TAMA協会に見る産業クラスターの新展開と海外展開事業

開催日 2010年8月13日
スピーカー 岡崎 英人 ((社)首都圏産業活性化協会(TAMA協会)事務局長)
コメンテータ 渋谷 浩 (経済産業省 経済産業政策局 地域経済産業グループ地域技術課長)/ 原山 優子 (東北大学大学院工学研究科教授/研究・技術計画学会)
モデレータ 児玉 俊洋 (日本政策金融公庫 特別参与)
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議事録

産業クラスター政策の概要

コメンテータ(渋谷氏):
産業クラスター政策とは、技術・人・ビジネスの融合を通じて、イノベーションを持続的に生み出す環境づくりを意味します。平成13~21年度の「産業クラスター計画」のもと、全国で18のプロジェクトが立ち上げられました。中堅中小企業約1万社、大学290校をはじめ多くの参加者を得てクラスターを盛り上げてきました。22年度は各クラスターの自律に向けた移行期として、(1)国際競争力のある先導的クラスターと地域活性化に貢献する地域主導型クラスターとのニ類型化、(2)海外展開、(3)アンカー企業(大企業)の巻き込み、(4)クラスター政策の理論的強化、(5)他省庁との政策連携、の5つの視点を軸に政策を展開しています。(1)については、既存のクラスター計画に加えて、地域主導型の新しいクラスター創出を図る方針です。今回のTAMAクラスターはそうしたクラスターの代表例です。なお、新産業創出・育成を見据えた先導的クラスターについては、国主導で進めています。

TAMA協会、TAMAクラスターのこれまでの経緯

岡崎 英人写真スピーカー:
TAMAクラスター事業に最初にかかわったのは14年前。東京都多摩地区、埼玉県南西部、神奈川県中央部と、国道16号線にまたがる地域です。当初はたまご型をしていました。発案者はモデレータの児玉氏です。1998年に任意団体として設立。2001年には社団法人化、2010年には公益法人改革の中でいち早く一般社団法人への改革を目指しました。産学官の連携事業ですが、途中から金融機関も入り、今では産学官金の活動として展開しています。良いモノであっても売れない、逆に売れたモノが良いとされる時代において、海外展開を含めた販路開拓に特に力を入れています。

産業クラスターの新展開として、域内の43の自治体を集めて「首都圏西部地域産業活性化協議会」を設立。地域主導型クラスター認定の条件となる、都道府県をまたがる連携的かつ広域的な基本計画の策定を目的としています。昨年まではネットワーク助成金が主な財源でしたが、今年からは活性化支援事業の一環として、地域企業立地促進等補助金を受けて事業展開をしています。短期間に自治体同士で一致団結できた背景には、「多摩シリコンバレー構想」などを軸とした、東京都と地域自治体との長年にわたる継続的な連携の積み上げがあります。たとえば、東京都の「都市機能活用型産業振興事業」。これはシリコンバレー構想の1施策ですが、ロボット、電子デバイス、計測分析器の3つの分野のうち、計測分析器の分野においてTAMA協会が採択されました。また、関東経産局のきめ細やかな支援も早期の協議会発足に貢献しました。

首都圏西部地域広域基本計画に実現に向けて実施していく事業としては、「環境ものづくり推進事業」、「海外展開・販路開拓支援事業」、「経営課題解決支援事業」の3つがあります。そのうち、「環境ものづくり推進事業」は、TAMA協会が2008年に策定した第3期5カ年計画のメイン事業に相当し、国から活動費が出ています。

TAMA協会の海外展開

海外展開をする上では、TAMA協会と同等の支援活動を展開するカウンターパートの存在、海外においてTAMA協会と海外の支援機関に精通しているコーディネーターの存在、ビジネスマッチングを中心とした交流、の3つが重要です。これまで、イタリア、韓国、北米(シアトル)、中国(上海)、台湾において、この条件を満たす環境を見つけることができました。

海外展開は1日にして成らず――です。まずはカウンターパートを見つけ、信頼関係を構築すること、それから良きコーディネーターを発掘し、これとも信頼関係を築く必要があります。加えて、双方にメリットのあるビジネスマッチングのスキームを描く必要があります。また、海外展開のシナリオを事前によく練ること。そして最も重要なのが、マッチング後のフォローです。

1.イタリアの交流事業
2004年度、2005年度のジェトロのLL(local to local)事業を活用して交流を始めました。この事業を活用して、ヴェネト州生産センター(CPV)やヴィチェンツァ商工会議所、現地コーディネーターの発掘をしました。さらに2006年には研修生としてマルコ・バッティロッティ氏がTAMA協会に派遣されてきました。なお、同地では2009年から新しいプログラムTMD DEMOTECHが立ち上がっています。中小企業の相談に対し、技術や素材からデザインまで、ワンストップで提携先(の組み合わせ)を紹介するマッチングプログラムです。そこと何とか連携できないかということで、2009年からさまざまな試みをしています。

2010年のイタリア交流事業は、21年度の補正予算「地域産業集積海外展開支援事業」から予算が出ています。イタリアに対する製品の売り込みとDEMOTECHの技術登録の2つを主な目的としています。ヴェネト州だけでなく、トリノ、ミラノ、ジェノヴァなどイタリア北部全域で各参加企業が個別に商談を展開しました。

コーディネーターが事前に日本企業を訪問して、製品の特徴やイタリア企業に対する要望などに関してヒアリングを行い、適切なイタリア企業をマッチングした結果、密度の高い商談が実現しました。日本企業9社が延べ60社のイタリア企業との面談したうち、見積もりサンプル依頼が来たのが5社、自社ブランドとしての販売希望が2件、連携継続希望が19件と、手ごたえのある成果が得られました。特に参加企業から3社がDEMOTECHの専門家の前で自社製品・技術のプレゼンを行ったところ、それが予想以上に高く評価され、DEMOTECH側より展示室の一角に「TAMAコーナー」を設置することを提案されました。

2.上海交流事業
発端は2002年ですが、本格的なビジネスマッチングが始まったのは2007年です。ネットワーク補助金だけでは活動費を十分にまかなえないため、2007年は貿易研修センター、2008年は東京都、2009年は関東経産局の支援を受けて、交流に向けたレベルアップを図りました。その結果、2009年12月に上海市工商業連合会との覚書の締結に至りました。

2009年の「環境ものづくり推進事業」発足に合わせて、TAMA協会による上海交流事業、関東経産局による関東環境力ビジネスフォーラムなど既存の事業を統合した「環境ビジネスフォーラム」を立ち上げました。さらに、これを機に環境技術推進と上海交流事業との一体化を試み、2009年11月に上海ビジネスマッチング会、さらに2010年3月にフォローマッチング会を開催しました。

2009年11月のマッチング会では、日本企業8社と上海企業30社が参加し、総数64件の商談のうち3社については先方企業とのマッチングの可能性が高いとして、フォローを行いました。また、2010年3月より、上海市工商業連合会ビル内にTAMA協会の事務所・展示室(約15社分)を開設しています。

上海企業とビジネス連携するまでの流れは、主に「調査」「コーディネーション」「コンサルティング」の3つの段階に分かれます。「コーディネーション」のうち中国企業との連携を決断するところまでは無償でサポートしますが、それ以降はコーディネーター法人と有償で契約を結ぶ形となっています。TAMA協会上海ビジネス研究会への入会、続いて上海市工商業連合会(とその下部組織である環境保護産業商会)を軸とした、上海事務所によるコーディネーションとマッチング。2010年度の交流スキームは大体そうした構想となっています。

1つの成功事例として、金鈴精工株式会社(青梅市)の例があります。将来の持続的成長を図る観点から、20年度に上海ビジネス研究会に参加、それから3度の中国訪問を経て今年6月の契約成立に至りました。提携先は、フェンシング関係の装備品を一体的に生産する上海の企業(国際フェンシング連盟HP掲載メーカー)です。中国企業では造れない、剣先を金鈴精工が提供することになりました。日本法人が製品を円建てでコーディネーターに販売し、それをコーディネーターが中国企業に元建てで販売することで為替リスクをゼロにする工夫をとっています。

さらに、今後の活動として、補正予算を使った上海での商談会開催のほか、自治体からの委託事業として実施している地域特産物の展示があります。特に、帯広市からの受託事業である「帯広 City Sales in Shanghai」という企画では、帯広市の特産品や環境製品のPRのほか、中国人観光客向けのツアーの開催や企業誘致活動を展開したりしています。

おわりに――中小企業の海外展開に必要なもの

主に3つのポイントが挙げられます。1つ目は、事前に海外展開のプランをしたたかに描くこと。日本で実績を上げているビジネスをどう海外向けにカスタマイズするかを緻密に考える必要があります。2つ目は、海外企業との連携で難局を乗り越える視点。言葉の違い、税制などのビジネス環境の違いに伴う困難を乗り越える上で、信頼できる現地企業との連携は大変有効です。3つ目は支援機関の積極的な活用。中小企業1社であらゆる探索・調査を行うのは時間的にも経済的にも困難なので、支援内容をよく見極めながら支援機関を活用する能力が求められます。

コメンテータ(原山氏):
TAMAクラスターは年々進化しています。政府の施策では常に「自立化」が焦点となりますが、その上でTAMAクラスターの事例はいくつかのヒントを与えてくれます。

1つは、寄付だのみではなく自ら予算を取ってくるという視点。もう1つは、しっかりとしたビジネスプランの策定。マッチングのためのマッチングではなく、自分は何をしたいか、相手に何を与えることができるかを戦略的に描き出す必要があります。こうしたシナリオは成功例・失敗例も含めて過去の積み重ねと事例の検証があってこそ描けます。また、同じ担当者が同じ部署で継続して従事することも信頼性構築の上で重要です。また、帯広市などTAMAとまったく関係の無い地域に横展開する観点も、自立化の上で重要な点と見受けます。こうしたノウハウをシェアできる個人ベースの場が切望されます。

さらに「先導的」「地域主導型」の2つの類型のクラスターに対する言及がありましたが、クラスターとしての本質にはたして違いはあるといえるのでしょうか。逆に、TAMAの事例のように、地域に根ざしながら海外展開もするクラスターがあるのなら、あえてカテゴリ化をする必要は無いといえます。なお、先端的クラスターの場合は、政府主導の色合いが濃くなりますが、そこでもあくまでもベースとなるのは地域のポテンシャルです。そうした意味でも2つの類型を区別する必要はいずれ無くなります。むしろその方が将来的には望ましいと思われます。

質疑応答

Q:

補助金が停止した後の運営見通しは。

特にイタリアのマッチング事業において、途中からコーディネーターに主導件を移行する理由は。

海外展開において、逆に相手国の方からTAMAに製品を売り込んできた例は。

地方自治体からの委託事業に関する最近の動向は。

A:

ネットワーク補助金はいつか無くなるという想定でいます。ですので、これまで構築してきたモデルを横展開して事業収入を得る方法を模索しています。さまざまな事業収入の積み重ねから、補助金が無くなっても2、3年は操業できる見込みです。商談がある程度まで進むと、それ以降は法人化したコーディネーターと個別契約を結ぶ形に移行しますが、これは実際には移行というよりは、フォローアップ目的のための制度的調整といえます。ただ、上海については商談の数の多さから当方もある程度かかわりを持ち続けます。また、イタリアにしても上海にしてもwin-winの関係ですので、向こうから日本進出の依頼が来ることもありますし、当方としても相手側と同様の対応ができる体制となっています。自治体からの委託事業は増加傾向にあり、昨年は6000万円の収入となりました。一方、会費収入は2700万円と頭打ちです。リーマンショック以降、年間7万円の会費の負担を訴える企業が増えていますが、会費を引き下げるのは躊躇されるところです。

コメント:

フランスでもさまざまな地方自治体が海外に拠点を置いていますが、その多くがショーウィンドウとしての域を出ないのが実態です。ビジネス主体ではなく、あくまでも政府機関なので、踏み込んだアクションがなかなかとれない。その点、TAMAクラスターは地方自治体ではなく、ビジネス連合であるTAMA協会が主導しているのが成功の裏にあると思われます。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。