JOGMECの海洋資源開発への取り組みについて

開催日 2012年9月21日
スピーカー 古幡 哲也 (石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)総務部総務課長)
モデレータ 萩原 崇弘 (経済産業省 資源エネルギー庁 資源・燃料部政策課 企画官(資源開発・鉱業法担当))
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開催案内/講演概要

日本の排他的経済水域の拡大が国連により認められるなど、我が国の海洋開発、特に海洋エネルギー・資源開発についての期待感が非常に高まっている。平成25年度からの新たな「海洋基本計画」策定に向けた検討も総合海洋政策本部において進められ、経団連も7月17日に「新たな海洋基本計画に向けた提言」を取りまとめ発表したところ。

JOGMECは国の定める「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」(平成21年3月)に則り、石油・天然ガスやメタンハイドレート、海底熱水鉱床、コバルトリッチクラスト、マンガン団塊の商業化を目指し、調査や技術開発を行っている。その最新状況と今後の展望についてご紹介する。

議事録

厳しさを増す我が国のエネルギー資源事情

古幡 哲也写真JOGMECは、これまで我が国企業による資源の獲得および備蓄、鉱害防止支援といった業務に取り組んできましたが、本年9月15日に施行された法律改正によって、さらに石炭開発と地熱開発の業務にかかわる出資・債務保証、助成金交付、石炭開発・地熱開発関連の調査、研修実施(石炭)にも取り組むこととなりました。

ご存知のように我が国のエネルギー自給率は低く、原油の99.6%、天然ガスの96.3%は輸入に頼っている状況です(出所:資源エネルギー庁エネルギーバランス表2010年度)。また原子力発電所の稼働停止等に伴って輸入額は伸びており、原油は2010年度9.4兆円から2011年度11.4兆円、天然ガス(LNG)は同3.5兆円から4.8兆円に増加しています(出所:日本貿易会)。

この輸入額の増加によって、2011年度の貿易収支は31年ぶりに赤字を記録しました。そして石油・天然ガスをめぐる世界の事情も予断を許さない状況となっています。世界全体の8割程度の石油資源が産油国のNOC(国営石油会社)によってコントロールされ、中東をはじめとする産油国は自ら石油・天然ガスを開発する技術を高め、自前で生産できる会社も増えてきています。そのため、日本企業を含めた民間石油会社がアクセスできる石油資源は、かなり限定的になっている実態があります。

中国等は、アフリカ・南米等への「政経融合型トップダウン資源外交」を上手に進めながら資源を確保しています。日本では現在「エネルギー基本計画」の検討を進めており、我が国企業による自主開発の原油・天然ガス確保量が定められる見通しとなっています。

資源開発企業の規模比較

2011年度のデータを比較すると、石油の海外メジャーといわれる企業は年間約1~2.5兆円の巨額な炭鉱開発費を投入していますが、上流部門純利益では多少の増減も見られます。その中で、注目すべきは中国国営のペトロチャイナでしょう。同社はエクソンモービルと並んで約2兆円の開発費を投入し、2.7兆円程度の純利益を確保しています。一方、日本企業の事業規模は小さく、非常に厳しい競争環境にあります(為替レートは79.8円/ドル、6.46元/ドルで換算)。

金属鉱物資源の安定供給も、我が国の経済活動や社会生活を支えるために重要です。過去の計画では、資源自給率の目標をベースメタル80%、レアメタル50%としていましたが、現在、政府で見直しがおこなわれています。金属資源も石油・天然ガス同様、非常に厳しい環境にありますが、とくに3つのリスクとして「新興国を中心とする資源需要の増大と価格の高騰」、「資源国政策による供給削減や供給途絶」、「資源メジャーと我が国資源企業の財務の脆弱性」が挙げられます。BHP BillitonやVale、Rio Tintoといった金属資源の海外メジャーにおける莫大な投資額や純利益に比べ、日本企業の事業規模はやはり小さいといえます。

海洋資源政策をめぐる最近の動向

我が国を取り巻く海洋あるいは経済水域内には、さまざまな資源が存在することが明らかになっています。そして貿易収支への影響や安定的な資源の国内供給といった観点から、海洋資源の開発に向けた期待が高まっています。

平成21年3月に策定された海洋エネルギー・鉱物資源開発計画に基づき、JOGMECは海底熱水鉱床やメタンハイドレートの調査・技術開発を進めてきました。本年4月には、大陸棚延長の申請を認可する国連の勧告を受領し、日本の排他的経済水域の面積は世界第6位に拡大しました。現在、総合海洋政策本部による海洋政策の見直しが進められており、平成25年には海洋基本計画が改定される予定です。海洋資源の開発促進に向け、国内の期待が高まっています。

新海洋資源調査船「白嶺」は、総トン数6200トン、全長118m、航続距離約9000マイル、航海速度15.5ノットの世界最新鋭の調査船です。本年2月に就航後、沖縄海域や小笠原海域等において、船上設置型ボーリングマシンや海底着座型ボーリングマシンといった大型調査機器を用いた海底鉱物資源の賦存量調査を実施しています。

深海底鉱物資源の調査

海底熱水鉱床は水深700~2000mにあり、銅1~3%(陸上では1~2%)、鉛0.1~0.3%(同1~2%)、亜鉛30~55%(同3~7%)の他、金、銀、レアメタルを含んでいる場合もあります。マンガン団塊は、マンガン28%(陸上では40~50%)、銅1%、(同0.5~1%)、ニッケル1.3%(同0.4~1%)、コバルト0.3%(同0.1%)の他、レアメタルも含んでおり、水深4000~6000mの大洋底と呼ばれるエリアに存在しています。

コバルト・リッチ・クラストは、水深800~2400mの中部太平洋地域に多い海山と呼ばれるエリアに存在し、マンガン25%、銅0.1%、ニッケル0.5%、コバルト0.9%、白金0.5ppmの他、レアメタルやレアアース元素を含んでいる場合もあります。

メタンハイドレートについては、本年2月に世界初となる海洋産出試験の準備に着手しました。2013年1~3月にかけ、減圧法によって海底下に存在するメタンハイドレートの産出を目指しています。メタンハイドレートは、メタンガスと水が低温・高圧の状態で結晶化した氷状の固体物質で、火を近づけるとメタンが燃えて水が残ります。メタンハイドレート1㎥には、160~170倍の体積のメタンガスが含まれています。

メタンガス(天然ガスの主成分)は、石油や石炭に比べ燃焼時の二酸化炭素排出量が少なく、大水深海底下や極地凍土層下の地層に広く存在しています。日本でも、東部南海トラフ海域に大規模な賦存が推定され、将来のクリーンエネルギー資源として期待されています。ただし、従来型の石油・天然ガスと異なり井戸を掘っても自噴しないため、新たな生産技術の開発が必要とされており、今年度、産出試験をおこなう予定です。

メタンハイドレートの陸上実証実験

これまでに陸上でおこなってきた実証実験として、2008年3月、カナダ北西部の永久凍土の地下約1100mに存在するハイドレート層から、世界で初めて減圧法を利用してメタンガスを産出することに成功しました。これは、カナダ天然資源省との共同でおこないました。

2011年4月から今年にかけては、ConocoPhilips(米国)が実施するアラスカの永久凍土下のメタンハイドレート層にCO₂を圧入し、ガスを回収するCO₂置換ガス回収実証実験にJOGMECも参加しました。このプロジェクトには、米国エネルギー省も出資者として参加しています。

メタンハイドレートの減圧法による生産メカニズムとして、水を汲み上げて坑井の圧力を下げ、ハイドレートを分解していきます。そして地熱が伝播することによって、分解がさらに促進します。

メタンハイドレートの開発計画は現在、フェーズ2として生産技術等の研究実証(平成21~27年度)の段階にあります。平成24年度からは海洋産出試験を開始し、生産の実証試験や生産時の地層変化や海中メタン濃度、周辺環境への影響等の評価をおこなっていきます。その後、フェーズ3として商業化の実現に向けた技術整備(平成28~30年度)では、技術課題、経済性評価、周辺環境への影響に関する調査といった総合的検証を実施する計画となっています。また全期間を通し、我が国周辺の賦存海域・賦存量の把握、生産性と回収率を向上させるための掘削システム等の検討を並行して進めていく方針です。

三次元物理探査船「資源」による調査

三次元物理探査船「資源」は平成20年2月に導入され、3月から日本周辺海域の石油・天然ガス資源にかかわる地質情報を効率的・機動的に収集しています。エアガンで弾性波を発生させ、地層面からの反射波を受振して海底下の地質構造を調査しますが、1日に平均500ギガバイト程度のデータが収録され、搭載された大型コンピューターでデータの処理がおこなわれています。「資源」は、総トン数1万395トン、全長86.2mで、三角形の面白い形をしています。

海洋三次元物理探査では、複数のストリーマーケーブルを曳航し、地下の情報を同時にとらえることによって海底面直下の立体構造的な構造を正確に把握することができます。この「資源」の三次元物理探査結果によって発見された新潟県佐渡南西沖の地質構造において、石油・天然ガスの賦存状況の確認を目的とした試掘調査が平成25年春に実施されることになっています。これは資源エネルギー庁からJX日鉱日石開発への委託事業となっています。ぜひ、石油・天然ガスが見つかることを期待したいと思います。

日本では、海洋エネルギー・鉱物資源開発計画に基づく平成30年までの取り組みとして、二次元基礎物理探査(三次元物理探査のための広域調査)によって調査海域を絞り込んだ後、三次元基礎物理探査を実施して試錐地点を検討し、基礎試錐につなげています。そして最終的には、民間の石油・天然ガス開発企業による探鉱・開発を促進していくことを最大の目的としています。

日本の海洋資源の産業化に向けて

海洋資源の産業化には、在来型の石油・天然ガス、非在来型の石油・天然ガス(メタンハイドレート)、金属鉱物・レアアースで、それぞれ段階が異なります。

まず在来型の石油・天然ガスに関しては、すでに世界中の石油開発会社・商社・掘削会社等が参加していて、石油開発会社や商社は油ガス田権益を確保しています。他にも浮体構造物やパイプラインの敷設をはじめ、さまざまな機器を納入する関連企業があります。

非在来型の石油・天然ガス(メタンハイドレート)は、まだ試験的な掘削・操業の段階であり、産業界の関与は限定的です。JOGMECで進めている試験に関しても、日本企業の協力を得ていますが、商業ベースで投資が始まっているわけではありません。

金属鉱物・レアアースに関しては、とくに鉱山会社は関与しておらず、産業界の関与はさらに限定的な状況です。まず日本のEEZ(排他的経済水域)に埋蔵されているエリア・量を特定するところから始めなければなりません。そして生産技術の研究開発、コストの大幅改善を実現した後、企業の参入を促進するというプロセスが必要です。

海洋資源開発が産業化するには、資源開発企業の投資と収益が継続する必要があります。そのためには、まず安定的な生産手法を確立し、技術評価を確認しながら技術開発を前倒しで進めていかなければなりません。また大幅なコスト削減による経済性の向上、企業がリスク投資に応じられるような事業の枠組み構築が求められます。

世界の海洋石油・天然ガス開発技術は、北海で生まれ、メキシコ湾で育ち、ブラジル沖深海で成熟してきています。そのため従来の海洋資源開発は、日本の技術ではなく海外の技術に頼らざるを得なかった背景があります。しかし、メタンハイドレートや熱水鉱床等、非在来型の新しい資源開発分野では、日本のEEZ内にパイロット的フィールドが存在しています。今後、我が国企業が新しい海洋資源開発分野に積極的に取り組み、海洋産業そのものが成長することを期待しています。

JOGMECとしては、海洋分野に限らず資源開発に関連した技術課題解決のため、日本企業の有する広範な技術を結集し、海外の国営資源会社を含めた新しいコラボレーション(共同的取り組み)を模索しています。

世界の国際石油会社や国営石油会社は、油ガス田の操業にさまざまな障害・問題を抱えています。そして、日本の先端的なIT、ロボット、バイオ、環境技術、センサーといった、資源の開発に直接関係するとは思えない技術に対して、産資源国での意外なニーズが散見されています。たとえばメキシコでは、石油生産に伴う随伴水の処理に日本企業の技術が導入される見込みです。今後も、視点を広げた技術のマッチングを推進するために、さまざまな企業との対話を拡大していきたいと考えています。

質疑応答

Q:

メタンハイドレートに関して、カナダやアラスカでの開発状況や今後の見通しについて、もう少し詳しくお聞きしたいと思います。また、メタンハイドレートが日本海側に多く賦存していることについて、どうお考えでしょうか。

A:

カナダとアラスカの実験では、CO₂を圧入する置換法のほうが効率的という結果が出たと聞いています。来年2月には、JAMSTECの地球深部探査船「ちきゅう」を主に利用し、減圧法で2週間程度にわたって継続的に生産する実験がおこなわれる予定です。

実際に日本海側ではなく、太平洋側を候補地とした背景ですが、基礎物理探査の結果、BSRの中から濃集帯が認められ、もっとも掘削しやすいといった観点も含め、予算制約の下で複数の候補地の中からメタンハイドレート開発実施検討会によって決定されたのが太平洋側の東部南海トラフ海域でした。日本海側の表層型のメタンハイドレートに関しては、状況は承知しています。現在は、日本海側の自治体の方々が調査を進める動きも出てきているようです。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。