Facebook、Twitter等ソーシャルメディア・スマートフォン時代のLean Startupと日本の変化

開催日 2011年10月12日
スピーカー 赤羽 雄二 (ブレークスルーパートナーズ株式会社 マネージングディレクター)
モデレータ 進藤 秀夫 (経済産業省 業技術環境局 大学連携推進課長)
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開催案内/講演概要

Facebookユーザーが世界で8億人を超え、国内でも月間アクティブユーザーが500万人を超えました。Twitterも、ツイート数が世界一です。さらにAndroid携帯が昨年来急速に普及していることは言うまでもありません。auがiPhoneをまもなく発売開始することで、電波がつながりにくかった地方でのiPhoneユーザーが爆発的に伸びます。

さらにはクラウドの普及、App Store、Android Market等の普及、開発環境の整備等により、サービスの立ち上げが非常に容易になりました。サービスを立ち上げて順調であれば起業する、といった考え方も珍しくなくなってきました。学生の起業も、20~30代の起業も頻繁に見られます。

今回のBBLセミナーでは、世界的なLean Startupの動向と日本人の意識変化、起業への取り組みの変化についてお話しします。

議事録

ソーシャルメディア・スマートフォン全盛時代

赤羽 雄二写真世界中の人々がインターネットを通じてつながっています。iPhoneやAndroid、Facebook、Twitterなどで、多くの人が相互にコミュニケーションできる時代となりました。FacebookのMAU(月間アクティブユーザー)は現在、8億人を超えています。登録ユーザー総数ではなく、過去30日間にFacebookを使ったユーザー数です。

世界では爆発的にFacebookが広がり、Facebookをコミュニケーション手段として、弾圧されていた民衆が立ち上がり、革命が起きた国もあります。日本においても、Facebookは急速に浸透しつつあり、数カ月前にMAUは500万人を突破しました。またスマートフォンのGPS機能を使ったfoursquareは、チェックインすると自分の位置情報がSNSでネット上に登録され友人に公開されるというもので、こちらもアクセス数が伸びています。来年の上場が見込まれるFacebookの時価総額は、最低でも10兆円はある模様です。

注目すべきウェブサービス・アプリケーション

ソーシャルメディア、スマートフォンのアプリ・サービスの動向を知る上で、いくつかの注目すべきアプリケーションを紹介します。

Flixsterは、登録すると50の映画が提示され、見たか見ていないか、見たとしたら好みがどうかをインプットすることにより確度の高いリコメンデーションをしてくれるサービスです。GetGlueも同様に、多数のアーティストに対する好みを登録することにより自分の好みにあったアーティストをサジェストしてくれます。GravityはTwitterのつぶやきから、関心事が何か分析してくれます。LikeALittleは、大学のキャンパスごとに、気になる異性に関して匿名でコメントするというもので、米国の大学ではFacebookを越す人気を博しています。ユーザーが少数でも楽しいコミュニティができ、急速にサービスが立ち上がる、という点でサービス企画上重要な示唆があります。各大学のキャンパスでのサービス開始をじらすことで、学生運営での事務局を整備するとともに、サービス開始時にはユーザーが殺到します。paper.liは、Twitterのタイムラインを1日単位で編集し、投稿されたテキスト、写真などを新聞風のレイアウトに並べて見やすく表示してくれるサービスです。中国語圏や華僑の多い地域で大ヒットしているのが今年始まったソーシャルプリクラ、Snapeeeです。特に広告をせずに50万ダウンロードを達成しています。日本のコンテンツを活かしたベンチャーという点では、この他、漫画、アニメ、萌えなどが考えられ、これらもやり方次第では今後のキラーコンテンツになりうると見ています。

10~20年に一度の大変革期

私は今、10~20年に1度の大きな事業機会が訪れていると考えています。ご存知の通り、DeNAやGREEは現在スマートフォンのソーシャルアプリの開発にたいへん力を入れていますが、その元となったのが、フィーチャーフォン(従来タイプの多機能携帯電話、いわゆる「ガラケー」)のソーシャルアプリのヒットです。「怪盗ロワイヤル」に始まり、各社に数百億円の利益をもたらしました。その画期的な利益をもたらしたソーシャルアプリがスマートフォンでも同様の売上・利益をあげる可能性が高くなってきました。携帯ショップで普通に機種変更をすれば、Androidを購入することになりますし、auがiPhone販売を開始したことも、そうした傾向を後押ししています。

既存のサービスも、今後はすべてIT化・ソーシャル化が進みます。Facebook、Twitter、あるいはmixi等との連携、フル活用は当然のこととして、通常の通販やネットスーパーに加え、今後は、家賃からレジャー、食事、食品、服……など現金やクレジットカードで支払われていたもののかなりがIT化され、ソーシャル化されます。ソーシャルコマースの売上げは、2015年までに世界全体で6倍に増えるといわれています。また、Grouponに代表されるオンライン・ツー・オフライン(O2O)も注目され、米国だけで80兆円の地域消費のかなりの部分がオンラインに移り始めると見られています。日本では、Lococom(ロココム)、ジモティーという会社がすでに活動を始めています。

このようなビジネスチャンスは、ソーシャルメディアだけでなく、コミュニケーション、ネットワーキング、マーケティング、リコメンデーション、ソーシャルゲーム、電子書籍、動画、TV等すべてに渡ります。FacebookやTwitterの発展とiPhone、Androidの世界規模での普及により、今後すべてが変わっていきます。

イノベーションを加速する、世界と国内の動き

米国では、PayPal創業者が24人の天才少年少女に、2年間の学校休学を条件として、1人当たり800万円の起業を全面支援しています。専門家を多数動員して、起業を支援します。その是非の議論もあるとは思いますが、イノベーションを加速する方向であることは間違いありません。

新サービス開発ベンチャーへの少額投資も急激に伸びています。いずれも、スマートフォンに着目しています。スマートフォンの伸び、ソーシャルメディアの発展、クラウドの普及、開発環境の整備等から、費用をあまりかけず急速にベンチャーを立ち上げる"Lean Startup"というアプローチがかなり普及してきました。

シリコンバレーの「スーパーエンジェル」ロン・コンウェイ氏は、Google、Facebook、Twitter、PayPal……など、今、脚光を浴びている多くの企業に最初から投資してきた人物です。現在でも毎日5社、1週間で25社と面接し、そのうち1社に投資、年間で50社への投資を行っています。ユニークな点は、ビジネスプランではなく、デモを見て決定していることです。

Y Combinatorは、2005年以降、300社以上に出資し、1社平均150万円という比較的少額の資金提供ですが、ネットワーキング、起業環境を含め非常に効果的なサポートをして成功確率を上げています。現在のLean Startupとシリコンバレーの隆盛にはY Combinatorの貢献がかなり大きいと考えられます。また、1社当たりの投資額が800~2000万円で、オフィスも提供する500 Startupsという少額投資VC、インキュベータも注目されています。ここ数年、シリコンバレーにはこのような会社が増え、ソーシャルメディア・スマートフォンビジネスを後押ししています。2000年前後にも同じような動きがありましたが、今回が大きく異なる点は、少額投資であること、評価額等はあまりバブルになっていないこと、開発・リリースまでが非常に短期間であることなどです。

日本でも同様の動きが一部で始まっています。サムライインキュベートやネットエイジ、孫泰蔵氏、インキュベートファンド等が、活動しています。200~400万円であれば、かなり短期間に投資が決定されます。

このような大きな変化には、先ほど申し上げたLean Startupという起業形態の影響が大きいと考えられます。「元手をあまりかけずに、ヒットしそうなアプリ・サービスを短期間に立ち上げる」という新しい起業の形は、従来とは大きく異なります。ユニークなアプリやゲームを企画できる人材と優秀なプログラマーさえいれば、1~2カ月足らずで制作し、全世界に提供できる。ユーザーに感動を与えるアプリ・サービスであれば、口コミで数万~数十万人に広がり、爆発的に伸びていきます。そうなれば広告費収入もある程度期待できますし、収益モデルのオプションが拡がります。ソーシャルメディア、スマートフォンの発展で、独創性のある面白いサービス、楽しいサービス、良いサービスを作れば全世界を相手に勝負ができる、という点が、従来との大きな違いです。

Facebookの場合は、2004年にマーク・ザッカーバーグ氏1人が数週間で作り上げました。その前の「フェイスマッシュ」にいたっては、映画では一晩で開発したと言われています。費用も、数百万円以内、あるいは数十万円程度の場合もあります。こうしたアプローチは4~5年ほど前から急激に一般化しており、日本でも今年に入って非常に多くの学生や社会人が取り組み始めました。Lean Startupが可能となった背景には、安くて使いやすいクラウドの登場があります。iPhone、Androidの普及、およびアプリ・サービスがAPIを公開して、プラットフォーム化している点もあげられます。また、開発者の視点で言うと、自分が作らないと誰かが作ってしまう、という状況があります。

FacebookやTwitterは、東日本大震災後、公共機関の運行、地震・原発速報、あるいは救援情報等に関して、「情報ライフライン」の役割を担いました。携帯電話は地震の瞬間から使えなくなり、携帯メールも数時間以上の遅延が出て使いものになりませんでした。一方、Facebook、Twitterは緊急の連絡を確実にできたため、多くのユーザーが使い慣れました。この結果、優れたアプリ・サービスなどについてもすぐツイートし、リツイートされる(受け取ったツイートをさらに拡散すること)ことが当たり前になりました。つまり、注目を集めれば一瞬で何万人に広まるインフラができたということになります。スピード感あるサービス・事業展開により、ベンチャーの資金調達も少額であれば大幅に容易になりました。人材も殺到しています。

この動きをさらに加速すべく、今年7月~9月には世界を目指したアプリ・サービス開発を目的として、学生エンジニア対象の「ブレークスルーキャンプ」を開催しました。日本マイクロソフトさん他の協賛も得て、開発オフィス・宿泊場所を2カ月間無料で提供し、地方からの交通費一往復分も提供しました。食費補助も1人あたり月1~2万円提供し、学生エンジニアの参加を促しました。予想を上回る49チーム、160名の応募で、23チーム100名が参加した非常に活発な活動となりました。毎週木曜日夜には、FacebookのJapan Country Managerの児玉太郎氏や孫泰蔵氏、セカイカメラで有名な頓智ドットの井口尊仁氏も来てくださり、心温まる応援をいただきました。高校生も数名合宿に参加しており、決勝で2位を獲得したのは高校生チームでした。こういう若い芽が日本でもすでに育ってきています。

ITに加え、クリーンテクノロジー分野への関心も高まっています。7月には「グリーンベンチャーサミット」を開催し、100名ほどが参加しました。また、「自然エネルギーで行こう!」という、太陽光・太陽熱、風力などによる自然エネルギーの普及を促進するグループのイベントには、二百数十名が集いました。Facebookからは、こうした催しへの招待状が毎週数通届きます。カンファレンス会場を提供してくれる会社も多数あり、開催費用は殆どが無料で、多くの参加者が集まってきています。

日本の展望のために

日本も少しだけシリコンバレーに近づきました。ITベンチャーの壁もかなり低くなりました。ただ、日本にもう少し足りないものがあります。まず、1社に5~10億円以上を投資するベンチャーキャピタル(VC)がほとんどありません。大企業から独立する技術者も少数です。ベンチャーから製品・サービスを積極的に購入する企業や、ベンチャーを買収する中堅・大企業も少数派です。リスクを取ってチャレンジする人を応援する文化はまだまだ強くなく、官公庁もベンチャーへの特別支援ができにくい状況です。したがって、ITベンチャーはまだしも、クリーンテクノロジーやハードウェア・新材料ベンチャーの発展はまだまだこれからです。

私が本日お伝えしたかったのは、ソーシャルメディア、スマートフォン、Lean Startupの発展により、世界が今、大きく変わろうとしているということです。その対象は、IT系だけに限らず、あらゆる分野で大きな変化が起きます。今すぐに積極的に動かないと、国内で何とか築いてきた収益ベースもずたずたになってしまうリスクも大きくなってきました。

FacebookやGoogleが誕生して急成長した時のように、無数に湧き出る超小型・超高速ベンチャーが1~2年で数千倍に成長するのを傍観することになります。様子見をしているうちに、到底追いつけないほど先に行かれてしまいます。ガラケーの時代とは違い、海外の無数の起業家がスマートフォンベースで乱入し、なだれ込んできます。自分がやらなければ、誰かがやってしまう、ビジネスの競争原理さえ変えてしまう、という状況にあります。

まずは、立ち上がって、皆さんの目でこの変化を見てください。何が起きているかわかったら、すぐ行動に移しましょう。他の人にも伝えてください。ぜひ一緒に変化をリードしていきましょう。我々が最先端でいるためには、最低限の情報武装が必要です。勉強会、セミナー、企画イベントなども春以降、毎週数回開かれています。ぜひ参加してみてください。きっと驚かれると思います。

質疑応答

Q:

「日本にはもう少し足りないものがある」ということで、ベンチャーから積極的に購入する企業が少ないと言われました。とはいえ、日本では実績の無い会社からの調達はなかなか難しいのが現実です。ところで、シリコンバレーや海外の企業は積極的にベンチャーからも商品やサービスを調達していますか。もしそうだとすれば、企業構造の何が日本と海外で違うのでしょうか。

A:

日本の大企業の大半は、かなり官僚的でリスクヘッジ志向が強いので、自分からなかなか動かないし、動くにしても購買までのプロセスが非常に長くなる傾向があります。一方、欧米、少なくとも米国では、良いものであれば早期に決定されます。実績がない場合も、製品・サービスの質が高ければ十分購入につながります。この点での日本のベンチャー環境を改善するため、政府購買の5%を創業5年以内の企業からにするなどを、総務省と経済産業省にお願いしたこともありました。政府への販売実績があれば、ベンチャーにとって実績になり、大企業とのビジネスも飛躍的にやりやすくなります。

Q:

「ベンチャーキャピタル(VC)やエンジェル投資家が少ない」という点に関しては、政府は何をすべきでしょうか。産業革新機構のマッチングファンドは99年にできましたが、その後、ベンチャーブームが去ってから、動きが鈍くなっているようです。これらを使って、次に何ができるでしょうか。

A:

米国の場合、年金等の機関投資家からVCに相当量の資金が投資されますが、日本の場合はそうではありません。ぜひお願いしたいのは、たとえばVCが50億円集めたら同額を政府から出資して100億円にする、あるいはVCが5000万円出資したら同額をベンチャーに出資して1億円にする、という形で政府がマッチングファンドを提供することです。投資判断は民間企業のVCが全力で行い、質を上げますが、資金補助によってリスクを下げることで、より多くの方がVCに参入する、あるいは積極的に投資するという状況を作っていただければと思います。

産業革新機構に関しても、たいへん期待していたのですが、ファンド・オブ・ファンズは基本的にやらない、アーリー段階は対象外とするなど、方針が途中で変わったことが残念です。元の方針に戻して、ファンド・オブ・ファンズをやっていただきたいし、アーリーにもどんどん出していただきたいと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。