日程と重なってしまいます。トランプ大統領はイランについて必ず何か言うでしょうし、場合によってはトランプ大統領の非常に意地悪なツイートでロウハニが票を失い、ライシが当選してしまうかもしれません。

Q:

米国シェールの今後の生産および輸出の見通しと、日本が対米エネルギー協力で力を入れるべき点について教えてください。

A:

来年から日本にも米国産のLNGが入ってくることになっていますが、石油で起きたシェア取り合戦が今度はガスで起きると考えると、米シェールは生産を増やすことはできても、経済性の点では安価なカタールのガスに劣後することになります。

ただ、日本の場合はエネルギー安全保障の観点で分散させるニーズもあるので、安いところからたくさん買うだけでなく、米シェールをどこまで取るかが、対トランプ政権交渉上で重要ではないかと感じています。

Q:

EVの普及でガソリンの需要が大きく減る可能性がある点について、どうお考えですか。

A:

輸送全般で減りますが、それを超える勢いで新興国のモータリゼーションは進むと思うので、ネットするとあまり変わらないと思います。それ以上に、太陽光ではプラスチックは生まれませんから、石油化学の需要は将来も相当期待できると思うので、需要を少なく見積もらない方がいいと感じています。

Q:

これからの業界構造はどうなっていくのでしょうか。

A:

この3年ほど油価が下がる中で、技術革新により原油の掘削コストは相当下がりましたが、最近は逆に上がり始めています。急激に人員を削減したために、同じコストでは元に戻せないからです。ですから、今後さらに技術革新やコスト削減で生産コストが下がるかというと、もうそろそろ頭打ちのところに来ていて、むしろ上がっていくように思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。