パリ協定の採択と今後の地球温暖化対策の展望

開催日 2016年1月28日
スピーカー 三又 裕生 (経済産業省大臣官房審議官(環境問題担当))
モデレータ 戒能 一成 (RIETI研究員/東京大学公共政策大学院非常勤講師/国連気候変動枠組条約CDM理事会理事)
ダウンロード/関連リンク
開催案内

2015年12月12日、フランス・パリのCOP21会場で、パリ協定が採択された。日本がかねて主張してきた「全ての主要排出国が参加する公平かつ実効的な枠組み」に合意するものとなり、大きな成果であった。これまでの京都議定書は、世界の二大排出国である米中が義務を負わず、世界の温室効果ガス排出のごく一部しかカバーしない実効性に疑問のあるものであり、その中で排出シェアが3%に満たない日本はトップダウンで排出削減義務を負い、その達成のために約1600億円のクレジットを国費によって購入せざるを得なくなるなどの問題があった。今回の合意は、こうした過去の枠組みの反省にたって、日本が目指してきたものが実現した結果といえる。

一方、今後はパリ協定を受け、国内での地球温暖化対策計画の策定など今後の温暖化対策の進め方をどうするかが課題となる。我が国は、昨年7月に条約事務局に提出した約束草案で示した「2030年までに温室効果ガスを2013年比26%削減」するとの排出削減目標と、そのバックボーンになっているエネルギーミックスや電源構成を実現するための施策・対策を着実に実施していく。しかし、より長期的に世界での抜本的な排出削減をはかっていくためには、イノベーションが鍵となる。今回のパリ協定の下での措置に加え、エネルギー・環境分野での革新的技術の開発と普及が不可欠である。

今回の講演では、地球温暖化問題を巡る、国際社会と日本、過去と未来を俯瞰して、日本の進むべき正しい方向についてお話しいただく。

議事録

これまでの大きな流れ

三又 裕生写真温室効果ガス削減の取り組みは、国連加盟国すべてが参加する国連気候変動枠組条約(1992年採択、1994年発効、196カ国・地域が参加。日本は1993年に批准)の下で実施されてきました。具体的な国際取り決めについて話し合うため、国連気候変動枠組条約締約国会議(Conference of the Parties: COP)が1995年から毎年末に開催されています。

従来の枠組みの問題点・留意点として、気候変動枠組条約には、途上国もそれなりの責任を負う必要があるという「共通だが差異ある責任(Common but Differentiated Responsibilities)」の概念について書かれていますが、これをどう具体化するかは難しい問題です。「附属書」には、90年頃の経済状況によって先進国・途上国が特定されているため、中国や韓国、トルコ、メキシコなど、それ以降OECDに加盟した国も先進国ではないという扱いになっています。それを変えるためには、条約そのものを改正する必要がありますが、おそらく当事国が反対してできないというジレンマがあります。

そういう中で、京都議定書(1997年に京都で開催したCOP3で採択、2005年発効。日本は2002年に批准)ができましたが、先進国のみに排出削減義務があることを大きな理由として、当時の最大排出国であった米国は批准していません。したがって日本、EU、ロシア、カナダ、豪州などの先進国の一部の国々だけが排出削減義務を負いました。

日本の削減義務として、1990年比6%減という数値がトップダウン型で設定され、約1600億円の国費でのクレジット購入などにより義務を達成。CDMなどのいわゆる「京都メカニズム」は、厳格な国連管理などに起因して実効性に問題があったと言わざるを得ません。以上のような問題を、今回のパリ協定ではかなり払拭することができたと思います。

すでに21回を数えるCOPは、国際ルールをつくり、国家間の合意をつくるネゴシエーションの場といえます。もちろん意味はありますが、ネゴシエーションから直接のソリューションは生まれません。世界には、たとえばインドの製鉄所で多くの石炭を使ってCO₂を排出しており、新たな技術を導入すれば大幅に削減できるような状況がたくさんあるわけです。ですから、より具体的でリアルなソリューションに光を当てるべきだと思うのですが、なぜか気候変動問題というとCOPだけが中心となり、ネゴシエーターたちによる会議がメインの舞台になり続けてきました。

COP21後の要点

今後は、パリ協定を適切に実施していくことが大切ですが、日本は、すべての国が参加する公平かつ実効的な枠組みを長らく主張してきました。今後、公平性や実効性を担保するには、協定に基づいた細目ルールの策定、とくにレビューをどのように実施していくかがポイントになります。

たとえば中国は経済力をどんどん増し、今や世界最大のCO₂排出国となっていますので、今後は、パリ協定の枠組みの中で応分の責任を果たしてもらう必要があります。そういった途上国の取り組みの高度化に向けた適切な運用についても、しっかり取り組んでいかなければなりません。日本が提案・貢献できることも、いろいろあると思います。

加えて、私が今後必要と考えているのは、「イノベーションの推進」です。今回のパリ協定は2030年までの枠組みですが、さらに長期的には、革新的低炭素技術の開発・普及に向けた産学官連携による取り組みの加速が大事になるでしょう。協定の補完的な位置付けとして、国境を越えたいろいろな連携を含むイノベーションの枠組みを、車の両輪で進めていくことが求められます。

また「科学・合理性の追求」として、パリ協定というネゴシエーターの集まりから、再び科学者へとボールが投げられている部分がかなりあると思います。「1.5℃目標」や「公平性」を巡る議論などを、より科学的に突き詰める必要があるでしょう。それは科学に対する宿題ともいえます。

日本の対応については、COP21に先立ち、昨年7月に2030年のエネルギーミックスを策定し、それと整合的な「約束草案」を提出しましたが、そういった既定方針に基づく取り組みを着実に実施することに尽きるでしょう。日本は、排出削減の取り組みについてこれ以外に新たな義務を負っているわけではありません。

パリ協定の概要

COP16(2010年、メキシコ・カンクン)では、各国が自主的に2020年の目標を登録することに合意しました。日本は、2010年1月に25%減(90年比)を登録しましたが、東日本大震災が発生し、2013年11月には3.8%減(05年比)に差し替えました。これは、原発の稼働を一切見込んでいない現時点での目標です。

COP17(2011年、南ア・ダーバン)では、2020年以降の将来枠組みに向けた検討開始に合意。それから約4年にわたる交渉が行われました。日本は引き続き、2020年以降の国際枠組みは、すべての主要排出国が参加する公平かつ実効的なものであることが必要という基本ポジションを守り、現時点において、これにかなった合意ができたと思います。

パリ協定では、次のような要素が盛り込まれました。主要排出国を含むすべての国が削減目標を5年ごとに提出・更新すること。その実施状況を報告し、レビューを受けること。我が国が提案する二国間クレジット制度(JCM)も含めた市場メカニズムの活用。先進国が資金の提供を継続するだけでなく、途上国も自主的に資金を提供すること。こうした項目がすべての国に課され、5年ごとに世界全体の進捗状況を把握する仕組み(グローバル・ストックテイク)が導入されることになりました。

さらに世界共通の長期目標として、2℃目標のみならず1.5℃へ向けた努力、可及的速やかな排出のピークアウト、今世紀後半における排出と吸収の均衡達成への取り組みに言及しています。そしてイノベーションの重要性に言及し、技術メカニズムおよび資金メカニズムによる支援を位置づけ、協定の発効要件に国数(少なくとも55カ国)および排出量(少なくとも55%)を用いています。

温室効果ガス排出シェア(2010年時点)および京都議定書の参加カバー率をみると、第一約束期間(2008〜2012年)参加国が22%であるのに対し、第二約束期間(2013〜2020年)参加国は13.4%しかカバーしていません。このように限られた国が厳しい義務を履行したとしても、地球全体の排出量はまったく抑制されず、意味がありません。

そこで、元来日本が提唱していたプレッジ&レビュー手法を採用することにより、COP21ではすべての主要国が2020年以降の枠組みへの参加を合意し、世界の温室効果ガス排出量の約99%をカバーする、188カ国・地域を(1月26日時点)が削減目標を提出しています。

気候変動に関する先進国・途上国の義務の比較

気候変動枠組条約(1992年)および京都議定書(1997年)では、先進国は総量削減目標(京都議定書)を掲げる一方、途上国は具体的な削減義務はありませんでした。その後のカンクン合意(2010年)では、先進国は総量削減目標、途上国には「国別緩和行動目標」として一定の責任が示されましたが、目標の提出を含めて法的義務はありません。さらに、先進国による年間1000億ドルの資金動員(途上国の緩和行動と透明性が前提)も盛り込まれました。

パリ協定では、カンクン合意の方向性をより強め、国際法の枠組みの中で途上国をしっかり位置づけること、そのための資金支援について交渉が行われました。結果として、先進国・途上国とも「国別貢献」を5年毎に提出・更新し、先進国は総量削減目標を継続、途上国も時とともに経済全体の削減・抑制目標を目指すことが盛り込まれました。資金支援については、先進国の義務は継続、途上国にも任意の支援を奨励しています。さらに行動の透明性については、先進国・途上国とも共通の義務として、2年毎に「国別貢献」の達成状況などを報告し、内容について専門家がレビュー、多国間で検討することとなりました。

技術の位置付け、技術メカニズムと資金メカニズムのリンケージ

パリ協定第10条(技術)には、「効果的・長期的な世界全体の気候変動対応と経済成長および持続可能な発展のためにイノベーションの推進が決定的に重要であり、とくに技術サイクルの初期段階における研究開発への協働的アプローチや技術へのアクセス促進といったイノベーションのための取り組みは、技術メカニズムや資金メカニズムによって、適切な場合、支援されるべき(shall be supported)」と謳われています(第10条5)。

また、技術メカニズムと資金メカニズムのリンケージに関するCOP21決定として、「技術メカニズムと資金メカニズムの間の、定義された、相互に利益を与える機能的な連携の重要性と必要性を認識(パラ5)」と示されています。これまで、技術メカニズムと資金メカニズムの間のリンケージは担保できていませんでした。実は、ペルーで開催されたCOP20の際、日本がこのリンケージの重要性について提案し、1年後のCOP21において一定の規定が含まれることになりました。

パリ協定のおもな規定と日本の対応

パリ協定の枠組みにおいて日本が取り組むべき内容は、基本的に想定外のことは何もなく、すでに提出済みの約束草案に基づき、これまでの流れをしっかり継続していくことになります。長期戦略に関しては、大きな目標に対し、日本としてどう取り組んでいくかが今後議論になっていくと思います。日本は2013年9月に「環境エネルギー技術革新計画」を策定しており、さらに今春には「エネルギー・環境イノベーション戦略」が策定される予定です。

約束草案の提出に関する主要国の状況(2016年1月26日時点)として、中国は、2030年までにGDP当たりの二酸化炭素排出を60〜65%減(05年比)、2030年頃には二酸化炭素排出のピークを達成するとしています。韓国は、2030年に37%減(対策なしケース比)となっています。

各国の約束草案の公平度・野心度についての議論は、色々な観点があるものの、GDP1ドル当たりの排出量や人口1人当たりの排出量でみると、日本は先進国の中でもトップクラスとなっています。鉄鋼やセメントといったエネルギー多消費産業における単位生産量当たりのエネルギー効率も世界でトップです。

世界各国の約束草案のCO₂限界削減費用推計値(RITE DNE21+推計)をみると、日本は380ドル程度(エネルギー起源CO₂の目標のみで評価した場合は260程度)と、スイスと並んで世界一高額となっています。つまり、それだけ努力が必要だということです。米国は76〜94ドル、EU28は210ドルと日本よりも少なく、ロシアは1〜7ドル、中国およびインドに至ってはゼロとなっています。ゼロとは、つまり追加的な努力をすることなく達成できる数値が約束草案に掲げられていることになります。ただし、これは日本の評価が比較的高いものを例としており、欧州のシンクタンクなどでは、異なる評価をしているところもあります。

おそらく公平性の尺度に1つの答えはなく、複数の指標によるべきものだと思いますが、色々な見方があるということを念頭に置き、偏った一面的な見解や分析には絶えずカウンターバランスをとっていくことが必要だと思います。粘り強く、日本が世界の中で不当に悪者扱いされないようにしていくことが大事でしょう。

各国の削減目標と2℃目標の関係

ただ、長期的に2℃あるいは1.5℃の上昇に抑えるために、今後の温室効果ガス排出を何トン以内に留める必要があるという議論で具体的に示される数値には、科学的にみると不確実性があるという点に留意が必要です。

IPCC第5次評価報告書による「産業革命前に比べて気温上昇が2℃未満に抑えられる可能性が高い」シナリオと、これまで提出されている約束草案の積み上げとの間には、ギャップがあるとされています。「気候感度」について、IPCC第5次評価報告書でlikelyとされているのは1.5〜4.5℃と3倍もの幅があり、7年前の第4次評価報告書よりも下方にレンジが広がるなど大きな不確実性が残っています。

いずれにせよ長期的には、GHG排出量がどこかでピークを打ち、右下へ向かっていくことが必要ですが、横軸(時間)の幅が科学の見方によって大きく変わるということを理解すべきだと思います。日本のようにコストの高い国が、この問題に対してコストをかけてどこまでやるか。そのトレードオフを考える際は、時間の幅が不確定であることを意識しながら適切に対応することが大事です。そして、パリ協定による5年ごとの削減目標の提出・更新、実施状況の報告・レビューとともに、中長期的な温暖化防止には、革新的技術の開発と普及を通じたイノベーションが不可欠といえます。

気候変動をめぐる機関投資家・金融界等の動向

最近、化石燃料採掘会社が資産計上した確認埋蔵量や、化石燃料を利用する発電の施設・投資額などを「座礁資産」(気候変動対策の結果として、化石燃料に関する規制が強化されたり、需要が減退したりすることにより価値が毀損する資産。財務会計上は減損処理の対象となる)と捉えたり、「炭素バブル」(化石燃料採掘会社によって資産計上された確認埋蔵量が、著しく過大評価されている状態)が生じているといった認識について、イングランド銀行総裁/FSB議長のマーク・カーニー氏などが発言しています。

また、FSB(金融安定理事会)は金融リスク判断に有効な情報開示の促進の一貫として、2015年12月に、G20の官民対話やCOP21の結果を踏まえ「気候変動リスクタスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures: TCFD)」を設置。企業が機関投資家等に気候変動関連リスク情報を開示するための方策を検討する見込みです。

さらに国際的なNGOであるCDP(カーボン・ディスクロージャープロジェクト)は、各国企業に質問票を送付し、気候変動問題などへの取り組みについて調査・分析し、評点を公表していますが、2015年からは、「インターナル・カーボンプライシング」(企業内で経営判断に用いる炭素価格)の導入状況についても質問票に追加しました。このように今後、企業や機関投資家の行動に大きな動きが出てくる兆しがありますので、日本も立ち遅れないようにしなければなりません。

日本の貢献

COP21の首脳会合において、安倍総理は、途上国支援とイノベーションの二本柱からなる貢献策を発表しました(11月30日)。途上国への対応促進のため、我が国による途上国向け気候資金として、2020年までに官民合わせて約1兆3000億円(現状の1.3倍)に増額する旨を表明しています。

また、革新的エネルギー・環境技術の開発強化に向けた「エネルギー・環境イノベーション戦略」を策定するとともに、研究開発強化に係る有志国連合「ミッション・イノベーション」への参加を表明しつつ、この分野での先駆者として貢献する決意を表明。二国間クレジット制度(JCM)などを通じた優れた低炭素技術の普及推進にも言及しています。

Innovation for Cool Earth Forum(ICEF:アイセフ)は、安倍総理の提唱により、温暖化問題解決のためのイノベーションの促進に向けた世界の産学官のリーダーが議論するための「知のプラットフォーム」として、平成26年から毎年10月に東京で開催されています。

二国間クレジット制度(JCM)に関しては、日本は2011年から途上国と協議を行ってきており、これまでにモンゴル、バングラデシュ、エチオピア、ケニア、モルディブ、ベトナム、ラオス、インドネシア、コスタリカ、パラオ、カンボジア、メキシコ、サウジアラビア、チリ、ミャンマー、タイの16カ国と制度構築に合意しています。JCMプロジェクトの形成のため、NEDOによる実証事業、METI/NEDOによる実現可能性調査(FS)なども実施中であり、JBICやNEXIと連携したJCM特別金融スキームも創設しています。

COP21後の国内温暖化対策について

COP21における新たな国際枠組みに関する合意の状況を踏まえ、今春を目途に地球温暖化対策計画が策定される予定です。計画は、地球温暖化対策推進法に基づき、地球温暖化対策推進本部(本部長:内閣総理大臣、副本部長:内閣官房長官、経済産業大臣、環境大臣)が計画案を策定し、閣議決定されます。

また、地球温暖化対策計画への反映も念頭に、抜本的な排出削減が見込める革新的技術を特定した「エネルギー・環境イノベーション戦略」、エネルギーミックスの実現に向けた「エネルギー革新戦略」がとりまとめられます。

安倍総理は、COP21直後の地球温暖化対策推進本部(2015年12月22日)において、「我が国は、以下の3つの原則に沿って経済成長と地球温暖化対策を両立させ、国際社会を主導します。第1に、イノベーション。とくに、革新的技術による解決を追求すること。第2に、国内投資を促し、国際競争力を高めること。第3に、国民に広く知恵を求めること」と発言されています。

質疑応答

Q:

すでにEUとして目標が提出されていますが、今後、ASEANとして出すことも期待できるのでしょうか。

A:

パリ協定の条文上は、できる規定になっています(パリ協定4条16項以下)。条件などの詳細については、今後の議論に委ねられると思います。

Q:

これまでの技術革新は、どの程度CO₂排出削減に寄与しているのでしょうか。今後の進展の見通しを含めて、うかがいたいと思います。

A:

先進国がピークアウトに差し掛かり、よりグリーンな低炭素技術が強く意識されるようになったのは割と最近のことです。それが新興国・途上国に普及しグローバルに効果を上げていくのは、まだこれからという段階だと思います。ただし、インドの製鉄所に対して日本の鉄鋼連盟ぐるみでCO₂削減を極力減らす技術を移転し、相当な効果を生んでいるような事例もあります。

モデレータ:

IPCC第5次評価報告書において、これまでのイノベーションがCO₂削減にどれだけ貢献しているかということに関する記述があります。その取り組みに日本人はたくさん参画していますが、「科学・合理性の追求」という意味で、科学者の集まりであるIPCCによる活動は重要であり、これからも貢献を続けていくべきだと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。