働き方の男女不平等

開催日 2017年2月23日
スピーカー 山口 一男 (RIETI 客員研究員/シカゴ大学ラルフ・ルイス記念特別社会学教授)
コメンテータ 小室 淑恵 (株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長)
モデレータ 関 万里 (経済産業省経済産業政策局経済社会政策室長補佐)
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近々出版(予定)の『働き方の男女不平等』においての実証的および理論的考察を土台にして、いわばそのハイライトともいえるいくつかの分析結果を紹介する。その一つは、日本における雇用機会や賃金の男女格差の実態に関する実証分析・理論解析結果で、今一つは日本企業のダイバーシティ―経営や性別によらず社員の能力発揮に努める企業の人事方針が企業の生産性・競争力にどのように正の影響を与えているかについての実証結果である。

議事録

女性の管理職割合と間接差別

山口一男写真ホワイトカラー正社員の管理職割合の男女格差について、人的資本(年齢、学歴、勤続年数)の差は課長以上割合の21%、係長以上割合の30%しか説明していません。つまり、勤続年数や学歴が同じでも、女性の昇進率が非常に低いのです。

たとえば課長ポストの割合をオッズ比で測ると、大卒は高卒に比べて1.65倍であるのに対し、男性は女性に比べて10.43倍であり、学歴よりも性別の方がはるかに大きく影響しています。とりわけ事務職における課長への昇進機会は、男女格差が非常に大きくなっています。ホワイトカラー正社員男女の所得格差が大きいのは、女性に事務職者が多く、他の職務に比べて女性が管理職になる機会が少ないことが大きな原因の1つです。

日本では、従業員100人以上の企業において、女性の大卒度は生産性・競争力を高めていません。どの国を見ても、大卒度は労働生産性にポジティブに関係していますが、日本では結びついていません。ただし、例外的に管理職の女性割合が高い企業では、女性正社員の大卒度がより高い生産性・競争力に結びついています。ですから、女性の管理職登用機会が大きい企業ほど、生産性・競争力が高いといえます。

また、職務配置や評価基準を通じて女性に不利な制度・慣行を設ける「間接差別」をしている企業では、高い地位の管理職ほど、資格獲得への自己投資のインセンティブの男女格差が大きくなって、地位を得る女性の割合が減ります。

そこで、現行の雇用機会均等法の間接差別の非常に限定的な定義を改正し、制度が結果として男女格差を生み出すメカニズムが明確なものは、間接差別とすべきだと思います。日本企業では、総合職・一般職を区別したり、長時間労働を管理職要件としたりする慣行が今も幅を利かせており、そこを変えていかないと女性の管理職登用は進みません。

統計的差別、予言の自己成就と女性労働の非生産性

私の分析結果では、「性別に関わりなく社員の能力発揮に努める」というGEO方針を持っている企業では、女性正社員の大卒度が男性正社員の大卒度とほぼ同様に企業の生産性・競争力を高める強い傾向がみられ、女性の賃金が高くなっています。それだけでなく、GEO方針を持つ企業だけが、ワークライフバランス施策や勤務地限定正社員制度によってGEO方針自体の影響を超えて女性賃金を増大させ、男女賃金格差を減少させています。

また、高い地位への有資格に関する企業の女性への偏見は、男女の自己投資のインセンティブ格差を生み、予言の自己成就となりやすく、その傾向はリスク回避的な人事方針の下でより起こりやすくなります。そして、シグナルによる職の資格の判別度について、専門職の方が管理職より高いならば、女性への偏見が予言の自己成就となりやすい傾向は、専門職登用より、管理職登用についてより起こりやすいという分析結果も示しています。

GEO方針を「持つこと・持たないこと」は予言の自己成就に陥りやすく、持たない場合は女性大卒者の高い生産性が生まれていないことになります。このことは、女性は辞めるものと見なして差別的に取り扱われることを動機として辞めていくという事実とも整合性の高い結果です。また私はこうした悪循環の弊害をかねてから指摘しているところです。

女性の職業のステレオタイプ化

近年、日本では専門職に就く女性が増えています。ただし、専門職を社会経済的地位が比較的高いタイプ1型(弁護士、会計士、エンジニアなどの非ヒューマンサービス系や医師、大学教員など)と比較的低いタイプ2型(教育・養育、医療、社会福祉などのヒューマンサービス系)に分けると、日本女性の専門職はタイプ2型に集中しており、タイプ1型の割合は著しく少ないのが現状です。

女性の高学歴化、男女の学歴の同等化に伴い、もともと女性の割合が大きかったタイプ2型の専門職に、女性がステレオタイプに採用・配置されていることが、この傾向を一層強めています。一方、高校のタイプや大学の専攻は、工学部出身者は確かにエンジニアになる人が多いですが、それを除くとほとんど男女の職業分離に影響していません。つまり、男女の職業機会の差は労働市場で起こっているのです。

このことは賃金格差にも関係していて、タイプ1型と管理職の女性は男性事務職よりも平均賃金が高いものの、女性が非常に集中しているタイプ2型の専門職に就く女性は男性のブルーカラーよりも賃金が低く、市場でとても低く評価されています。

長時間労働と女性の機会

OECD諸国内で比較すると、女性の活躍度と時間当たりの生産性は有意に相関していて、実はその貢献度は非常に高いのに、日本は女性の登用が遅れているため、人的資本度は高いにもかかわらず生産性が下がっています。

加えて、男性が長時間労働するかどうかは正社員の昇進率に関係しないのですが、女性は学歴や勤続年数が同じ場合、長時間労働しない人たちは一般職ルートなどに回されて昇進しません。そういう選別機能を通じて女性の大部分が管理職ルートから外されてしまい、女性にのみ長時間労働ができるか否かが管理職登用の非常に大きな決め手になっています。これは一種の間接差別です。

本来、労働時間と労働者数には代替性があって、代替性が増えれば時間当たりの生産性で考えた方が合理的であることは証明されています。しかし、日本ではいまだに正規雇用の終身雇用制度が存続しており、代替性が低いため一定の人数で生産性を最大限発揮するために労働時間を長くするという雇用慣行が、高度成長時代以来ずっと続いてきています。それが、ワークライフバランスを損ない、女性の進出も損なっているのです。

現行の労働基準法上の残業限度時間は年360時間、月45時間です。ところが36協定による特別な約束があれば例外をつくってもいいことになっていて、この限度時間はザル法になっています。本来ならそれを戻して年360時間・月45時間を原則とすべきなのですが、働き方改革の最大労働時間の政府案はその倍になっており、年720時間・月100時間まで残業してもいいと取られかねません。本来、過労死の問題もさることながら、そういう働き方がいいのかどうかを働き方改革では問題にすべきなのですが、企業の要請との中途半端な妥協点になっていることを、私は危惧しています。

ダイバーシティ経営と女性の活躍推進

ダイバーシティ経営に関するGEO方針がある企業は、ない企業に比べて女性の平均賃金が有意に高く、男女賃金格差が有意に小さくなっています。これは単なる相関ではなく、交絡要因といって、賃金にもGEO方針の有無にも両方影響するような要因を非常に弱い仮定の下でコントロールした結果です。

同じように、組織的なワークライフバランス(WLB)推進は、GEO方針のある企業ではGEO方針の影響を超えて平均賃金を高め、男女賃金格差を減少させるけれども、ない企業では女性の平均賃金はむしろ下がり気味で、かえって男女賃金格差を有意に増大させています。

私は、WLB政策は企業にとって諸刃の剣であると表現しました。つまり女性の活躍を推進している企業では、女性の賃金が高まり、男女賃金格差も少なくなり、生産性も増しますが、そうではない企業ではむしろ女性にとって不利となり、男女賃金格差は広がり、生産性にも全く寄与しません。ですから、企業から見れば逆に、WLB施策はコストとしか見なくなるという悪循環を生むことになります。

生産性・競争力についても同じことがいえます。GEO方針のある企業は、ない企業に比べて有意に生産性・競争力が高く、女性正社員の大卒度がより有意に結びついているのに対し、GEO方針がない企業では女性の大卒度が有意に企業の生産性・競争力を高めていません。

また、私の分析では、組織的なWLB推進は、GEO方針がある正社員300人以上の企業においてのみ、GEO方針の影響を超えて企業の生産性・競争力を高めています。

勤務地限定正社員制度も、有意に生産性・競争力を高めることにつながっています。勤務地限定正社員は女性の多い企業内トラックをつくり、それではキャリアが進まないという議論をする人がよくいます。しかし、勤務地限定正社員は、確かに賃金はやや下がるかもしれませんが、GEO方針のもとでは女性の継続就業を促進し、最終的には女性のキャリアが伸びて、男女賃金格差が狭まります。この制度も運用のあり方が問題なのです。

企業のWLB施策が諸刃の剣であることは、まず男女賃金格差の面からいえます。GEO方針もWLB施策も共にない企業に比べ、両方ともある企業は8%程度賃金格差が縮小しています。しかし、女性の活躍は推進しないままWLB施策を導入すると、男女賃金格差は12%程度大きくなってしまいます。

同じことが生産性についてもいえて、GEO方針・WLB推進がともにない企業に比べ、両方ある企業の生産性は2.2倍に上がりました。逆に、女性の人材活用をしないのにWLBを推進すると、同じようにネガティブな傾向になります。

ですから、WLB施策は非常に重要ではありますが、企業にとっても女性にとってもプラスになるWin-Winの関係をつくるには、性別によらず人材を活用する方針をはっきり持つことが必要です。それがないと逆効果になる可能性があり、さらにそれにより企業がWLB施策にネガティブになるという悪循環が起こってしまいます。

「女性の活躍推進法」の運用について

女性の活躍推進は、正規雇用の活用と非正規雇用の活用を分けて考えなければいけません。共通点としては、女性の活用も、非正規雇用者の活用も、賃金が生産性に見合わないから問題なのではありません。女性や非正規雇用者の賃金は相対賃金よりも低く抑えられていますが、非正規雇用者の生産性は相対生産性よりもむしろ高いぐらいで、女性の賃金は相対生産性に見合っているという分析があります。

つまり、一番の問題は女性も非正規雇用者も潜在的に生産性が高いにもかかわらず活用されておらず、生産性を発揮できるチャンスを与えられていないことなのです。その状態で同一労働同一賃金によって正規と非正規の格差を機械的に埋めると、経済的不合理が生じてしまうため、人材活用の仕方をまず変える必要があります。

正規雇用という雇用形態での女性の活躍が遅れているのは、雇用機会、経験機会、評価基準、昇進、WLBの5点で女性がハンディを負っているからです。

とくに多いのは、育児離職した後の正規雇用機会がないことや、正規雇用の割合が小さいこと以外に、職務の配置を通じた差別があって経験が与えられていないことです。管理職登用ができないのは女性に経験がないからだとよくいわれますが、それ以前に経験させていないのです。

女性には潜在的にダイバーシティがあって、男性と同じように多様な能力があるのに、実際の機会は非常に狭い範囲でしか与えられていません。また、達成の評価基準が時間に限定されずに職務をどれだけ達成したかという女性にとって不利なものであるため、ハンディが大きくなります。それから、間接差別や長時間労働を前提とした雇用慣行がハンディになって、昇進チャンスにも大きな格差があります。

男女の機会の平等を考える上で留意すべきこと

まず、私は男女の機会均等をメカニカルに考えてはならないと考えています。既存の制度を前提とした機会の平等は、真の機会の平等ではないからです。たとえば、恒常的に残業できるか否かを踏み絵にされた結果、女性が一般職を選択することは、真の自由意志の選択とは言えません。また、短時間正社員制度がないために育児期に不本意ながら非正規雇用に転職することも、真の自由意志の選択とはいえません。制度的な制約によるやむを得ずの選択を自己責任のように押し付けるのは、社会的な機会均等とはいえないという認識が必要です。

それから、与えられた機会がどのような基準で評価されるのかについては、実際の評価基準が女性に不利になっている場合を考慮する必要があります。

さらに、社会的機会の平等を阻害する制度に影響をもたらす価値観や意識は、単に個人の精神の自由の問題ではありません。多くの経済学者は、個人の選好や価値観を変えようとする政策を取るべきではないと考えています。女性の仕事能力に対する偏見や、性別で向き・不向きを決めるステレオタイプの押し付けは、社会的機会の平等を損なうものであり、単なる雇い主や上司の選好の問題ではなく、社会的な不公平の問題だと思います。

あるいは、本人が育児離職するか否かの決定をする前に、離職するものと決めつけて女性に対して統計的差別を行うことについても、倫理観が問われます。なぜなら、それは過去の女性のことを現在の女性に当てはめているからです。本人の自己責任の観点からいえば、他の人のことを女性であるという属性の共有から、実際に離職するかどうかが未定の女性にあてはめ統計的に差別することには倫理的な問題もあります。

また、予言の自己成就が典型的なのですが、信念が結果に影響する場合、心理合理性を持ってしまうとなかなかそこから抜けられません。その場合に重要なのは、社会的合理性です。企業が合理的だと思って行う選択により女性の不活用が再生産される場合、社会全体として考えた人材活用の観点を企業の観点に優先させて考えるべきです。

アファーマティブ・アクションやポジティブ・アクションの採用は、望ましくない均衡を破る方策として十分考えられてよく、真の機会の均等を実現する意図で採用される場合は、基本的に自由主義とは矛盾しないというのが私の主張です。

女性人材を活用できない社会が経済的に合理的ではあり得ないという認識の下に、女性の人材活用に停滞状況を生んでいる現状を支える労働市場や雇用や家族のあり方を見極め、男女の真の機会の平等の達成のために、自由主義的な原則を尊重しながらも、それらの制度や慣習を政府も企業も家庭も積極的に設計し直すことが、今強く望まれています。

労働生産性を上げるには、自由とインセンティブが最も重要です。人々が、自由主義に全く矛盾しない形で付加価値を生み出す社会をつくり上げていかなければなりません。

コメント

小室氏:
恒常的な残業ができるかどうかが事実上、働き方の踏み絵になっていて、女性活躍の大きな障害になっているという指摘がありましたが、労働時間に関して変革を行った企業では、女性活躍にどのような変化が出ているのかを紹介したいと思います。

私たちのコンサルティングでとても分かりやすい成果が出たのがリクルートスタッフィングで、ここでは評価軸を「時間当たり生産性」というものに徹底して変えました。同じ時間内でどれくらいの成果を上げたのかという評価基準です。この会社で表彰制度の対象になるのは、ある一定時間内で成果を上げたチームだけです。チーム全員の時間当たり生産性を高める行動を取らないと、表彰対象外になってしまうのです。そうすることで、深夜労働が86%、休日労働が68%削減されて、女性管理職が43%になりました。そして、コンサルティング3年目には、女性社員の出産率が1.8倍になりました。

セントワークスも働き方を徹底的に変え、残業時に「恥ずかしいマント」というものを着けるルールになっています。その結果、残業時間が49%削減されて営業利益も162%になり、従業員の出生数が2.7倍、女性の管理職比率も8倍にはね上がりました。

ある大手旅行会社では、管理職研修でリプレイスメントコストについて徹底的に周知し、部下の女性たちが結婚・出産で辞めなくてもいい状態をつくることが、管理職の仕事であるということを理解していただきました。

三重県は、地方創生交付金を使って、県内企業に働き方改革のコンサルティングを入れています。それにより、男性の育休取得率が3倍に伸び、県の合計特殊出生率は過去最高になりました。中でもエムワンという調剤薬局会社は、働き方改革を行った結果、売り上げが230%になり、採用エントリーも年60名から月160名に伸びました。地方で人材獲得が困難になっている中、女性にとっても男性にとっても働きやすい環境をつくることで、生産性や業績が上がることが分かると思います。

社会全体に置き換えて考えると、労働時間の上限設定がない中で企業がライバルを出し抜くための競争を繰り広げると、企業は長時間労働が可能な社員のみを評価して重用し、育児女性や介護社員が仕事に就けない状況が生まれます。その結果、今は出生率が低下し、介護離職が10万人という状態になっているのだと思います。

労働時間の上限やインターバル規制がきちんと入ることで、企業は短時間で高い労働生産性を競い合うようになります。その中で、企業は潜在労働力を活用するようになり、それがGDP向上や女性管理職登用、出生率向上などにつながります。

質疑応答

Q:

タイプ2型の職種の人たちの処遇を上げるために、何かいい政策はあるのでしょうか。

A:

日本のタイプ2型の専門職は、男女賃金格差が非常に大きいという特徴があります。米国で女性の時間当たり賃金が増えたのは、タイプ1型の高収入の職に就く女性が増えたからなので、私はむしろそちらを強調しています。日本でタイプ2型の賃金が低いことに関しては、いろいろな制度的な制約もあるかとは思いますが、今後もう少し分析が必要です。いずれにせよ、問題は日本で女性の高学歴化がタイプ1型の専門職の増加に結びつかず女性の活躍になかなか結びついていないことです。

Q:

タイプ1型に男性が多いのは、男性は論理や理数系で遺伝子的に優れているからで、自然だと思うのですが。

A:

ヒュ―マンサービス系のタイプ2型に女性が多いのは万国共通ですが、その逆にタイプ1型が女性に向かないというのはおかしいと思います。つまり、日本でタイプ1型専門職の割合が女性就業者の2%に満たないのは欧米に比べものすごい偏りで(米国では13%)、またヒューマンサービス系であっても、医師のように社会経済的地位の高い職も日本では女性の割合が非常に少ないです。要は欧米に比べて、女性の専門職の偏りが、極めていびつで問題だということです。

Q:

日本でもノルウェーのクオータ制のように、短期的に女性経営者を4割ぐらいにまで持っていこうとする考えは賛成ですか、反対ですか。

A:

ノルウェーのクオータ制が成功したかどうかは、もう少し時間を待って判断しなければならないのですが、最も大事なのは候補者を養成することであり、その底上げがないところで員数合わせをしても仕方がありません。

日本は、人材を育てていないからいないのであって、人材がいないわけではないのです。その違いを意図的に混同している面があります。経営管理職の育成にしても、専門職の育成にしても、女性に対してあまりしていないし、実際に能力のダイバーシティはあるのに、それが生かされていないことが問題です。

ノルウェーのように、員数合わせを行って経験を埋めるという考え方もあるわけですが、コストが掛かり、企業にとってバックラッシュの理由になることもあるので、やはり育成の方から考えていって、チャンスを与えていくことが重要ではないかと考えています。

一方で政治における選挙の候補者や、企業の管理職候補者を、男女で均等に選ぶように努めるというのは、結果を男女に割り当てているわけではなく、機会の平等を促進することなので私は賛成です。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。