理系女子・女性研究者を増やすために― 国立女性教育会館の取組から

開催日 2015年12月17日
スピーカー 内海 房子 (独立行政法人国立女性教育会館理事長)/漆 紫穂子 (品川女子学院校長)
コメンテータ 山口 一男 (RIETI 客員研究員/シカゴ大学ラルフ・ルイス記念特別社会学教授)
モデレータ 西垣 淳子 (RIETIコンサルティングフェロー/経済産業省商務情報政策局生活文化創造産業課長(クリエイティブ産業課長))
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“理系に進む女子が少ない”のはなぜか?小学校の理科や算数の成績に男女差はないといわれているにも関わらず、理工系(理学・工学)に進学するのは、男子26.8%に対し、女子は6.7%と大きな差が生じている。これは、我が国にとって大きな損失。個人にとっても将来への選択肢が狭まり何ともったいないことか。国立女性教育会館では理系に進む女子を応援する事業を実施している。その取組を紹介しながら、理系に進む女子を増やすにはどうしたらよいかを、みなさんと一緒に議論したい。

議事録

日本の男女共同参画の実態

内海 房子写真内海氏:
我が国で専攻分野別に見た学生(学部)の割合は、女子は相変わらず人文科学系が多いのですが、少しずつ社会科学にシフトしている傾向があります。農学、医学・歯学、薬学・看護学にそれほど男女差はありませんが、依然として理学(平成26年度の女子比率は26.4%)、工学(同12.9%)の女子は少ないのが現状です(男女共同参画白書,平成27年度版)。

IEAの調査によると、日本における男女の学力差は、小学4年生時点の数学(算数)と理科でほとんど差がありません。中学2年生では、若干男子の得点が高くなっているものの統計的な有意差はみられません。

しかし、本年4月11日の日経新聞の記事によると、各国の男女の教育格差に着目して行われた学習到達度調査(PISA)において、日本のみならず多くの国で学力に男女差が出ていることが示されました。OECDのマリ・キヴィニエミ事務次長は、これは生物学的な差ではなく環境に大きく左右されていると指摘しています。たしかに、本年11月に発表されたジェンダーギャップ指数をみると、男女平等度ランキングの上位国であるアイスランド、フィンランド、スウェーデンは、男子よりも女子のほうが数学の成績は優位となっています。

日本のジェンダーギャップ指数は、145カ国中101位(2015年)です。とくに低い経済分野は106位で、管理職に占める女性比率は116位という状況です。

教育分野をみると、日本も高校の進学率までは男女平等といえる状況ですが、4年制大学へ進む割合は、男女で10%の開きがあります。しかし国際的には、女性のほうが大学に進学している国が多いのです。

本務教員総数に占める女性の割合(平成26年度)は、小学校教諭では64.7%を占めるにもかかわらず、校長は19.1%に過ぎません。さらに中学校は教諭が43.0%に対し、校長は5.8%という低さです。このような環境で、そこで学ぶ生徒たちは男女平等の意識を持てるでしょうか。せめて女性校長の割合を3割程度に近づけるべきだと思います。

NWECの取り組み

国立女性教育会館(NWEC:ヌエック)は、1977(昭和52)年に文部省の附属機関として設立され、2001(平成13)年に独立行政法人化しました。我が国唯一の女性教育のナショナルセンターとして、女性教育指導者に対する研修、女性教育に関する専門的な調査・研究などの実施を通して女性教育の振興を図り、男女共同参画社会の形成を促進することをミッションとしています。

男女共同参画の推進のためには、女性センター、団体、学校、大学、企業、自治体が横断的に取り組む必要があります。NWECでは、各分野でこの問題に取り組むリーダーが一堂に会し、共通する課題を探り、問題解決につながるネットワークのあり方について考えるため、年1回、NWEC男女共同参画推進フォーラムを開催。最近では、大学などにおける男女共同参画推進をテーマとしたセミナーや、企業を成長に導く女性活躍促進セミナーも行っています。

女子中高生夏の学校は、女子中高生を対象に、科学技術の世界の楽しさの体験やいきいきと活躍する女性研究者との交流を通じ、理系進路選択の魅力を伝える2泊3日のプログラムです。身近な支援者でもある保護者・教員向けのプログラムも設定し、女子中学3年生と女子高校生112名、保護者・教員29名が参加しました。

女子大学生キャリアセミナーでは、女子大学生を対象として、職業をもつ楽しさ、経済的自立の精神、社会や組織のリーダーになる志などを伝えるキャリア開発研修を実施します。「キャリアを考えることは人生を考えること」をテーマに掲げ、27年度は来春2月に1泊2日で実施予定です。

日本の女性の活躍推進に歯止めをかけているのは何か?

内閣府「少子化社会に関する国際比較調査(2011年)」からもわかるように、日本は「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方が根強い国です。このような性別役割分担意識が、我が国の女性活躍を阻んできた原因だと思われます。優秀な人は男女同様にいるわけですから、極端に言えば、日本はその半分を捨てているようなものだと考えるべきでしょう。

日本の男性が家事・育児をする時間は国際的に少ないというのは、有名な話です。しかし、男女の意識に変化の兆しも見られます。平成23年度東京都男女雇用平等参画状況調査結果報告書によると、育児休業の取得希望は男性でも52.5%に上っています。最近多くなった保育園にお父さんが子どもを送る姿も、10年、20年前にはあまり見かけなかった風景でしょう。ただし、実際に育児休業を取得している男性は数%に留まるのが現状ですので、希望する人が実際に取得できるような職場風土、働き方への変革が求められます。

一般的に、女性は管理職になりたがらないと思われがちですが、情報処理推進機構IT人材本部「IT人材動向調査」(2011)では、「部下の人事評価権を持つ管理職に就きたいと思うか」との問いに対し、なりたいと答える割合は男女とも29%前後で大きな違いはありません。やはり技術職の男女平等といういい面が現われていると思います。

また、会社の意識も変わってきています。女性社員の活躍促進における重要な課題とダイバーシティ推進の課題(2013年度調査)をみると、2010年度調査と比較して、企業のダイバーシティの取り組みに大きな変化はありませんが、ダイバーシティを推進する上での課題として、2010年度に多かった「当事者自身(女性、外国人)の意識・能力」よりも「経営層の意識」や「勤務先の支援・サポート制度」を挙げるIT企業あるいはIT技術者が増加しています。

男女共同参画社会の実現を目指して

男女共同参画社会を実現するには、家庭生活や地域活動への男性の参加、また政策決定の場への女性の進出などの「相互乗り入れ」が必要です。そのためには、共働き世帯の夫の家事・育児時間がもっと増えなければ、その分、女性が働くことができません。

つまり、ヘルプではなくシェアという考え方が大切です。これまでは、たとえば会社や地域の自治会では男性が主で女性がヘルプする、あるいは家庭の仕事は女性が主で男性がヘルプするということが多かったと思います。しかし、そうではなく、男女が対等な構成員として主体的にかかわり、シェアするべきなのです。

日本の男性はこれまでヘルプもしていなかったのだから、ヘルプでも十分ではないかという人もいますが、それでは男女共同参画とはいえません。長い目でみたときに、女性が本当に活躍するためには、家庭的責任を夫と妻が分担することが重要だと思います。また職場では、ワークライフバランスの推進が不可欠といえます。長時間残業が当たり前の職場から、ワークライフバランスが当たり前の職場に変わっていかなければなりません。

女性の活用には、中間管理職が鍵を握っています。中間管理職は、伸びようとしている女性たちの足を引っ張るのではなく、迷っている女性たちの背中を押してあげて欲しいですし、女性たちは、自らの力に自信を持って未知の世界に挑戦していただきたいと思います。

人材育成には、「決めつけない」「期待して」「鍛える」という3つの「き」が必要です。女性だから管理職になりたくないだろうとか、育児休職から復帰したばかりで子育てとの両立が大変だから海外出張などは無理だろうとか、決めつけずに、まずはコミュニケーションをとってみてください。

誰でも、期待されることは頑張る原動力になります。過度な優しさはアダになると認識し、女性も鍛えていただきたいと思うのです。そして女性たちは、運命の出会いを生かし(Chance)、変化を恐れず(Change)、果敢に挑戦する(Challenge)という3つの「C」を、胸にしっかりとどめていただきたいと思います。

女性の活躍はジュニアの育成から

漆 紫穂子写真漆氏:
品川女子学院の校長として、中学受験を検討している保護者の皆さんには、いつも女性の就業率の年齢ごとの推移を表すM字カーブのグラフを見せてお話ししています。M字がへこみ始める28歳辺りは、結婚や第1子出産を機に仕事を休む女性が多いことを示しています。これまで日本では、教員も保護者も、この部分をあまり意識せず、男子と女子の進路指導をほとんど同じに行ってきたことが問題だったのではないかと感じています。

そこで私は今、女子生徒たちに2つのことを伝えています。「あなたたちは、これまでの女性が見たこともないような数多くの職種、ポジションで働けるラッキーな時代に社会へ出て行く。だから、そのための責任もある」と話す一方で、M字カーブを見せながら、こういう現状を引きずることもあると伝えます。結婚や出産で仕事を一度休んでしまうと、同じ働き方に戻れている割合は3割程度に留まっているのが現状です。

さらに、休職前と同じ働き方に戻れている女性は理系の研究者や専門職や資格職が多いことを示し、将来、家庭と仕事をどちらも諦めないで両立するには、専門性が必要なのだとしっかり伝えることで、文系に偏りがちであった進路選択も大きく変わってきました。

私たち世代の女性が諦めたことを、子どもたち世代にも諦めさせることは、子どもたち自身もかわいそうですが、これから人口の減る日本の中で、まさに半分の人材を活かしきれないことになると思います。

ですから本校の進路指導では、女子こそ学歴が大事であるけれども、それは単なる学校歴ではなく、こういう力をつけてきたという学習歴、専門性が必要だと言っています。その結果、数学が嫌いだから文系に進むという生徒は減り、指定校推薦の枠も学科がマッチしなければ一部しか埋まりません。それは、未来から逆算した進路指導の成果だと思っています。

生徒たちの頭の中には、いつも28歳というところが入っています。これを私たちは「28プロジェクト」と呼んでおり、生徒たちが28歳になったとき、子どもを産み育てて仕事をする。そのどちらも諦めずに済むために逆算し、今の中高生時代に何をすればいいかを考えていく教育です。

28歳というと、中高生にとってはずっと先のことですが、その手前のターニングポイントは高校1年生の秋です。日本の大学はまだ文系・理系に分かれていますので、文理選択をしますが、そこで一度選んでしまうと、変えるにはエネルギーが必要です。就職してから3分の1が3年以内に転職するという現状の中で、女性がそんなことをしていたら、20代、30代の安全に出産できるタイミングをロスしてしまうことになってしまいます。こうしたことを本校では、中学生の頃から徹底して伝えています。

子どもたちにとって、今の学校の勉強が社会とどうつながっているか、将来にどうつながっているかは理解しにくいです。自分の親の仕事を聞かれても、会社名は言えても仕事内容は言えないという子はたくさんいます。そういう中で、ただ数学を勉強しろと言っても、定期試験のためには頑張れないわけです。そこで本校では、なるべく学校の外の社会と生徒たちをつなぐ取り組みをしています。

中学3年生では、さまざまな企業の力を借り、できるだけ28歳前後の女性社員に担当していただき、約1年間かけて、商品開発や女性が働きやすい職場の提案といったリアルな体験をしていきます。昨年度は、キューピーと女子中高生の朝食離れを防ぐソースの開発に取り組み、「パンで焼きたてアップルパイ風」というジャムのような商品を発売、すでに完売となりました。

こうした体験を通して、一番効果があるのはロールモデルに出会うことだと思います。国立教育女性会館の夏の合宿では、中高生が理系の働く女性や大学生と生活をともにすることで、「こういう仕事をしているお姉さんたちは、こんな学生時代を過ごしていたのだ」ということが、リアルに結びつくわけです。未来の仕事から逆算して、自分が何に向いていて、社会とどのようにかかわっていくのかという意識を中高生時代から持つことで、生徒たちの日々のモチベーションも変わっていくことを実感しています。

また、社会解決型のコラボをするために、デザイン思考という学習を中学3年生から行っています。一言でいえば、身近な課題を発見し、それを解決するようなデザインや企画を考え、それを皆でシェアして解決の一歩を踏み出します。その中で、ブレインストーミング、ファシリテーョン、プロトタイピング、プレゼンテーションといった力が磨かれていきます。

これまでの学校では、先生が与えた問題を素早く正確に解く力が大切でしたが、これからの子どもたちは、自分から問題を発見して皆にそれを伝え、自分たちの力で最適解を導き出していかなければなりません。今の子どもたちはインターネットで知恵をシェアしていますので、集合知の時代だということを感じています。

高校生になると、文化祭を利用して起業体験プログラムを行っています。将来、親の知らない仕事に就く子どもたちに対し、起業というのも女性が活躍する1つの大きなチャンスだということを伝えているわけです。

希望する生徒には企業や専門家による特別講座も行っており、こうした「28プロジェクト」の成果として、本校生徒の進学する学部・学科は非常に多岐にわたっています。ここ10年の変化として、理系進学先のうち医療・看護系の比率が減り、理工系が増えています。これまで理系というと医師や薬剤師といった資格職しか知らなかった状況から、職種の幅が広がり、難関大学にもチャレンジするようになりました。

コメンテータ:
江戸時代のリケジョたちは、野中婉(えん)をはじめ医療関係での活躍者が目立ちます。しかし現在の日本は、医者の女性割合(OECD統計,2011)では最下位となっています。世界では女性医師が活躍しているにもかかわらず、我が国では伝統があるにもかかわらず活躍している女性が非常に少ないわけです。

内海理事長のお話の中に、男女の数学能力差は社会環境の影響という指摘がありました。米国などでは、ステレオタイプ論、ロールモデル欠落論、理数系職業機会の男女の違いによるdiscouragement論などがありますが、日本でも、どのような社会環境要因が男女の理数系の成績差を生んできたのかという実証研究が今後重要になると思います。

関連事実として、男女の不平等度と男女の数学成績差には強い相関があります。Gender Gap Indexのトップ4国と男女の数学成績差のない(少ない)4国は完全に一致しており、女性の活躍の進んでいる国ほど、国際数学オリンピックでも女性代表の割合が多いという状況があります。

日本では、教育分野に女性が進出するものの、管理職や地位の高い教員は男性に大きく偏っています(労働力全体でも同じ傾向)。教育の管理職部門(意思決定)への女性の進出はまだ少なく、女性の活躍を推進する上でも大きなハンディキャップになっていると思います。

日本の学問・研究者の男女共同参画は、他国に比べて著しく遅れています。国際競争力の維持・強化には、性別を問わず多様性が必要ですが、たとえば米国への欧州、中国、韓国からの大学院留学生は男女の人数差が少ないのに対し、日本はまだ男性がはるかに多い状況です。その理由の1つは、官庁派遣・企業派遣留学生の大多数が男性のためです。日本でも、女性の活躍を推進する姿勢はみられ、時代は変わりつつあるのですが、まだ遅々としていることが問題といえるでしょう。

品川女子学院における「28プロジェクト」の取り組みの結果、進学先の分布は素晴らしいと思います。たとえば経産省の「ダイバーシティ百選」のように、女性の進学先の多様性を尺度として、理系に限らず多様な進学先を実現している高校に対し、文部省が表彰できないものでしょうか。女子生徒たちがそのような高校があることを知り、好循環を生んでいくことが予想されます。

教育におけるいわゆるcritical thinking(たとえば文学で与えられた事実と異なる状況の想像をすることで、与えられた事実の特殊性を認識すること)とデザイン思考(今までにないものの創出を考えること)は、根底で結びついています。日本の国語教育は、「共感学習(著者や主人公への共感力をつけること)」が強調されていますが、米国の文学教育では状況・物語の分析に重点を置くという違いがあります。

日本の教育は、空気を読む能力や人間関係の適応力はつくかもしれませんが、イノベーションに結びつくような能力は育ちません。市場で評価されるイノベーションは、文系・理系の知識が結びつくことで生まれることが多いわけですが、中等教育における品川女子学院の取り組みなどを参考にしながら、理系・文系の融合を過去のような方法論に欠けたビジョンだけの「総合教育」ではなく、子どもたちの問題の分析・発見・解決能力や創出力を育成するための教育方法論の問題として実証研究し、実効性ある方法を行っていく必要があると考えています。

質疑応答

Q:

前時代の考え方で育ってきた中間管理職が現場にいる中で、働き方や学び方の変革をしていくためには、どうすればいいとお考えでしょうか。

内海氏:

働き方を変えることによって意識が変わり、意識が変わることによって働き方が変わるという好循環をつくっていくことが重要だと思います。意識を変えるには時間がかかりますので、男女共同参画という形から入ることで、周囲の意識が変わることを期待しているところです。

漆氏:

本校の保護者や教員で、女性が外に出ず家庭を守るべきと思っている人はいないと思います。それはなぜかというと、生徒や卒業生が教えてくれているためです。大手メーカーの半導体部門で働く卒業生は、最終の採用試験で30人残り、うち29人が国立難関レベルの大学院卒であった中、自分だけがMARCHの学部卒だったそうです。それでも結局、合格しました。そういう可能性を卒業生や生徒が見せてくれることで、保護者や教員の目が開かれてきました。

本校における具体的な取り組み方としては、まずは希望者のみ5~10人の理系特別講座を行い、成果が積み上がるのを見て、定着していったという順番でした。ですから私は、まず自分のできる身近なことをやってモデルをつくり、それを見れば皆がわかっていくと思っています。

コメンテータ:

米国でも、かつて女性管理職が少なかった時期に、やはり中間管理職が保守的だという問題が指摘されていました。そこでまず、すでに活躍しているロールモデルとなる女性が若手にアドバイスするメンターシップの体制を組織内でつくりました。もう1つは、中間管理層の評価基準に、実効的なダイバーシティの推進を加えました。トップのコミットメントのもとで、粘土層といわれる中間管理層を変えていくことが重要だと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。